カイユボット、ルノワール、ゴッホ…パリ近郊にある印象派ゆかりの場所を巡ろう

公開日 : 2024年04月30日
最終更新 :

19世紀のフランス美術界に大きな変革をもたらした印象派やポスト印象派と呼ばれる画家たちは、多くの美しい風景画やポートレートを残しました。彼らが好んだ景色がパリの近郊にも点在しています。カイユボットのイエール、ルノワールのシャトゥ、ゴッホのオーヴェル・シュル・オワーズを紹介します。

カイユボットの邸宅が残るイエール

カイユボットの家
カイユボットの家

カイユボットは、印象派の画家の中でも特異な存在です。裕福な家に生まれたカイユボットは、自ら絵を描いて出品する他に、当時の印象派画家たちの活動を経済的に支えました。そのカイユボットが一時暮らした屋敷が、パリの南東郊外イエールに、「カイユボットの家」として建っています。カイユボットはここで、89点以上のカンバス画を制作しました。

カイユボットの家を含む敷地は、16世紀まではイエールの領主たちが所有してきましたが、1824年に料理人のピエール・フレデリック・ボレルが買い取ると、屋敷を新古典様式に改築。客をもてなすために豪奢な室内装飾や調度品をそろえました。

カイユボットの邸宅内
カイユボットの邸宅内

庭園はイギリス式に作り直され、庭の各所に異国風の建物を配置。歩きながら世界一周を楽しめるようにしました。特に園内にある氷室は圧巻で、日本風の東屋もあります。

日本風の東屋
日本風の東屋

しかし、ボレルの破産によって、同地をナポレオンに仕えた金銀細工師・指物師であるマルタン・ギヨーム・ビエネの未亡人であるアンヌ・マリー・ゴーダンが購入。その後に、カイユボットの父であるマーシアル・カイユボットが買い取り、当時オスマン県知事によるパリ大改造で騒々しかったパリから離れるための夏の保養地として、カイユボット一家が滞在することになりました。

『ビリヤード』で描かれている邸宅内ビリヤードの部屋
『ビリヤード』で描かれている邸宅内ビリヤードの部屋

ただ、カイユボットの両親が亡くなると、子供たちは領地を売却。その後も何度か所有者は変わり、今はイエール市の所有になりました。壁など傷んでいた内装も綺麗に整えられました。

『ゾエ・カイユボットの肖像』で描かれている音楽遊戯室
『ゾエ・カイユボットの肖像』で描かれている音楽遊戯室

建物の構造は、オーナーが変わってもずっと保たれてきましたが、案内をしてくれた同館のディレクターであるヴァレリー・デュポン・エニャン氏と観光発展責任者のマリー・アグネス・ルブリュー氏よると、市が購入した時は家具などは残っていなかったそうです。そのため年代別の家具などを保管している国有動産管理局から同じ時代の家具の無償貸与を受けて、室内が整えられました。

たとえば、ダイニングルームにある家具は、ヴェルサイユ宮殿のグラン・トリアノンとプチ・トリアノンにあったものです。

奥の壁側、左がプティ・トリアノン、右がグラン・トリアノンにかつてあった家具
奥の壁側、左がプティ・トリアノン、右がグラン・トリアノンにかつてあった家具

白亜の邸宅と緑あふれる庭園を眺めていると、印象派の画家たちが生きていた時代が蘇ってくるようです。

名称
カイユボットの家(Maison Caillebotte)
住所
8 rue de Concy 91330

ルノワールがセーヌの川遊びを楽しんだシャトゥ

『舟遊びをする人たちの昼食』の場所であるメゾン・フルネーズのテラス
『舟遊びをする人たちの昼食』の場所であるメゾン・フルネーズのテラス

シャトゥはパリの北西郊外の町。セーヌ川に広がる中洲で、人々が船遊びを楽しむ行楽地でした。このシャトゥをテーマにした作品がルノワールの『舟遊びをする人たちの昼食』です。現在はワシントンD.C.のフィリップス・コレクションが所蔵しています。

同作品では、セーヌ川畔に今も建つメゾン・フルネーズのテラスでくつろぐ、ルノワールの知人たちの様子が描かれています。

メゾン・フルネーズの横、セーヌ川沿いにある絵画の案内板
メゾン・フルネーズの横、セーヌ川沿いにある絵画の案内板

最も手前に座っているのがカイユボット。ルノワールの画家としての活動を経済的に支援しました。その正面で犬と戯れているのが、後のルノワールの妻であるアリーヌ・シャリゴです。

川寄りに手すりの上に頬杖をついているのが、メゾン・フルネーズの経営者アルフォンス・フルネーズの娘であるルイーズ・アルフォンシーヌ・フルネーズ、その前で手すりに寄りかかっている男性がアルフォンス・フルネーズの息子アルフォンス・フルネーズJrです。

メゾン・フルネーズは現在もレストランとして営まれており、セーヌ川を眺めながら食事ができます。同じ建物内にはフルネーズ美術館があり、当時の様子を知ることができます。

メゾン・フルネーズ
メゾン・フルネーズ

今は多くの産業用の商業船がセーヌ川を行き来するため、当時のような船遊びはできませんが、かつてはボートを浮かべてゆったりとした船遊びを楽しんでいました。

ルノワールが描いた『シャトゥの舟漕ぎたち』の案内板とセーヌ川
ルノワールが描いた『シャトゥの舟漕ぎたち』の案内板とセーヌ川

メゾン・フルネーズのすぐ近くには、当時のボートを保管してある倉庫があり、ボランティア団体により説明会などが開かれています。

修復された当時の船
修復された当時の船
保管庫内にある船の数々
保管庫内にある船の数々

印象派の画家たちが生きていた時代からは、随分社会は変わりましたが、柔らかく明るい光が差し込む日中にメゾン・フルネーズで食事を取っていると、ルノワールたちが楽しんだ当時の空気感に少しだけ触れられる気がします。

名称
メゾン・フルネーズ(Maison Fournaise)
住所
3 rue du bac - Iles des impressionnistes 78400

ゴッホの終焉の地オーヴェル・シュル・オワーズ

オーヴェル・シュル・オワーズのノートルダム教会
オーヴェル・シュル・オワーズのノートルダム教会

ゴッホとゆかりのある場所は、パリやアルルなどいくつかありますが、オーヴェル・シュル・オワーズはゴッホが自殺を図って亡くなる前の2ヵ月間を過ごした村です。ゴッホの滞在期間は短いですが、その2ヵ月の間に多くの作品を描き、村内の各所では作品のモチーフとなった風景が残ります。

オーヴェル・シュル・オワーズ駅の北にあるノートルダム教会は、パリのオルセー美術館が所蔵する『オーヴェルの教会』として描かれている建物。ゴッホの絵と同じ風景が、目の前に現れます。そこからさらに北へ歩いていくと、村落が終わり畑に。現在はアムステルダムのファン・ゴッホ美術館が所蔵する『カラスのいる麦畑』の景色があります。

『カラスのいる麦畑』辺りに建つ案内板
『カラスのいる麦畑』辺りに建つ案内板

さらに行くと村の墓地があり、ゴッホと弟のテオのお墓が並びます。

ゴッホ(左)とテオ(右)の墓
ゴッホ(左)とテオ(右)の墓

駅前の通りから西に行くと村役場が。その反対側にゴッホが逗留していたラヴー亭が建っています。当時のラヴー亭はカフェ兼ホテルでした。その北にはゴッホが自殺を図る直前に描かれたという『木の根と幹』のモチーフとなった場所があります。

ラヴー亭
ラヴー亭
『木の根の幹』のモチーフとなった場所
『木の根の幹』のモチーフとなった場所

ゴッホは村内に住むガシェ医師(『医師ガシェの肖像』はワシントンD.C.のナショナルギャラリー所蔵)の治療を受けるため、南仏サン・レミの療養所からオーヴェル・シュル・オワーズへ移り、同建物の3階に部屋を借りていました。自殺を図ったもののすぐに死ねなかったゴッホは、その後の2日間をラヴー亭の自室のベッドの上で過ごしてから亡くなりました。

現在のラヴー亭は、1階がレストラン、2階はショップ、3階は当時の様子を復元した資料館となっています。建物はゴッホに入れ込むベルギー人のドミニク・シャルル・ジャンセン氏により所有・管理されています。ジャンセン氏はラヴー亭の保存はもとより、ゴッホに関する資料の保存や研究、ラヴー亭から眺めた周囲の景観を当時のまま保つための活動を行なっています。そのため周辺の建物も少しずつ購入しているそうです。

ラヴー亭の説明をするジャンセン氏
ラヴー亭の説明をするジャンセン氏

同氏によると、ゴッホはラヴー亭で自らの展覧会を開くことが夢だったとのこと。ゴッホは画家として光が当たる前に亡くなりましたが、そのゴッホの夢を叶えるべく、ジャンセン氏はゴッホ作品の展覧会が近い将来に整うように、日々尽力しています。

名称
ゴッホの家/ラヴー亭(Maison de Van Gogh/Auberge Ravoux)
住所
52 Rue du Général de Gaulle 95430

筆者

フランス特派員

守隨 亨延

パリ在住ジャーナリスト(フランス外務省発行記者証所持)。渡航経験は欧州を中心に約60カ国800都市です。

【記載内容について】

「地球の歩き方」ホームページに掲載されている情報は、ご利用の際の状況に適しているか、すべて利用者ご自身の責任で判断していただいたうえでご活用ください。

掲載情報は、できるだけ最新で正確なものを掲載するように努めています。しかし、取材後・掲載後に現地の規則や手続きなど各種情報が変更されることがあります。また解釈に見解の相違が生じることもあります。

本ホームページを利用して生じた損失や不都合などについて、弊社は一切責任を負わないものとします。

※情報修正・更新依頼はこちら

【リンク先の情報について】

「地球の歩き方」ホームページから他のウェブサイトなどへリンクをしている場合があります。

リンク先のコンテンツ情報は弊社が運営管理しているものではありません。

ご利用の際は、すべて利用者ご自身の責任で判断したうえでご活用ください。

弊社では情報の信頼性、その利用によって生じた損失や不都合などについて、一切責任を負わないものとします。