【オーストリア、魅惑の5都市】宮廷文化が今も息づく欧州屈指の文化都市、ウィーン

公開日 : 2022年12月28日
最終更新 :

ユーロモニターインターナショナル社の白書によると、コロナ禍以前の2019年にウィーンを訪れた外国人観光客数は年間約663万人。これは欧州でトップ10に入り、ベルリンやベネチアをも上回る数字です。多くの観光客が訪れ、音楽・芸術・建築など、どんな切り口で切っても見どころ盛りだくさんの文化都市、それがウィーンなのです。

皇妃エリザベートゆかりの地で巡るウィーン


約7世紀に渡って増築を繰り返したため、多様な建築様式と機能が混在し、全18棟・2500以上もの部屋を持つ巨大な王宮
© Innerer Burghof / Lois Lammerhuber SKB
約7世紀に渡って増築を繰り返したため、多様な建築様式と機能が混在し、全18棟・2500以上もの部屋を持つ巨大な王宮

ウィーンを語る上で避けて通れないのがハプスブルク家の存在です。王家を発展させるために婚姻政策によって支配地を広げ、その栄華は650年以上も続きました。この町で多くの芸術家や音楽家が活躍し、旧市街のいたるところで壮麗な建物が並ぶのは、ハプスブルク家の功績といって過言ではありません。日本でも東宝と宝塚歌劇団が頻繁に上演を繰り返している人気ミュージカル『エリザベート』は、ハプスブルク皇妃エリザベートを題材にしており、ウィーンのアン・デア・ウィーン劇場で初演されてから2022年で30周年を迎えました。そこで今回は、ウィーンにあるエリザベートゆかりの地からご紹介します。

まずはエリザベートがフランツ・ヨーゼフ1世との結婚後、暮らし始めた「ホーフブルク王宮」へ。こちらはハプスブルク家の歴代皇帝が13世紀後半から1918年まで住んでいた住居であるとともに、一時は南米にまで及んだ広大な領地を統治する政治の中枢でもありました。ホーフブルク王宮には皇帝の生活を今に伝える博物館が複数ありますが、特に「シシィ博物館」(シシィとはエリザベートの愛称)には、髪飾り、扇子、宝石、薬入れなど彼女が愛用していたさまざまな小物が展示されています。中でも人気なのがドレスのコレクション。ハンガリー女王の戴冠式とポルターアーベント(結婚前夜祭)で着ていた衣装のレプリカが並び、その美しさに思わずため息が漏れることでしょう。他にも居間や寝室、化粧室、体操室が見学でき、当時のエリザベートの豪華な暮らしぶりを垣間見ることができます。またホーフブルク王宮の敷地内には、エリザベートとフランツ・ヨーゼフ1世が婚礼を挙げたアウグスティーナー教会や、ハプスブルク家が使った銀器のコレクションもあり、こちらも見逃せません。

続いて、リンクの外側にある「シェーンブルン宮殿」へ向かいましょう。世界遺産に登録されているウィーンを代表する観光スポットで、ハプスブルク家はここを夏の離宮として使っていました。建物西翼にエリザベートの寝室やサロン、化粧室があり、肖像画や所持品の展示も行われています。エリザベートはスリムな体型を保つために生涯運動を欠かさなかったと言われており、王宮内、そしてここシェーンブルン宮殿内でも運動器具を設置させ、運動に励んでいたそうです。特にシェーンブルン宮殿では大きな庭園で得意の乗馬を楽しんだと言われています。

最後に紹介するのは「ウィーン家具博物館(旧・王宮家具博物館)」。1747年にマリア・テレジアが家具保管庫として建てた建物が博物館になっており、ハプスブルク家の人々が使っていた豪華絢爛な家具が、すさまじい規模で展示されています。ここにもエリザベートが愛用していたとされる家具や日用品、エリザベートの肖像画や等身大のマネキン、皇太子ルドルフのゆりかご、さらにエリザベートが愛用していた体重計まで展示してあり見応え十分。王宮や宮殿と比べて、よりリアルで詳細な暮らしぶりが感じられることでしょう。ちなみにここで紹介した3施設は、シシィ・チケットと呼ばれる共通チケットですべて入場することができ、便利でお得です。


エリザベートが着ていた、結婚前夜祭のドレス(手前)と、ブダペストで行われた戴冠式のドレス(奥)のレプリカ
©️ Schoenbrunn Kultur und Betriebsges m.b.H / Alexander Eugen Koller
エリザベートが着ていた、結婚前夜祭のドレス(手前)と、ブダペストで行われた戴冠式のドレス(奥)のレプリカ

2023年6月29日~7月1日の3日間、シェーンブルン宮殿の野外舞台ではミュージカル『エリザベート』のコンサートが上演される。また初夏の風物詩である『ウィーン・フィルのサマーナイト・コンサート』は2023年6月8日に予定されており入場無料
©︎オーストリア政府観光局 / Wolfgang Weinhaeupl
2023年6月29日~7月1日の3日間、シェーンブルン宮殿の野外舞台ではミュージカル『エリザベート』のコンサートが上演される。また初夏の風物詩である『ウィーン・フィルのサマーナイト・コンサート』は2023年6月8日に予定されており入場無料

宮殿最大の広間。幅10m、長さは40mもあり、舞踏会や晩餐会が行われた
©Foto Agentur Zolles
宮殿最大の広間。幅10m、長さは40mもあり、舞踏会や晩餐会が行われた

シシィ・チケットを買うと入場が無料になるウィーン家具博物館(旧・王宮家具博物館)
©WienTourismus/Paul Bauer
シシィ・チケットを買うと入場が無料になるウィーン家具博物館(旧・王宮家具博物館)

2023年も周年イヤー。注目のイベントが目白押し!


上宮内部は美術館になっており、シーレやココシュカなど世紀末ウィーンの作品も展示
©︎ Belvedere Wien / Lukas Schaller
上宮内部は美術館になっており、シーレやココシュカなど世紀末ウィーンの作品も展示

2022年に続き、2023年もさまざまな周年を迎えるウィーン。中でも現地で盛り上がりを見せているのが、プリンツ・オイゲン公の夏の離宮「ベルヴェデーレ宮殿」です。上宮の完成から2023年で300周年という節目の年を迎え、2022年12月2日〜2024年1月7日の期間、宮殿下宮にて特別展「ベルヴェデーレ宮殿 芸術の現場としての300年」を開催予定。1955年にオーストリアの主権を認める国家条約が調印されるなど、歴史の舞台にもなってきたベルヴェデーレ宮殿の歴史を紐解きます。また、ベルヴェデーレ宮殿を訪れたら絶対に見逃せないのが世界最大級といわれるグスタフ・クリムトのコレクション。中でも最高傑作と言われる『接吻』は国外不出のため、ここを訪れないと見ることはできません。さらにはオーストリアでも指折りのバロック建築と、上宮から庭園越しに見えるウィーン市街の美しい眺め(イタリア語で「ベルヴェデーレ」)。ここは周年に限らず、ウィーンで必ず訪れるべき場所のひとつです。

もうひとつ、2023年はウィーン万博が開催されてから150周年を迎えます。これは、当時の日本(明治新政府)が初めて公式参加した万博で、ウィーンにおける日本ブームのきっかけとなりました。インターネットも旅客機もない当時の万博は、ホスト国とそこに出展するゲスト国双方にとって、とてつもないカルチャーショックの場だったことでしょう。明治政府を樹立して近代国家の仲間入りを果たした日本にとって、当時のウィーン万博は日本を世界にアピールする絶好の機会で、万博会場のプラーター公園には日本庭園や神社を造るほどの気合の入りよう。まさに国の威信をかけて準備した万博でした。この時、日本が出品した展示品の多くはウィーンに残され、現在はオーストリア応用美術博物館(MAK)と新王宮(ノイエブルク)内のウィーン世界博物館(Welt Museum)にて、ジャポニズムの流行を生み出した貴重な資料として展示されています。オーストリア応用美術博物館では2023年6月7日よりウィーン万博にも参加したハプスブルク家御用達クリスタルブランド「J. & L. ロブマイヤー」による展覧会が、また6月21日からはウィーン万博に関連した特別展も予定されています。そしてウィーン世界博物館でも2023年中に万博をテーマにした特別プログラムが企画されています。

また周年ではないですが、2023年の1月26日〜4月9日の間、日本の東京都美術館(台東区)で「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」が開催予定。来年は日本国内でもオーストリアのアートを身近に楽しむ機会がありそうです。


ベルヴェデーレ宮殿上宮に飾られたクリムトの『花嫁(Die Braut)』
©︎ Belvedere Wien / Ouriel Morgensztern
ベルヴェデーレ宮殿上宮に飾られたクリムトの『花嫁(Die Braut)』

欧州や東洋の美術工芸品を所蔵するオーストリア応用美術博物館(MAK)
©︎ MAK / Leo Hilzensauer
欧州や東洋の美術工芸品を所蔵するオーストリア応用美術博物館(MAK)

ウィーン世界博物館には1873年に日本が出品した大名屋敷の精巧な模型が展示されている
©︎ KHM Museumsverband
ウィーン世界博物館には1873年に日本が出品した大名屋敷の精巧な模型が展示されている

エゴン・シーレの作品を中心に、レオポルド美術館の所蔵品が2023年日本にやってくる
©︎ Leopold Museum Wien / Ouriel Morgensztern
エゴン・シーレの作品を中心に、レオポルド美術館の所蔵品が2023年日本にやってくる

ユネスコ無形文化遺産にも登録されるウィーンのカフェ文化


創業は1847年。皇室御用達菓子店の中でもっとも歴史のあるカフェ・ゲルストナー
© オーストリア政府観光局 / Harald Eisenberger
創業は1847年。皇室御用達菓子店の中でもっとも歴史のあるカフェ・ゲルストナー

お気に入りのカフェに入ってゆったりするのも、ウィーンならではの過ごし方です。ウィーンの人々にとってカフェはただ飲食する場所ではなく、雰囲気や家具、スイーツのレシピ、そこで働くウェイターなど、さまざまな要素で構成されており、市民であれば誰もが行きつけのカフェをもっていると言われています。2011年にはユネスコ無形文化遺産に「カフェーハウスクルトゥーア(Kaffeehauskultur)」、つまりウィーンのカフェ文化自体が登録され、その価値が世界的に認められました。

100年以上の歴史をもつのが当たり前のウィーンのカフェ。1900年の時点で市内には600軒ものカフェがあったそうで、老舗のカフェには創業から現在にいたるまで、それぞれの物語があります。当初は男性のための社交場でしたが、19世紀後半になると音楽家やオペラ歌手、俳優などもこぞってカフェで長い時間を過ごすようになり、そこで新聞を読んだり、激論を交わしたり、優雅にケーキを食べたりして、カフェ文化が成熟していったのです。

ここで紹介している「ゲルストナー」や「デーメル」は、すべて1800年代創業の老舗カフェ。看板に書かれた「K.u.K Hofzuckerbäckerei」は、皇室御用達の菓子店であることを示しており、実際にエリザベートが使いを出してケーキを買いに行かせたり、本人がお忍びで店にやってきたりしたこともあったそうです。特に「ゲルストナー」はかつて宮廷の晩餐会に料理を運び、現在でも国立オペラ座や楽友協会のビュッフェも運営するなど、ウィーンの食文化を支える存在でもあります。またウィーンで一番有名なスイーツ、ザッハートルテの元祖として有名な「カフェ・ザッハー」も訪れないわけには行かず、もはやカフェ自体が観光名所というケースがウィーンでは珍しくありません。


日本でも有名なデーメルの本店は、ホーフブルク王宮から徒歩30秒
© オーストリア政府観光局 / Harald Eisenberger
日本でも有名なデーメルの本店は、ホーフブルク王宮から徒歩30秒

ホテル・ザッハー内のカフェ「カフェ・ザッハー」。新聞を模したメニューがかわいらしい
©︎Hotel Sacher
ホテル・ザッハー内のカフェ「カフェ・ザッハー」。新聞を模したメニューがかわいらしい

オーストリアの名産品であるアンズのジャムを挟むのが、ザッハートルテの特徴
© オーストリア政府観光局 / Werbung Cross Media Redaktion
オーストリアの名産品であるアンズのジャムを挟むのが、ザッハートルテの特徴

ザッハートルテだけじゃない、ウィーンの名物グルメ


ウィーン市内におけるアイスクリーム屋の密度は本場イタリア以上という
©︎Cafe Heiling Kitzwoegerer GmbH
ウィーン市内におけるアイスクリーム屋の密度は本場イタリア以上という

ザッハートルテがウィーンでおすすめのお約束スイーツであることに間違いありませんが、名物はそれだけではありません。ウィーンの人たちはケーキ以上にアイスクリームが大好きで、夏に街角を歩いているといたるところでアイスクリーム屋(Eissalon)を見かけます。ウィーンの人々が好むのはソフトなジェラートタイプ。どこのお店もガラスのショーウィンドー内にたくさんのフレーバーを用意しているので、それを指差してシングルなら「アイネ・クーゲル(eine Kugel)」、ダブルなら「ツヴァイ・クーゲルン(zwei Kugeln)」と注文してみましょう。アプフェルシュトゥルーデル味やザッハートルテ味、パンプキンシードオイル味といったオーストリアならではのフレーバーもあり、最近ではオーガニック素材にこだわったお店も増えています。

ほかにもウィーンの郷土料理と呼ぶにふさわしいのが「ヴィーナーシュニッツェル」です。ヨハン・シュトラウス 1 世作曲『ラデツキー行進曲』に登場するラデツキー将軍がミラノ遠征の際に食べたカツレツを大変気に入り、ウィーンに持ち帰ったという説がよく知られています。正式には仔牛肉を使いますが、豚肉や鶏肉も一般的で、薄くパリっとあげた熱々のカツレツに、さっとレモンを絞って食べるヴィーナーシュニッツェルは絶品です。

またウィーンは大都市ながら都心を離れると700ヘクタールものブドウ畑があり、ワインの生産を行っています。オーストリアではワイナリーに併設された居酒屋のことを「ホイリゲ」と呼び、そこでワイナリーの自家製ワインを気軽に楽しむのがウィーンっ子の日常です。ホイリゲが多く見られるのは、ハイリゲンシュタット駅からグリンツィング地区にかけて。老舗ホイリゲや大型店に入ると、アコーディオンやギターなどの生演奏が始まることもあり、一体感が生まれて大変盛り上がります。テーブルで弾いてもらった際は、ぜひチップ(数ユーロで OK)を渡してくださいね。


ミラノ風カツレツをルーツにしたヴィーナーシュニッツェル
©︎iStock
ミラノ風カツレツをルーツにしたヴィーナーシュニッツェル

夏場のホイリゲでは、中庭やテラスなど屋外のテーブルに大勢のお客さんが集まる
©️ オーストリア政府観光局 / Nina Baumgartner(thecreatingclick-com)
夏場のホイリゲでは、中庭やテラスなど屋外のテーブルに大勢のお客さんが集まる

ワインと一緒にハムやサラミ、チーズなどシャルキュトリーの盛り合わせを頼むケースが多い
©️ オーストリア政府観光局 / 1000things
ワインと一緒にハムやサラミ、チーズなどシャルキュトリーの盛り合わせを頼むケースが多い

※当記事は、2022年11月30日現在のものです


〈地球の歩き方編集室よりお願い〉
2022年11月30日現在、観光目的の海外渡航は難しい状況です。『地球の歩き方 ニュース&レポート』では、近い将来に旅したい場所として世界の観光記事を発信しています。渡航についての最新情報は下記などを参考に必ず各自でご確認ください。
◎外務省海外安全ホームページ
・URL: https://www.anzen.mofa.go.jp/index.html
◎厚生労働省:新型コロナウイルス感染症について
・URL: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
旅したい場所の情報を入手して準備をととのえ、新型コロナウイルス収束後はぜひお出かけください。安心して旅に出られる日が一日も早く来ることを心より願っています。

筆者

地球の歩き方観光マーケティング事業部

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