一生に一度は出会いたい! 『日本の凄い神木』究極の5柱

公開日 : 2022年10月25日
最終更新 :

日本にはそれに会うこと自体が旅行の目的になる“凄い神木”が多数存在する。それはただ巨大なだけでなく、地元に住む人々の暮らしを見守り、尊敬を集め、訪れる人々に驚き、畏怖を与えてきた。この記事では発売中の地球の歩き方旅の図鑑シリーズ『日本の凄い神木』より著者がピックアップした神木をお届けします。

時代を超越した「大杉」の存在感 石徹白のスギ

時代を超越した「大杉」の存在感 石徹白のスギ

巨樹・御神木を追い求める人たちの間で究極の一本は何かという話題になれば、必ず登場する木でしょう。巨樹マニアにとって、一度は拝見してみたい憧れの存在です。しかし、出会うのは簡単ではありません。何しろそれは、秘境と呼ばれる岐阜県郡上市白鳥町石徹白からさらに山中に分け入った場所にあるのです。

秘境の聖地・白山中居神社から林道を車で25分。白山登山口(石徹白口)から長い石段を登りつめると、見たことのないモノがあらわれます。もはや木というより巨大な壁のよう。凄まじい樹肌の風合いは、老齢を極め、時代を超越したものだけが醸し出すナニモノかでしょう。

伝承によれば、聖地白山を開いた泰澄大師(687-767)が立てた杖が生長したものといいます。約1300年前のことです。ところが専門家によれば、1800年から2000年の樹齢を数えるとも。かつて聖なる白山を目指す美濃禅定道の二十八宿のひとつ「今清水」があったとされ、山伏行者らがここで大杉を拝してその神気に浴し、霊水をいただいて鋭気を養ったといわれています。

独特の白い木肌は幹の枯死によるもので、ここに至るまでの気が遠くなるほどの時間を思わせます。そんな歴史の末端でこの木を見上げ、「大いなる生命」と出会う体験は、かけがえのない記憶として心に刻まれることでしょう。

データ/国指定特別天然記念物。推定樹齢1800年余り、幹周り13.5m、樹高21.5m
アドレス/岐阜県郡上市白鳥町石徹白 白山登山口(駐車場あり)

離島の自然が生んだ異形の神スギ 岩倉の乳房杉

離島の自然が生んだ異形の神スギ 岩倉の乳房杉

一生に一度は見てみたい離島の巨樹といえば、まず思い浮かぶのは屋久島の「縄文杉」ですが、ここてはあえて、隠岐諸島・島後島の神スギを紹介しましょう。

松江市七類港からフェリーで2時間半。西郷港に近づくと島の主峰・大満寺山が見えてきます。目指す御神木はその北麓、港から見れば反対側の山の斜面にあります。
車で進むこと約1時間。林道の脇に案内板があらわれ、車を停めて道路わきの「岩倉神社」の鳥居へと向かいます。すると、霧が立ち込めるひんやりした空気の中、20~30メートル先に一本の巨木がそそり立っていました。何という異相! 思わず声が出る怪物さながらのビジュアルです。岩倉神社とありますが、あるのはこの木だけ。周囲はゴロゴロした熔岩(玄武岩)とシダ植物に覆われ、さながら異世界に紛れこんだよう。そんな神秘的な場の御神体としてそびえるのがこの神スギなのです。

通称・乳房杉(ちちすぎ)。その名のとおり大小24を数えるという“乳房”を垂らし、おびただしい数の幹を分岐させています。“乳房”は正しくは下垂根といい、根を張って生長するには厳しい環境にあって、霧が多く発生する環境に適応し、空中に根を垂らす特異な生態を発達させたといわれています。その不思議な形状といい、稀に見る大きさといい、場の雰囲気といい、まさにワンアンドオンリーの御神木といえるでしょう。

データ/島根県指定天然記念物、樹齢800年、幹周り9.6m、樹高38m
アドレス/島根県隠岐郡隠岐の島町布施(「岩倉の乳房杉」で検索)

12本の枝幹は山の神様の証 十二本ヤス

12本の枝幹は山の神様の証 十二本ヤス

青森県の津輕鉄道線「金木」駅から車で約20分。ナビがなければ不安で引き返したくなるような山道脇の森の中に、その怪樹がそびえ立っています。

この木もまた、一度見たら忘れられないインパクトです。赤い鳥居が立てかけられた幹はいったん鳥居上部ですぼまり、人の背丈を超える高さのあたりからぐっとエネルギーを溜め込むように膨張し、そこから12本の枝幹を一気に天に向けて分岐させています。ちなみに、樹種はヒノキアスナロ(一般にはヒバの名で知られています)。十二本ヤスの「ヤス」とは魚を突く漁具のことで、その形状を思わせることに由来します。

伝説によれば、ある若者が山の魔物にひと泡吹かせようと山に入り、夜更けにあらわれた魔物をマサカリで一撃。ギャーという悲鳴とともに白い毛の大きな老猿が地面に転がり出てきました。村人らは大猿(山の神の化身)の祟りを恐れ、ヒバの若木を植えて供養。するとその木は生長し、12本の枝幹を直立させる異様な姿となったとのことです。

注目は「12」という数字。実は、山の神は「十二様」とも呼ばれ、12の月や日は多く山の神の祭日となり、山に入ることを忌む習慣がありました。つまり、12は山の神を象徴する聖なる数字。十二本ヤスの場合、新しい枝が出ても、古い枝が枯れて決して12本以上にはならないといい、そのことが山の神の証であるとして崇められたのです。

データ/市指定天然記念物、推定樹齢800年。幹周り約8m、樹高約34m。
アドレス/青森県五所川原市金木町喜良市(「十二本ヤス」で検索)

木霊が息づく老クスのトンネル 生樹の御門

木霊が息づく老クスのトンネル 生樹の御門

広葉樹の巨樹・老木の根元には、しばしばウロ(樹洞)ができます。それは自然現象なのですが、御神木として拝まれる木の場合、ときにそこが象徴的な意味をもってクローズアップされます。具体的には、ウロの中に石仏や五輪塔、祠(ほこら)などを奉安し、礼拝の対象となっている例がしばしば見られます。

そんななか注目の一柱が、しまなみ海道で結ばれた島のひとつ大三島の名社・大山祇神社の裏手にあります。かつて神社の奥の院と呼ばれた寺院につづく参道にあらわれるクスノキがそれです。通称「生樹の御門」。その名前の通り、老クスの根元へとつづく石段がウロ(洞)を貫通して門をなしているのです。

ウロのある主幹は樹齢2000年とも3000年ともいわれ、老いを極めた木肌をあらわにしていますが、脇から伸びた副幹が太々とそびえ、枝葉を繁らせており、ヒコバエや寄生植物らもあいまってひとつの“森”を形成しています。その全体が神秘的な奇跡の景観として目に焼き付けられることでしょう。

なお、御門(ウロ)は大人が身をかがめながら楽に潜れる大きさで、ここを潜れば長生きができるともいわれています。ではなぜここに石段が通され、「門」になっているのでしょう。そこには深い意味が秘められていると思われます(詳しくは拙著『日本の凄い神木』を参照)が、まずは百聞は一見に如かず。せひ現地を詣で、潜ってみたいですね。

データ/県指定天然記念物、推定樹齢2000年(3000年とも)、根周り32m、樹高約10m。
アドレス/愛媛県今治市大三島町宮浦3202(「生樹の御門」で検索)

最果ての地に立ちはだかる妖樹 白鳥神社のビャクシン

最果ての地に立ちはだかる妖樹 白鳥神社のビャクシン

巨樹・神木のなかには、どうしてこのようなお姿なのかと、その形状に驚かされるものがあります。見たことのない、固定観念を覆すような存在を目の当たりにすると、人は感動というより、畏怖の念が先立つというもの。そんな物凄いお姿をして御神木として崇められているビャクシンの木を最後にご紹介しましょう。

伊豆半島の西南端、半島をめぐらす国道からクルマ一台がやっとの細い道に入り、たどり着いた海岸の近くに鎮座する白鳥神社。その木は、異界を思わせる最果ての森の門番としてそびえ立っていました。

何という枝ぶり。地面から2メートルほどで爆発的に分岐し、踊り狂うように枝をくねらせています。ビャクシンの老樹がしばしばそうであるように、ところどころ表皮が剥げ、滑らかな木肌をあらわにしながら無数の曲線を描いており、エネルギッシュでありながらどこか艶めかしくもある。そんな人の想像力を超えた樹相です。

白鳥神社の祭神は、日本武尊(やまとたけるのみこと)とその妃神の弟橘姫(おとたちばなひめ)。日本神話では、ヤマトタケルの東征にあたり、妃神は荒れ狂う波を鎮めるためにみずから海に身を投げたとわれ、その櫛が流れ着いたのがこの海岸であると神社では伝えています。ビャクシンはそんな由緒を伝える神社をみずから盾となって守ってきた御神木なのです。

データ/県指定天然記念物、推定樹齢約800年、幹回り約4m、樹高約10m。
アドレス/静岡県賀茂郡南伊豆町妻良1328(「吉田白鳥神社」で検索) 

全都道府県250柱の「ヌシ」を案内する新刊『日本の凄い神木』

「神仏探偵」を自称し、カミやホトケが坐す“場”を訪ねる旅の途中で、筆者の前に浮上してきたのは“木”そのものでした。それも、御神木と呼ばれる巨樹です。

よくよく考えれば、それらは、その地域でもっとも齢を重ねてきた生き物であり、「大いなるいのち」そのものでした。
私はそれらを、畏敬の念をもって「ヌシ」と呼びたいと思います。

これら巨樹・御神木との出会いは、数百年、数千年の歴史とつながる体験であり、自然や風土と結縁する体験であり、古より内なる記憶として伝えられてきた日本人の霊性を実感する体験でもあります。
もしかしたら、この「大いなるいのち」との出会いこそ、今この時代に生きるわれわれにもっとも求められていることかもしれない。そんなふうにも思うのです。

この国の「物凄い」ヌシと、ぜひ出会っていただけたらと願います。

※当記事は、2022年10月25日現在のものです

TEXT・PHOTO: 本田 不二雄

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筆者

地球の歩き方書籍編集部

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