ことこと列車~日本一ゆっくり・おいしい・楽しい列車

公開日 : 2020年12月10日
最終更新 :
筆者 : Duke

こんにちは、「地球の歩き方」福岡特派員のDukeです。今日は、福岡県および沿線自治体が出資する第三セクターが運営する平成筑豊鉄道の「ことこと列車」を紹介します。平成筑豊鉄道は、その名のとおり筑豊地方を中心に運行されるローカル線で、伊田線(直方~田川伊田 16.1km)・糸田線(金田~田川後藤寺 6.8km)・田川線(田川伊田~行橋 26.3km)の3路線があります。いずれも筑豊炭田で採掘される石炭の輸送のために敷設されたもので、1893(明治26)年に伊田線の一部(直方~金田)が開通したのを皮切りに現在の姿まで延伸しました。

新型コロナの感染拡大に歯止めがかからないなか、旅行を控えている方も多いことでしょう。感染状況が落ち着いていた福岡県でも、ここ最近じわじわと拡大する傾向にあるようです。ですので、決していますぐにということではなく、福岡県にはこんなユニークなレストラン列車が走っていることを知っていただき、近い将来、落ち着いた環境のなかで体験していただく機会がきますようにという願いを込めて紹介したいと思います。

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平成筑豊鉄道のレストラン列車「ことこと列車」は土日祝日だけの運行で、①田川伊田~行橋~田川伊田と②直方~行橋の2コースがあり、3ヵ月単位の交代制となっています。この日の「ことこと列車」は、田川伊田駅を出発し、直方・行橋を経由して再び田川伊田に戻ってくる①のコースでした。

「ことこと列車」のコンセプトは、「日本一ゆっくり・おいしい・楽しい列車」

田川伊田駅を出発すると、列車はいったん行橋とは逆方向の直方へ向かい、金田駅を経由して再び田川伊田駅へ。そこから油須原駅経由で行橋駅で折り返し、再び田川伊田駅に戻ってきます。総距離85kmを4時間かけて走るので、「日本一ゆっくり」なんですね(笑)

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今回の旅の起点・終点となる田川伊田駅に、「ことこと列車」がゆっくりと滑り込んできました。田川は、かつて「炭都田川」とも呼ばれた石炭採掘の中心地で、全国各地の盆踊りでおなじみの「炭坑節」発祥の地。五木寛之さんの名作『青春の門』の舞台となった土地でもあります。

JR九州の豪華寝台列車「ななつ星 in 九州」などを手がけた鉄道デザイナー、水戸岡鋭治さん設計の「ことこと列車」。ややダークな色調の赤い車体が、渋く落ち着いた輝きを放っていますね。

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車両から降りてきた乗務員さんが、ホームに小さなテーブルを設置して受付を開始。平成筑豊鉄道(愛称:へいちく)は、運行に関するさまざまな仕事をすべて乗務員の皆さんが行って経費節減に努めているんです(乗務員の皆さんの写真は、すべて了承を得たうえで掲載しています)。

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「ことこと列車」は、厨房スペースがある1号車と座席のみの2号車の2両編成。本来の定員は48名ですが、現在は、新型コロナ対策のため30名に制限して運行しています。

スタッフの女性が車内に案内してくれました。

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2号車の車内。パーティションや窓の目隠しには福岡県の伝統工芸「大川組子」がふんだんに用いられ、床には寄木細工が敷き詰められています。

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ふたりがけのソファ席。

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テーブル席はふたり用と4人用があります。座席の色は茶色(2号車ソファ席)、緑色(2号車テーブル席)と青色(1号車テーブル席)の3種類がありました。

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1号車には厨房が設けられています。右の壁面には九州の地酒がずらりと......。

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沿線の特産品や写真を紹介するショーケースも、車内の随所に設けられています。

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天井には、ドイツ製ガラスを組み込んだステンドグラス。客室全長にわたるステンドグラスは、国内ではほかに例がないとのこと。非日常感あふれる豪華な空間です。

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そのステンドグラスが、カトラリーに鮮やかに映り込んでいました。

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席に着いて飲みものを注文している間に、乗務員を代表して佐藤チーフから歓迎のあいさつや「ことこと列車」についての説明がありました。

地元田川の「paleale TAGAWA 元気が出るビール」。エールらしいコクと香りで、飲みごたえのあるビールでした。

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こちらは、沿線の福智町産いちじくの赤ワイン煮のソルベとジンジャーエールを合わせた「福智町キティ」。これはノンアルコールですが、もちろんアルコール入りのものもあります。

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田川伊田駅を出発すると、ほどなく料理のサービスが始まります。

地域を代表する食材を使ったフレンチ6品を監修するのは、博多のフレンチレストラン La Maison de la Nature Gohのオーナーシェフ福山剛さん。Nature Gohは、2018年、2019年と2年連続で「アジアのベストレストラン50」に選ばれたほか、2019年のミシュランガイドで1つ星を獲得しました。

前菜「ことことボックス~9つの市町村の想いをこめて~」から料理がスタートです。ひしや染物店(直方)のオリジナル手ぬぐいに包まれたランチボックスがテーブルに運ばれました(この手ぬぐいは、乗車記念に持ち帰りできます)。

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ランチボックスの中には、沿線自治体の特産品9品目が使われています。

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担当の女性がテーブルを回り、9つの地元産食材について説明してくれます。ちなみに乗務員さんの制服には、福岡の伝統工芸「久留米絣」が使われているそうです。

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「地元産バターナッツかぼちゃのムース」は、甘みの強いバターナッツかぼちゃのムースの上にウニとズワイガニをのせ、コンソメのジュレで挟んでありました。滑らかな食感で、ムースとジュレの複層的なおいしさが楽しめます。ねっとり濃厚なウニの旨みをいっそう引き立てていました。

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3品目は「石炭リゾット アワビのソテー添え」。石炭をイメージしたリゾットは、イカ墨のほのかな甘みが感じられました。焦がしバターの風味が食欲をそそります。

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車窓の風景。筑豊の山々と田園地帯をのんびりゆっくり、ことこと走ります。

鷹取山、福智山、赤牟田の辻、焼立山、牛斬山などが連なる福智山系。最高峰福智山の標高は901mで、九州百名山に選ばれています。

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「田川トニック」は、田川産の焼酎をベースに福智町産はちみつレモンのソルベとトニックウォーターを加えたカクテル。ミントの香りが爽やかです。

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この日のメイン「和牛頬肉のパピオット」。福山シェフは、熱い料理を熱いうちに提供することを強く希望されたそうです。このため金田駅には、ことこと列車専用のスチームコンベクションが導入されました。本当に熱々のままテーブルに運ばれますので、ラップを開くときは火傷しないよう要注意です(笑)

器には、沿線で焼かれる上野焼(あがのやき)が多用されるなど、いろんなところに地元へのこだわりや愛着が感じられました。

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ていねいに煮込まれた頬肉はまったりと濃厚。フォークでほろりと崩れるほどやわらかでした。

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ストウブ製のココットは、「じゃがいもとペンネのグラタン」。

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五木寛之さんの『青春の門』は東宝で映画化され、田中健さん(伊吹信介)や仲代達也さん(伊吹重蔵)、吉永小百合さん(伊吹タエ)や小林旭さん(縞竜五郎)、そしてまだ初々しい大竹しのぶさん(牧織江)らが出演しました。後方の左側は香春岳(一ノ岳)、右は映画のロケ地となった第二豊州炭坑ボタ山です。

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その香春岳をぐるっと回り込むようにコトコトと走る平成筑豊鉄道。五木寛之ファンや青春の門ファンにとっては、一見の価値がある風景が続きます。

香春岳には3つの峰があり、右から一ノ岳、二ノ岳、三ノ岳と呼ばれます。最も高かった一ノ岳は、石灰石採掘のために削られて、当初の半分ほどの高さになってしまいました。

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車内に展示されている現在の香春岳の写真。上は本物の石灰石です。手にとるとずっしりとした重みがありました。

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もともとはこんな山でした。にわかには信じられませんが、香春岳の石灰石はハワイ沖の珊瑚礁が化石となり、隆起してできた山だとか......。ここから採掘される石灰石は非常に品質が高く、世界的にも高い評価を受けているそうです。黒いダイヤモンドと言われる石炭に対して、石灰石は白いダイヤモンドと呼ばれました。

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田川伊田駅を過ぎると、香春岳の西から南を回り込むように走るので、違うアングルから見ることもできます。採掘されて白くなった部分がわずかにのぞいていますね。

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デザートは、九州菊(くすぎく)の枡で出される冷たいスイーツ「枡パルフェ~焼き芋のある風景~」。スプーンを入れると中は2層・3層になっており、九州菊のゼリーなどがいろいろ詰まっていて、焼き芋のほか、さまざまな味や食感が楽しめました。

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こちらは、油須原(ゆずばる)駅での停車風景。筑豊の田園風景も長閑ですが、平成筑豊鉄道の駅や線路の風景もまた長閑です。

平成筑豊鉄道田川線は、山地を避けわずかな平地部分を縫うように、この油須原駅から北東へと向きを変え、筑豊地方と京築地方を結んでいます(油須原駅には行きと帰りの2回停車します。この写真は往路のもの)。

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油須原駅は1895(明治28)年の開業で、九州では最も古い木造駅舎。二重になった瓦屋根が特徴で、開業当時からずっと現役です。

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この駅は、フジテレビのドラマ『東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン』で、主人公ボク(速水もこみちさん)を母(倍賞美津子さん)が見送るシーンのロケ地となりました。撮影で使われた時刻表や運賃表などがそのまま残されています。

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田川線は周防灘に注ぐ今川に沿って走りますが、源じいの森駅を過ぎたところで今川を横切ります。正面の公園のようなところは、源じいの森キャンプ場。温泉も湧いていますよ~♨

ちなみに「源じいの森」とは、付近で生息する源氏ホタルの「源」、所在する赤村の村花「春蘭」の方言名「じじばば」の「じい」、赤村の7割を占める森林の「森」を組み合わせた愛称です。

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源じいの森駅を過ぎると、1895年(明治28)年に完成した第2および第1石坂(いっさか)トンネルを通過しました。

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石坂トンネルは、九州最古の鉄道トンネルとして国の登録有形文化財に指定されています。

同じく登録有形文化財とされている、煉瓦と石で造られた三連アーチ橋の内田三連橋梁もこの近くにあります。

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もう少し進むと、英彦山の伏流水を使って九州菊(くすぎく)などの銘酒を造る林龍平酒造場(1837[天保8]年、創業)が見えてきます。ことこと列車に向かって手を振ってくれている人がいますね~♪

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「ことこと列車」で、その「九州菊 純米吟醸」を飲むこともできます。

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遠くの山並みが連なって見えました。

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行橋駅に到着しました。ことこと列車は、ここから田川伊田駅に向かって引き返します。ここで下車する乗客もみられました。

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行橋駅から田川方面に戻るひとつ目の駅は、令和コスタ行橋駅。令和になって開設される国内初の駅となったため、このように命名されました。地元産の筑豊杉、京築ヒノキをふんだんに使った木造の駅舎は、ことこと列車と同じく水戸岡鋭治さんのデザインだそうです。

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もう少し戻ったところには、線路を覆うように木々が生い茂る場所、「緑のトンネル」があります。ことこと列車ファンの間では、列車がそこを通過するシーンが人気だそうで、この写真はそうしたファンの方から寄贈されたものだそうです。

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復路、再び油須原駅に停車します。行橋行きの普通列車とすれ違いました。

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運行や接客、観光案内などをすべて乗務員が行う「ことこと列車」。油須原駅に残る明治時代の列車の安全システム、タブレット(通票)とタブレットキャッチャー について、運転士さんによる説明と実演が行われました(タブレットは車両の衝突を防止するために用いられた通票。タブレットキャッチャーとは、通票閉塞式[タブレット閉塞式]を採用している鉄道区間において、通票の受け取りをするために車両や駅のホームに備えられている器具)。

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モダンアートのような趣ですが、こちらはホームに設置されたタブレットキャッチャー。タブレットの入ったスタフ(上の写真で運転士さんが手にしているもの)を列車から投げて引っかける装置で、それを駅員さんが回収するというシステムです。

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これは、信号機の切り替えレバー。昔は、駅員さんが手動で信号を切り替えていたのだそうです。

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次第に西に傾いてきた日差しを浴びて、車体の赤がなおいっそう深く濃く見えますね。

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遠賀川の支流、彦山川を通過しました。終点の田川伊田駅はもう目の前。ことこと列車の旅もそろそろ終了です。

85kmの距離を折り返しながら、4時間かけて走る旅。ことこと列車は期待にたがわぬ美しさでした。のどかな車窓の風景を眺めながらいただいた料理もおいしかったです。そして特筆すべきは、絶やさぬ笑顔で対応してくれた乗務員の皆さん。ていねいで親切、フレンドリーな応対のおかげで、さわやかで気持ちのよい4時間を過ごせました。テーブルを担当してくれた女性は田川出身だったのですが、「地域を盛り上げることに自分も参加したくて、ことこと列車の乗務員募集を知って迷わず応募しました」と仰っていたのが印象に残りました。

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新型コロナの感染拡大によって、再び医療現場がひっ迫してきています。自分が罹患しないように、また人に感染させないために、いまは我慢のしどころ。国内・海外を問わず、自由に旅に出られる日が必ず戻ってくることを信じて、一人ひとりが心をあわせてこの困難を乗り越えましょう。

【平成筑豊鉄道ことこと列車】

【スペシャルなことこと列車も予定されています】

〇クリスマストレイン: 2020年12月24日(木)・25日(金)

〇バレンタイントレイン: 2021年2月13日(土)・14日(日)

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