都心から日帰りで楽しむ究極の御神木めぐり Vol.1 湯河原編

公開日 : 2022年12月12日
最終更新 :

地球の歩き方旅の図鑑シリーズ『日本の凄い神木』の発刊記念で、本書掲載の「神木女子座談会」にご登場いただいたお三方と、著者・本田不二雄がアテンドする「究極の神木日帰り旅」を催行しました。本稿では、そのめくるめく神木体験を3回に分けてリポートします。まずは、神奈川県の南西端、湯河原へ。(文・写真/本田 不二雄)

とぐろを巻く御神木ビャクシンに驚く

●9:00 東京・渋谷駅出発
ちなみに、今回の出席者3名は『日本の凄い神木』での座談会に参加された以下の方々です。
◎まり/アーユルヴェーダと江戸文化に傾倒する『48手ヨガ』筆者(鈴木まり)
◎きりん/土地詠みと地霊鎮めを業とするプロまじない師(占呪術師・麒麟)
◎みきえ/御神木に啓示を受けた、国産材を愛する一級建築士(柿本美樹枝)
なかなか異能のメンバーですが、彼女らが神木を前にどんな反応を見せるかが本記事のポイントです。

●10:45 湯河原・城願寺着
JR湯河原駅から徒歩約10分、湯河原の海を見下ろす高台に建つ名刹・城願寺。急な参道の石段を上ると、山門の手前左右に一対のイチョウの巨木がズドン。その奥に、こんもりとした樹冠が出現します。
「おお!」(一同)石段を上りつめた、寺域の入口で参詣者を迎える「城願寺のビャクシン」(『日本の凄い神木』未掲載)です。

①城願寺門前。一対のイチョウがお出迎え ②さっそく御神木の撮影でかじりつくまり氏 ③別角度からのビャクシン。全身をねじりながら諸手を上げるような樹相 ④ベストポジションのまり氏をはさみ、みきえ氏(右)ときりん氏(左)
①城願寺門前。一対のイチョウがお出迎え ②さっそく御神木の撮影でかじりつくまり氏 ③別角度からのビャクシン。全身をねじりながら諸手を上げるような樹相 ④ベストポジションのまり氏をはさみ、みきえ氏(右)ときりん氏(左)

大きさはもとより、大蛇がとぐろを巻くような、ねじねじ螺旋の樹相に目を奪われます。何というエネルギーでしょう。 
「うーん、懐深い、男性的な気が流れていますね」(きりん)
「気持ちがアガる! 何か覚悟を感じる御神木ですねぇ」(みきえ)
そんななか、呆然と幹を見上げているまり氏に、きりん氏が「そこ、そこがいちばん良い気をいただける場所!」とスルドク指摘。占呪術師いわく、「国指定天然記念物」の案内ポールの立つ木の北側がベストポジションで、逆に西側に立つと「自分の気が持っていかれる」とのこと。筆者としては、持っていかれるほどの神木パワーに自分を委ねたくもなるのですが(笑)、特別な木は、拝する場所(角度)によって表情を変え、印象も変わります。加えて、取り巻く気の流れも変わるということでしょうか。ともあれ、ずっと見ていても飽きない不思議な巨樹です。

①境内奥の墓所で般若心経を唱えるきりん氏 ②土肥家の墓石群。中世に主流だった五輪塔が中心 ③墓所の守護者のように立つイチョウの大木
①境内奥の墓所で般若心経を唱えるきりん氏 ②土肥家の墓石群。中世に主流だった五輪塔が中心 ③墓所の守護者のように立つイチョウの大木

おのおのスマホで撮影したり、案内板を読んだり、本堂にご挨拶したりしていると、きりん氏の姿が見当たりません。あわてて筆者が境内奥を探すと、墓地の奥で般若心経を唱えているきりん氏を発見。何とその一画は、平安時代末から鎌倉時代初期にこの地に君臨した土肥実平の一族墓でした。墓石の数66基。
「山門の両脇のイチョウから境内入り口のビャクシン、そしてここに良い気が流れています。ほら、ここにも大きな木が」(きりん)
確かに、墓所の目印のような大イチョウが大きな“乳(気根)”を垂らして聳えていました。なるほど、そういうことか……筆者ホンダは深くうなずきました。
菩提寺の境内および墓所を、見晴らしの良い、良好なコンディションに保っておく(それが結果的に子孫や領民の繁栄につながる)というのがまずはこの「場」のコンセプトでしょう。そのポイントが、境内のしかるべき場所に配された境内樹(御神木)で、先のビャクシンが境内の中心軸としてそびえ、二か所のイチョウが良い気を呼び込み、場を調えている……と。境内の御神木は、それ自身が意味と役割をなしているといえそうです。

①五所神社。御神木が威容を誇る湯河原一のパワースポット ②「五所神社の銀杏(イチョウ)」 ③「五所神社の楠(クスノキ)」 ④「明神の楠」(南西より)。奥に五所神社の鳥居が見える
①五所神社。御神木が威容を誇る湯河原一のパワースポット ②「五所神社の銀杏(イチョウ)」 ③「五所神社の楠(クスノキ)」 ④「明神の楠」(南西より)。奥に五所神社の鳥居が見える

五所神社に伝わる三柱の御神木

●11:40 湯河原・五所神社着
つづいて詣でたのは、城願寺から西へ1.4キロほどの場所にある五所神社です。ここは筆者ホンダがぜひ紹介したかった場所で、注目すべき御神木が境内とその近隣に3柱伝わっています。
まずは、駐車場の入口にて斜めにそそり立つ「五所神社の銀杏」。
幹周り8.8メートル、推定樹齢800年。まさに老大樹の貫禄といったところでしょうか。傷みも激しく、支柱の助けも借りていますが、現在も旺盛に葉を繁らせています。また、この地域では「乳柱(ちばしら)」と呼ばれているという乳(気根)をたくさん垂らしており、かつては乳の神様として信仰されていたようです。
きりん氏は「お宿りになっていますねぇ」ひと言。
次は、社殿の手前、境内の中央に立つ「五所神社の楠(クスノキ)」。
こちらは幹周り8.2メートル、推定樹齢850年とのことですが、樹高も36メートルあり、若々しさすら感じさせる見事な一柱です。
近年、インスタ撮影用(?)の「パワーの窓」が設置(枠の中で撮影するとクスノキパワーが授かるらしい)され、そのフレームには「健康・安全・勝利」のご利益が記されていました。そこでさっそく、ドライバーの運び屋H氏をモデルに撮影。このように御神木が注目されるのは近年の流れのようです。
それはそうと、自由な女子たちはどこかと探すと、きりん氏がみきえ氏を連れて社殿裏の境内林を見ていました。「ほら、あの大きな木があるでしょう。あそこに山の神の霊気が降りてくるんですよ」(きりん氏)。
そうでした。きりん氏は土地詠み(「読み」ではないらしい)、地霊鑑定および地鎮作法のプロ。放っておくとつい神域と土地神の関係はどうなっているか、ポイントとなる境内樹はどれかなどと探索を始めてしまいます。非常に興味深いのですが、収拾がつかなくなってしまうので、メンバーを再び呼び寄せ、もうひとつの御神木へと向かいます。

「明神の楠」
「明神の楠」

神社の真正面に立ちはだかる守護神

3柱目が、神社と道路を挟んだ向かいに立つ「明神の楠」。バス停に隣接し、人々が往来する場所にありながら、物凄い存在感を放っています。
「この木好き! 根元の凄いボリューミーな感じと、きゅっとくびれた感じが」(まり氏)
 案内板には、「根周り15.6メートル、推定樹齢800年以上」とあります。一般的に木のサイズは「(地上1.3メートルの)幹周り」で表示されるのですが、あえて根回りなのは、木の特徴を強調するものでしょう。もりもりと塚状に盛り上がった根元周りは圧巻です。
「明神の楠」の名は、五所神社がかつて五所明神社と呼ばれていたことによるもの。神社の正面にそびえるこの木は、御祭神が宿る特別な存在と見なされたのかもしれません。
当社は先の城願寺と同じく、土肥氏の祈願所だった神社。治承4年(1180)源頼朝が挙兵したときは、社前で盛大な戦勝祈願の護摩が焚かれたといいます。興味深いのは、この木が天然記念物ではなく、史跡指定であること。歴史の生き証人として仰ぎ見られ、崇められたことを物語っているようです。
幹の南西側に回ってみると、何とウロの開口部に赤い鳥居が建てられ、中に石像が祀られていました。
「これ何という神様ですか?」(みきえ氏)
「青面金剛(しょうめんこんごう)(庚申(こうしん))さんですね」(きりん氏)
「そう、体内の悪い虫(病鬼)を除く民間信仰の仏神です」(ホンダ)
よくよく見ていると、この木は神様を内蔵した生ける守護神のように思えてきます。おそらく、五所神社にお参りする人は、まずはこの御神木を参拝して厄払い(祓い)をしたのでしょう。そして今もその信仰は保たれているようです。
「皆さんにとても大切にされている感じが伝わってきますね」(きりん氏)
 さて、しみじみと味わい深い巨樹を後にしたわれわれは、次に熱海のパワースポットへ向かい、あの御神木に相まみえるのです。(②につづく)

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筆者

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1979年創刊の国内外ガイドブック『地球の歩き方』のメディアサイト『地球の歩き方web』を運営しているチームです。世界約50の国と地域、160人以上の国内外の都市のスペシャリスト・特派員が発信する旅の最新情報をお届けします。

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