水の島、屋久島の神木『縄文杉』と、九州最高峰の日本百名山・宮之浦岳を訪ねる旅

公開日 : 2022年11月16日
最終更新 :

『日本の凄い神木』の発刊に合わせ、10年来ずっと訪れたかったものの叶わなかった屋久島へ登山旅行をしてきました。噂にたがわぬ水の島と、その島に棲む巨木にパワーをもらえた旅になりました。

天気は曇りなのに、一歩山に入ると…。

【1日目行程】4:00安房 - 5:00淀川登山口 - 6:00淀川小屋 - 8:20黒味岳分岐 - 11:00宮之浦岳山頂 - 14:30新高塚小屋

前日、安房の民宿に宿泊し、安房川沿いの飛魚料理が充実したおいしいイタリアンレストランと地元感満載の居酒屋さんで前夜祭をし、早めに就寝。朝5時には安房側からの登山口となる淀川登山口にタクシーで到着しました。(タクシーは取りにくいので早めの予約がトラブル回避になります)
テレビの天気予報は登山日は曇り、2日目以降は晴れ予報だったのですが、高度1300メートルの淀川登山口は既に雨。いきなり水の洗礼を受けながら登山を開始します。11月上旬ですが、関東の登山者的には温度は一段高めくらいの感覚で、歩くと少し蒸し暑いくらいです。1時間ほど登山道を歩くと淀川避難小屋へ到着。前日泊まっていた登山者たちも起きだし、テントをしまうなど今日の準備をしています。町周辺のいかにも南国と言った植生は既に鳴りを潜め、ところどころの木は紅葉し、秋の山の気持ちのいい風景が広がります。

高度を上げると、紅葉も楽しめる
高度を上げると、紅葉も楽しめる

ここから高度で200メートル少し登ると、高山湿地帯・花之江河(はなのえごう)です。時期は過ぎてしまっているのですが、屋久島の固有種・ヤクシマシャクナゲ(5月~6月が見ごろだそう)が群生しており、もしシーズンにこれたらきっと疲れも飛ぶ景色が広がることでしょう。降り続く雨のせいで我々は疲れは飛びませんでしたが…。

亜熱帯的な島にこんな高層湿原があるのが不思議
亜熱帯的な島にこんな高層湿原があるのが不思議

そこかしこに水の流れがある登山道。ここからは沢の源頭部のような登山道を進んでいき、黒味岳の手前あたりから、いよいよ山の稜線歩きです。

水の流れで露頭した岩石の上で沢気分も味わえる
水の流れで露頭した岩石の上で沢気分も味わえる

空の雲も薄くなってきたようで、次第に空が明るくなってきます。まだ午前とはいえ、ここまで5時間以上。息を整えながら進んでいきますが、人も多くなく、緑の山の上に巨石が転がる日本離れした景色を見ながら歩けるので充実の山歩きが楽しめます。そろそろ山頂も見えてくるはず…。

稜線にも大きな岩石が転がり、日本離れした風景を醸し出している。どうやってこの風景が形作られたのか、考えながら歩く
稜線にも大きな岩石が転がり、日本離れした風景を醸し出している。どうやってこの風景が形作られたのか、考えながら歩く

ついに山頂に着きました。登山口から6時間、高低差というよりは水平距離の長い登山道でした。ずっと雲がかかり続けた登山道でしたが、一瞬の晴れ間が我々を労ってくれます。

高度としては700メートルも上がっていないが、横に長いので、しっかり歩いた実感があった。ここまでゆっくり歩いて7時間くらい
高度としては700メートルも上がっていないが、横に長いので、しっかり歩いた実感があった。ここまでゆっくり歩いて7時間くらい

しばらく山頂を堪能したあと、2時間半ほどかけて本日の宿泊所である、新高塚小屋(避難小屋)へ到着。そこまで広くはない小屋は人で一杯。1人分のスペースに2人で寝る状態になってしまったため、11月だというのに夜は寝袋がいらない程でした。11月の平日でこの混雑具合なので、登山者は野外でも宿泊できるよう、装備にツェルトなどを入れる必要があると感じました。食事のしたくが終わるころには外は暗闇に包まれ、18時には就寝してしまいました。寝返りもろくにうてない狭いスペースだったので夜が長かったです…。

【2日目行程】5:00 出発 -6:30 縄文杉 -8:00 ウィルソン株 - 11:00 白谷山荘 -13:30 白谷雲水峡

2日目は縄文杉を目指してくだりながら、白谷雲水峡へと下山します。宮之浦で購入したヤクシカの肉で焼肉宴会を楽しんだ前日でしたが、朝はあたたかいソーメンで手早く済ませ、朝5時には小屋を出発します。夕方から降り続いた雨は歩き始めるとすぐに上がり昨日に比べて気分も晴れやかです。まだ真っ暗な中をヘッドライトを頼りに進みます。時折目に入る木の大きさがこれから目指す縄文杉への期待を膨らませてくれます。

普通の山なら名前がついているような巨木がなにげなくたたずんでいる
普通の山なら名前がついているような巨木がなにげなくたたずんでいる

高度を下げながら1時間と少し、大きな展望スペースが見えてくると、ついに縄文杉との対面です。木までの距離は遠いのに、圧力が凄いです。長大な樹齢の木のそこここには他の樹木が着生し、一本の木なのに、森のような貫録を放っています。木に向かって右側の上部展望台に回り込んで木を鑑賞していると、縄文杉が赤く光り輝き始めます。夜明けです。この旅が始まって初めてのきれいな晴れが縄文杉だったことに、感動し、しばし写真を撮ることも忘れてしまいます。

それまで薄暗い中にズシンとそびえていた屋久杉が陽光に燃え、赤く輝き枝を広げるように見えた
それまで薄暗い中にズシンとそびえていた屋久杉が陽光に燃え、赤く輝き枝を広げるように見えた
小屋泊しないとみられないご褒美タイム。美しい景色に、長時間歩いてきたハイカーたちも静かに感動している。(写真も動画はみんな夢中で撮っている)
小屋泊しないとみられないご褒美タイム。美しい景色に、長時間歩いてきたハイカーたちも静かに感動している。(写真も動画はみんな夢中で撮っている)

今日は帰りのバスの時間が決まっているため、あまりゆっくりしている訳にもいかず、名残惜しいですが、先を急ぎます。ウィルソン株(株の中から上を見上げると、空がハート型に見えるそうですが、角度を上手に調整すると見えます)を過ぎたあたりから、登りの登山者とすれ違うようになりました。昨日と南側の登山道と比べると高度の低いエリアを進む時間が長いためか、巨木をゆっくり眺めながら歩けます。

ウィルソン株。私にはUFOに見えました
ウィルソン株。私にはUFOに見えました
トロッコが走るだけあって快速で進めるので、行きの人たちも速足です
トロッコが走るだけあって快速で進めるので、行きの人たちも速足です

トロッコ軌道が見えてくると本山行初めての長い水平移動です。日帰りの登山客でごったがえす合流点をそそくさと抜けます。団体客も多いので、急がず先に進みましょう。効率的には荒川登山口が一番ラクなのですが、屋久島が初めての我々はこの先にある太鼓岩を経由し、白谷雲水峡に下山するため、250メートルほど登り返します。長時間歩いてきたため少しめげそうになりますが、森のエネルギーを取り込んでいるのか、そろそろゴールと言う高揚感か、これまでにない速さでパーティーは登っていきます。登りのご褒美は意外とすぐにもらえました。

山行イチの青空。旅のハイライトはもしかしたら太鼓岩だったかも
山行イチの青空。旅のハイライトはもしかしたら太鼓岩だったかも

登ってきたときに見た景色を裏から眺めるのもいいもので、青空を堪能した後はあとは、もう下るのみ。高度が下がり、だんだんと上がってくる温度に半袖のまま、白谷雲水峡までひと下りです。2日間、合計19時間ほどの行程でした。

下山後は宮之浦近くの楠川温泉に立ち寄り2日間の汗を流し、宮之浦発の本日最後の高速船に乗船し、そそくさと屋久島を後にします。今回は実質1泊2日の弾丸行程でしたが、本来はもっとゆっくり沿岸部沿いの温泉や滝を巡るような行程にした方が楽しめたと思います。ですが、登山前日に屋久杉自然館に立ち寄れたこともあり、屋久杉の現在の自然が人の生活とどのように結びつき維持されてきたか、など自然を楽しむ以外の学びもあり、単なる山登り以外の感動も得ることができました。(初来島の方は登山の前に屋久杉自然館に立ち寄ることをお勧めします)次に島に呼ばれた時はシャクナゲの咲く頃がいいなぁと思いました。

【屋久島・宮之浦岳登山のためのポイントとおススメ装備】

・屋久島は月に35日雨が降るといわれるくらい多雨の島です。登山に合わせて靴を新調しようとしている方は、ローカット、ミッドカットの靴ではなく、迷わずハイカット(それもゴアテックスなどの防水性のあるもの)を選びましょう。歩く距離は長いので、近くの山での慣らしも忘れずに
・宮之浦岳の山小屋はすべて避難小屋です。こみあうことも予想されるので、ツェルトやテントなど、小屋に泊まれなかったときのリスクもヘッジしておきたいです。混んでいるときはテント泊の方が快適なこともあります。今回は雨降りの為、狭い中屋内で泊まりましたが、雨が降っていなかったらツェルトに泊まっていたかもしれません…。(ヤクシカの鳴き声と一緒に寝た方がハイカーのいびきと寝るよりいいですよね)
・炊事用のガス缶は空港だけでなく、島内のスーパーでも購入可能です。ただ、容量の小さな調味料などはあまり充実していないことも多いため、食事にこだわりたい方は自宅から登山用の調味料を運ぶことも考えましょう(お酒は地元のお酒を背負って登りたいですね。登山用のパック水筒などに詰め替えられると重い瓶を持って上がらずに済みます)
・多雨の屋久島だけあって、山行中、水には困りません。おいしい水が楽しめます。担ぎ上げてきた島のお酒を水割りなどで楽しんでみてはいかがでしょうか?(我々は雨の中登ったのでお湯割りでした)
・高度差が1000メートルなく、危険な箇所も割合少ないですが、雨への対応(天候への対応・判断)や、長い移動をこなし、避難小屋に(スペース確保できるように)転がり込む体力が必要な中級者向けのルートです。縦走山行などをある程度経験してから臨みたいところです

『日本の凄い神木』発売中

屋久島の魅力は縄文杉だけではなく、登山道沿いの巨樹や島内に存在する有名な樹木があります。発売中の『日本の凄い神木』では、地元・屋久島の山岳ガイドや山を旅する登山ガイドの方が執筆したコラムを多数収録。訪れたい日本の巨木=神木が250柱以上収録された旅を楽しくする1冊です。

筆者

上原 康仁

登山関連情報の発信が多いです。

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