No.459テーマは『愛』、ルーヴル・ランス美術館のエキスポ紹介
第二のルーヴル誕生から6年
ルーヴル・ランス美術館
ルーヴルの名を冠する二つ目の美術館としてルーヴル・ランス美術館が誕生してから、この年末で6年になります。
古代から19世紀までの美術作品を時代軸に沿って鑑賞できる常設展「時のギャラリー」に加え、様々な視点から美術品を整頓して見せる特別展は、毎回話題を呼んで、多くの観客を国内外から呼び寄せています。
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最新企画のテーマは「愛」
ルーヴル・ランス美術館アムール展ポスター
そのルーヴル・ランス美術館の今季の企画テーマは、ずばり、「愛」。
「愛」と一言でいっても、その形、また、社会的な位置づけは、時代とともに大きく変化してきました。この特別展では、主に西洋における「愛」の価値の変遷を、美術作品のみならず、文芸作品や音楽作品を通して明らかにします。
7部に分けられた時代ごとの題目は、誘惑・崇拝・情熱・恋愛関係・歓喜・融合・自由というものです。
男をたぶらかす存在としての女性
Giuseppe della Porta Salviati, "Adam et Ève" (1526-1550頃) Toulouse, Musée des Augustins, © STC - Mairie de Toulouse
例えば、聖書のイヴとアダムの話を見ても、ギリシア神話のパンドラの話を見ても、古来、女性は「男性を誘惑し、災いをもたらすもの」として捉えられてきました。
イヴがアダムをそそのかして禁断の果実を食べたがために二人は楽園を追われる羽目に陥るわけですし、パンドラの誘惑にエピメテウスが抗えなかったがために、その後パンドラによりこの世に厄災が広められてしまった、というわけです。
James Pradier, "Satyre et bacchante"(1834)Paris, Musée du Louvre (Paris, RF 3475) © Musée du Louvre, Dist. RMN-GP / Hervé Lewandowski
男にとって、女とは、男らしさを失う原因となりかねない存在で、ある意味苦悩の元として捉えられていたのです。そのねじれた欲望は、しばしば相手を屈しようという征服欲という形を取ります。ギリシア神話には、誘拐や拉致の話が多く、それらの場面は、多くの美術作品に取り上げられています。
崇拝の対象になった母性
キリスト教の広まりにより、女性性に、再び価値が認められるようになります。そのカギとなったのは、聖母マリアです。純潔性と母性を兼ね備える存在として、崇拝の対象となったのです。ただし、言いかえれば、認められた価値はその二点だけだったわけです。その証拠に、キリスト教において、肉欲は7つの大罪のひとつとみなされることになります。
アラブとアンダルシアの詩がもたらした情熱
Les Joueurs d'échecs(15世紀)ステンドグラス, Paris, musée de Cluny - musée national du Moyen-Âge © RMN-GP (musée de Cluny - musée national du Moyen-Âge) / Jean-Gilles Berizzi
そこに情熱という風を吹かせたのが、アラブとアンダルシアから来た吟遊詩人たちでした。騎士が貴婦人に尽くす宮廷愛の概念が広がり、騎士道の物語の中核を占めるほどになります。あくまで貴婦人に騎士が仕えるという形式をとる宮廷愛。
実は、その名残はいまもチェスに見ることができます。
西洋にチェスが到来したのは10世紀ごろ。その後早い時期に、宰相の駒はクイーンの駒にとって代わられ、15世紀にはこのクイーンが最強の駒となりました。この辺り、貴婦人が騎士に及ぼすことのできた絶大な影響を垣間見るような気がします。
Carolus-Duran, "Le Baiser" (1868), Lille, Palais des Beaux-Arts,© RMN-GP / Hervé Lewandowski
こんな風に、その後も社会の風潮・思想の変化とともに愛の形も変わっていく様子を、現代まで辿るユニークな『Amour(愛)』展。会期は2019年1月21日までです。
ルーヴル・ランス美術館(Musée du Louvre-Lens)
URL:www.louvrelens.fr/exhibition/amour
住所:99 rue Paul Bert, 62300 Lens
開館時間:10時~18時
休館日:火曜日
入館料:18歳未満無料、18~25歳:5ユーロ、大人10ユーロ
(冠ゆき)
筆者
フランス特派員
冠 ゆき
1994年より海外生活。これでに訪れた国は約40ヵ国。フランスと世界のあれこれを切り取り日本に紹介しています。
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