【台湾最南端の民謡の祭典!】地元で受け継がれてきた恆春民謡。屏東半島歌謠祭を密着レポート!

公開日 : 2022年04月27日
最終更新 :
屏東半島歌謠祭の様子と、イベント限定オリジナルグッズ
屏東半島歌謠祭の様子と、イベント限定オリジナルグッズ

さまざまな民族が暮らす台湾最南端の屏東県恆春鎮。ここには古くから伝わる民謡があります。今回は、2022年3月18日から20日まで行われた民謡の祭典「屏東半島歌謠祭」に参加してきたその様子をレポートします!地元住民1000人以上による盛大な合唱は、思わず筆者も涙腺崩壊でした〜!

恆春ってどんなところ?

恆春ってどんなところ?
恆春へ向かう車窓。フォトスポット看海美術館へは「車城農會」下車徒歩約25分

●恆春へのアクセス
台北から台湾新幹線(高鐵)に乗って約1時間半で台湾南部の港町、高雄(高鐵左營駅)に到着します。高鐵左營駅から大型バス(台灣好行 墾丁快線)に乗り換え、さらに2時間ほど南下。台湾最南端に位置する屏東県の恒春鎮が今回の舞台です。バス停「高鐵左營站」から「恆春轉運站」まで片道361元(約1587円)、ICカード利用の場合片道317元(約1394円)。途中、車窓からはマンゴーの産地・枋山や、エメラルドグリーンの大海原が流れ、南国ムードに胸が弾みます。

右上:南門。左下:イベントの開催地・西門。右下:旗取り祭会場
右上:南門。左下:イベントの開催地・西門。右下:旗取り祭会場

●恆春(ヘンチュン)とは?
恆春は、平均気温が20度前後で一年を通して春のような陽気であることからこの名前が付けられました。恆春半島では、毎年10月から翌4月頃まで強い季節風が吹き、地元では「落山風」と呼ばれています。屏東半島歌謠祭の舞台となる恆春古城エリアは、墾丁国家公園の玄関口。台湾映画『海角七號』の舞台になったことでも知られています。車で15分ほど南下するとビーチリゾート墾丁がありマリンスポーツのメッカとなっています。

恆春の最も特徴的な風景といえば、1875年から4年の歳月をかけて築かれたという城壁や、東西南北に城門が残っていること。これらは国家第二級古跡に指定されています。城門は台北や台南などにもありますが、ここまで保存状態がよいものはなかなか出会えません。城壁の上は歩くことができ、朝夕は風が心地よいことから、地元住民のお散歩ルートになっているようです。城壁を歩いていると、台湾の中元節(旧暦7月15日)に行われる伝統行事、旗取り祭(豎孤棚)の会場を見ることもできました。

右上:タマネギを使ったエッグロール。下:港口茶は茶摘み体験も!
右上:タマネギを使ったエッグロール。下:港口茶は茶摘み体験も!

恆春の名産品といえば、海の潮風や気候を活かして作られたタマネギやダイコンが有名です。タマネギは甘味が強く、ダイコンは辛味があり味が濃いのが特徴です。タマネギを使ったエッグロールや、日干し大根(蘿 蔔乾)はおみやげに人気です。また、恆春半島の東側エリアでは、海からほど近い低い海抜で「青心烏龍」が栽培されており、「港口茶」と呼ばれています。緑茶製法で作られ、独特な苦味を感じるお茶のため、冷やして飲むとスッキリしていて夏場にぴったり!生産量が少ないことからやや高値で販売されていますが、他エリアではあまり手に入らないので見かけたらマストバイです。この港口茶、少々クセがあることで知られているのですが、産地で採りたてを頂いたらそのフレッシュさにびっくり!ぜひ現地で試していただきたい一品です。

恆春民謡と屏東半島歌謠祭

恆春民謡と屏東半島歌謠祭
恆春老街には伴奏楽器・月琴をあしらった装飾があちらこちらに

●この土地に伝わる「恆春民謡」とは?
民謡は、その土地の人々の暮らしや文化を歌い、大切に継承されてきた貴重な財産です。特に恆春は原住民や客家の人々なども多く暮らしていることから、互いの文化が融合した独自の民謡が構築されてきました。その歴史は200年以上と言われ、屏東県の重要無形文化資産に指定されています。

恆春民謡は7種類の曲調があり、歌い手が思いおもいの歌詞をのせて、主に台湾語(ホーロー語)で歌い上げます。例えば、最古の曲調である「牛母伴」は、原住民(パイワン族)の曲から派生した切なく悲しいメロディー。「四季春」は、恆春の春のような穏やかな曲調。「思想起」は、恆春民謡の歌い手である陳達氏によって1960年代に台湾で大ヒットしたことから最も知名度が高い曲調です。日本統治時代に“流し”がよく歌った「楓南小調」などもあり、バラエティ豊かです。

周辺には台湾各地から集まった屋台がずらり
周辺には台湾各地から集まった屋台がずらり

●屏東半島歌謠祭とは
屏東半島歌謠祭は、2018年にスタートした屏東県政府主催の民謡フェスティバルです。伝統的な民謡をベースに、ミュージシャンがアレンジした楽曲を披露するほか、地元住人によるダンスや屏東のオーケストラによる特別講演が行われました。過去には、日本のギターリストである渥美幸裕さんもゲスト出演したことがあるそうです。入場料はなんと無料!舞台の前には夜市などでよく見かける赤いプラスチックチェアが並べられ、自由に鑑賞できます。コロナ禍という時期的なものもあると思いますが、観客は地元の家族連れが多く、幅広い世代の人々が集まっていました。若者でにぎわう音楽フェスというよりは、地元のお祭りに家族で足を運んで音楽をゆっくり聴いているといった、終始和やかな雰囲気に包まれるイベントでした。

出演アーティストの一部(写真提供:半島歌謠祭)
出演アーティストの一部(写真提供:半島歌謠祭)

●話題のアーティストがこの日のために作り上げた民謡を披露
毎回さまざまなゲストを迎えている屏東半島歌謠祭ですが、今回特に話題となったのは、今夏のフジロックフェスティバルへの出場を予定している高雄出身の3ピースバンド「Elephant Gym(エレファントジム)」と、台湾のヒップホップシーンを牽引する台北出身のラッパー「李英宏(リーインホン)」です。Elephant Gymは“守牛調”を、李英宏は“牛母伴”を披露しました。伝統的な民謡の曲調をベースに、独自の要素と融合させて、さすがのパフォーマンス!個人的には、最終日に演奏した多民族の音楽文化を取り入れている「大地之歌樂團 Sonus de Gaia」も街の雰囲気にマッチしていて引き込まれました!

地元のおばさんたちによる詩市場の様子
地元のおばさんたちによる詩市場の様子

●民謡の歌い手が披露する「詩市場」
「詩市場」は、自分たちで育てた農作物や伝統的な風習をテーマに、おばさんたちが即興で民謡を披露しました。会場では、おばさんが育てた青草茶、港口茶、黒豆なども販売されました。林秋月さん(写真右上・左)は、有機稲作が盛んな恆春鎮龍水社区で暮らし、観光ガイドをしながら地域の魅力を発信しています。今回は“四季春”にのせて、地元の山や海、空気の美しさを歌い上げました。黃却銀さん(写真右上・右)は、月琴を弾きながら、自身で育てた青草茶をテーマに歌いました。黃さんは両親の民謡を聞いて育ち、民謡大会でよい成績を収めたこともありますが、自身がここまで深くのめり込むとは思っていなかったそうです。民謡には楽譜がないため、歌を聞いてメロディーを覚えていったとのこと。現在黃さんはコミュニティカレッジにて、民謡や月琴を教えているそうです。「民謡は年齢や人生経験によって、同じ曲調でも全く違う歌になる」とおっしゃっていたのが印象的でした。

下:影絵の「朵朵的禮物光影戲」(写真提供:半島歌謠祭)
下:影絵の「朵朵的禮物光影戲」(写真提供:半島歌謠祭)

●絵本『朵朵的禮物』(ドードーダリーウー)を影絵で表現
『朵朵的禮物』は、屏東縣滿州鄉民謠協進會と地元の青年団が共同制作した絵本であり、恆春半島の東側地域で歌われた滿州民謠をテーマにしています。少女(菲菲)と、片耳ウサギのぬいぐるみ(朵朵)が、耳と歌を探す旅に出かける物語。絵本には風や波の音を収録したオーディオブックが付きます。

絵本作家の楊雅儒さん(写真右上の右)は、新竹出身。恆春の気候や人々の暖かさにひかれて3年前に恆春へ移住しました。この絵本は、地元住民へインタビューを重ね、時間をかけて作られた作品です。地元のおばあさんにインタビューをする中で、昔の女の子は青春時代を経験しない13、14歳で強制結婚させられていたという話を聞き、失われた青春時代を感じられるような、地元のおばあさんたちに贈る気持ちで制作したとのことでした。楊さんが作ったストーリーに合わせ、黃可樵さん(写真右上の左)がサウンドを担当しました。サウンドエンジニアやライブ音響の経験を活かし、自身が好きなレゲエの要素も取り入れながら作られたそうです。この本を通じて伝統音楽を知ってもらえたらとおっしゃっていました。

今回のイベントでは、この絵本をもとに、現代人形劇で注目を集める無独有偶工作室劇団と、地元の小中学生による影絵が上演されました。人形の操作、声、シーン展開などは全て子供たちによるものです。

地元の子供たちと陳英さん(写真提供:半島歌謠祭)
地元の子供たちと陳英さん(写真提供:半島歌謠祭)

●メインイベント「半島火花」は圧巻!
屏東半島歌謠祭に来たなら絶対見ておきたいのが、地元の子供たちや民謡の歌い手が1000人以上参加する大迫力のパフォーマンスです。子供たちはこの日のために幼稚園や小中学校で歌や月琴の練習を重ね、伝統民謡の“守牛調”と、イベントのオリジナルソング“半島風聲相放伴”を体全体で歌い上げました。その後、人間国宝級の陳英さんによる“思雙枝(思想起)”へと続き、筆者は涙腺崩壊。まさに魂に響く歌声であり、台湾語が聞き取れない私でも自然と胸が熱くなるものがありました。さらに、台湾を代表する台北フィルハーモニー管弦楽団(台北愛樂管弦樂團)の特別公演へ。最後は子供たち、民謡演奏家、台北フィルハーモニー管弦楽団による「恆春四景」が演奏されました。今後も後世に永く伝承していくであろう、恆春民謡の力強さを感じさせる素晴らしい楽曲でした。

ぜひ生で聴いてほしいですが、下記からも少し試聴ができますのでチェックしてみてください。

■千人傳唱百人彈唱+半島風聲相放伴20211107
・URL:  https://youtu.be/IPomlavhQc0

※半島歌謠祭の様子は、公式YouTubeチャンネルやFaceBookからも確認できます。
・URL: https://www.youtube.com/channel/UCxR6LPDWvN52PwalWqjI5VQ/
・URL:  https://www.facebook.com/folkerisland/

おまけ:恆春古城エリアのおすすめスポット

おまけ:恆春古城エリアのおすすめスポット
ゲームを交えながら散策。地元の人々との交流も楽しめます

●ガイドと一緒に巡る恆春老街&朝市
恆春老街に店を構える「森社場所」では、恆春老街や朝市を散策するガイドツアーを開催しています(中国語・英語のみ)。ローカルな街中を地元ガイドと歩きながら、ローカルフードに舌鼓。日本統治時代の写真と見比べながら、建物の歴史を学べる濃厚なツアーでした!森社場所では、港口茶や蘿蔔乾など地元のみやげ品も販売しているので、ここでおみやげもゲットできます。

■森社場所(センシャチャンソウ)
・住所: 屏東県恆春鎮中山路39號
・営業時間: 月・木・日10:00〜18:00、金13:00〜21:00、土10:00〜21:00
・定休日: 火・水
・URL: https://sansir.uukt.com.tw

ひとり旅にもうれしいセットメニュー
ひとり旅にもうれしいセットメニュー

●地元食材が味わえる創作料理店
季節の地元食材を使った創作台湾料理が味わえる人気店。切り盛りするのは、明るく元気に迎えてくれる美花さん。おすすめは、地元名産の港口茶で煮た豚の角煮、ピーナッツ豆腐などがセットになった私房港口茶滷肉定食310元(約1356円)。濃厚なバニラアイスに、地産タマネギで作ったエッグロールをトッピングした恆春聖代130元(約569円)も美味。地元蜂蜜農園のハチミツを入れているのもポイントです。今回の民謡イベントに合わせた期間限定のスペシャルセット「#好好吃頓恆春飯」350元(約1533円)も登場!お母さんのレシピを参考にアレンジした料理の数々は、どれも絶品でした。美花さんは日本でのワーホリ経験があるため、日本語がとてもお上手ですよ。

■好好吃飯Jiăhó(ハオハオツーファン ジャーホー)
・住所: 屏東縣恆春鎮東門路2巷19號
・営業時間: 12:00〜15:00、17:30〜20:00
・定休日: 水
・URL: https://www.facebook.com/jiahoplace

古民家を改装した店内。国内外で収集した骨董品や家具が並ぶ
古民家を改装した店内。国内外で収集した骨董品や家具が並ぶ

●恆春の海や山でピクニックはいかが?
フランスの化粧品メーカーで働いていたというVenusさんのセンスが光るレンタルピクニック兼カフェ。恆春半島の自然をもっと楽しんでほしいという願いを込めて、2020年9月にオープンしました。店内にあるバスケットや椅子、敷き布などをレンタルしてピクニックを楽しめます。2名分の食事付きバスケットセット4時間600元(約2636円)〜。私たちは西門の上でピクニックをしながら、民謡イベントを楽しみましたよ。晴れた日には山や海で野点をしても気持ちがよさそうです。店内ではカフェメニューも楽しめ、この日は台東の有機紅茶に自家製イチゴジャムを入れた自釀草苺紅茶120元(約527円)をいただきました。

■野餐Picnic(イエツァン ピクニック)
・住所: 屏東縣恆春鎮東門路124號
・TEL: 08-888-2697
・営業時間: 11:00〜17:00
・定休日: 火・水
・要予約
・URL: https://www.facebook.com/KentingPicnic/

コンクリート打ちっぱなしのおしゃれな外観
コンクリート打ちっぱなしのおしゃれな外観

●恆春に来たならば、海が見える民宿へ
全室オーシャンビューのこちらの民宿は、恆春古城エリアへは車で15分、ビーチリゾートへは車で10分という便利なロケーション。設計は「i²建築研究室」が手がけ、「光」をテーマにしています。客室ごと、フロアごとにデザインが異なるので、訪れるたび違う雰囲気を味わえますね。朝食は、海が見渡せるダイニングで季節の食材を使った料理をいただけます。

■光現旅宿(グアンシエンリュースー)
・住所: 屏東県恆春鎮大光里大光路78-6號
・TEL: 08-886-7768
・料金: 2539元〜(朝食付き)
・URL: http://www.the-light.com.tw

一度は訪れていただきたい、恆春

一度は訪れていただきたい、恆春
恆春の街角にて

筆者は3度目の恆春でしたが、いつ訪れても素朴で穏やかな街の雰囲気が心地よく、迎えてくれる人々も気さくで、とても過ごしやすい街です。あまりに居心地がよすぎて、予定より1泊長く宿泊しました。鉄道駅がないので、少しハードルが高いと思われるかもしれませんが、高雄から大型バスに乗るだけなので、あまり台湾に慣れていないという人でも楽しめるのではと思います。現地での交通は、恆春古城エリアであれば徒歩かレンタサイクル、少し遠出するのであればバスもしくはタクシーチャーターがおすすめです。ディープな旅が好みの方は、少し足をのばして港口茶の産地「港口」や、台湾特有の梅花鹿と触れ合える「鹿境」、日本との関わりが深い「高士神社」へもぜひ。次回の屏東半島歌謠祭では、日本をはじめ世界各国からアーティストや観客が集まり、魅力あふれる恆春半島をのんびり旅してほしいなと願うばかりです。

今すぐ台湾に行けなくても、まずは東京で予習トリップ!

台湾への旅が再開したら、台北や高雄はもちろん、魅力的な地方都市へも足を延ばしたいものですね。まずはその前に、東京&近郊やおうちで台湾カルチャーをおさらいする旅はいかが?『aruco東京で楽しむ台湾』では、東京で味わえる本場さながらの台湾料理レストランや、台湾ミュージックのおすすめまで徹底紹介!

※当記事は、2022年4月25日現在のものです

TEXT、PHOTO: トラベル・キッチン大西稚恵

〈地球の歩き方編集室よりお願い〉
2022年4月25日現在、国によってはいまだ観光目的の渡航が難しい状況です。『地球の歩き方 ニュース&レポート』では、近い将来に旅したい場所として世界の観光記事を発信しています。渡航についての最新情報は下記などを参考に必ず各自でご確認ください。
◎外務省海外安全ホームページ
・URL: https://www.anzen.mofa.go.jp/index.html
◎厚生労働省:新型コロナウイルス感染症について
・URL: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
旅したい場所の情報を入手して準備をととのえ、新型コロナウイルス収束後はぜひお出かけください。安心して旅に出られる日が一日も早く来ることを心より願っています。

【記載内容について】

「地球の歩き方」ホームページに掲載されている情報は、ご利用の際の状況に適しているか、すべて利用者ご自身の責任で判断していただいたうえでご活用ください。

掲載情報は、できるだけ最新で正確なものを掲載するように努めています。しかし、取材後・掲載後に現地の規則や手続きなど各種情報が変更されることがあります。また解釈に見解の相違が生じることもあります。

本ホームページを利用して生じた損失や不都合などについて、弊社は一切責任を負わないものとします。

※情報修正・更新依頼はこちら

【リンク先の情報について】

「地球の歩き方」ホームページから他のウェブサイトなどへリンクをしている場合があります。

リンク先のコンテンツ情報は弊社が運営管理しているものではありません。

ご利用の際は、すべて利用者ご自身の責任で判断したうえでご活用ください。

弊社では情報の信頼性、その利用によって生じた損失や不都合などについて、一切責任を負わないものとします。