好評だったフランスでの『男はつらいよ』年間イベント、パリ日本文化会館でアンコール上映

公開日 : 2023年03月30日
最終更新 :

寅年だった2022年に、パリ日本文化会館では映画『男はつらいよ』全50作品を1年間を通して上映するイベントが行われました。同作のフランスでの上映では、日本と同じように観客が笑い、悲しみ、文化を超えても共有できる普遍性を示しました。同イベントは2023年1月をもって終わったのですが、アンコール上映という形で50作のうちでも好評だった作品が再上映される機会があったので、パリ日本文化会館に足を運んでみました。

作品に横たわる国や文化が変わっても普遍的なもの

パリ日本文化会館の建物全面に貼られた『男はつらいよ』のビジュアル
パリ日本文化会館の建物全面に貼られた『男はつらいよ』のビジュアル

この年間を通してのイベントが行われる前、果たして『男はつらいよ』がフランス人の観客の目にどのように映るのか、さまざまな推測がありました。同作の舞台となっているのは、第1作まで遡ると1969年。昭和のど真ん中、いかにも日本的なやりとりで物語が構成されています。

たとえば、舞台となっている下町では、男尊女卑で封建的な考えた方が色濃くあり、寅さんおよび出演者が繰り出す冗談も、日本で生まれ育つことで共有化される経験をベースにしていないと、笑いに変わらないものも多いです。しかし、いざ蓋を開けてみると、同館によると上映会場では毎回観客に笑顔があふれていたそうですし、私が足を運んだ2022年の上映回でも同様の現象が起きていました。

柴又に帰ってきた寅さんの、調子の良さやすね具合、逆上、家族全員での一悶着に観客は沸き、マドンナ相手に肝心のところで照れたり逃げてしまう寅さんに、もどかしさを感じ、落ち込んでいる相手にかける寅さんの、情のこもった言葉に感銘を受ける……「日本的なもの」を超えたところにある、こういった人間としての寅さんの「優しさ」や「愛らしさ」から来る魅力が、フランスでも観客を魅了するのでしょう。

寅さんのように、感情をすぐに表に出したり、他人とでも軽やかにおしゃべりをしてコミュニケーションを取ったりする部分は、フランス人と重なる部分も多いです。寅さんがもしフランスにいても、性格的にとてもすんなり溶け込めたでしょうし、そういう人間的な部分は伝わるものだなと思いながら、私も作品を楽しみました。

アンコール上映も好評のうちに終了

パリ市内サン・サントゥスタッシュ教会前の桜
パリ市内サン・サントゥスタッシュ教会前の桜

アンコール上映では、私は3月25日に行われた第50作の回に行きました。第50作は、ご存知の方多いと思いますが、1996年に渥美清さん亡くなられた後に作られた、2019年公開の作品です。作品内では、吉岡秀隆さん演じる甥の満男(寅さんの妹であるさくらの長男)を主人公として、過去の名場面を回想シーンとして入れ込み、全体が構成されています。

私は、日本の劇場で2019年の公開時にも同作を見に行ったのですが、その時は、観客の皆さんが惜しまれ亡くなった渥美さんを思い出し、また今までのシリーズと観客の皆さんの中で何十年にも重なった寅さんへの思いをそれぞれが振り返り、映画中は客席の各所から悲しみの嗚咽が聞こえてきました。

一方で今回のパリ上映では、今までの49作までと変わらない明るい雰囲気で、しんみりすることもなく、寅さんが過去に繰り出したドタバタ劇を楽しく見守る観客がいました。今はいない渥美さんを思い出し悲しく落ち込むよりも、明るく笑う寅さんがそこにいるようで、再び場所を変え、劇場で第50作を見ることができてとても良い経験になりました

ちなみに、同日のアンコール上映終了後には、JETROパリ事務所とCLAIRパリ事務所が共催で、寅さんが旅をしてきた地方の日本酒の試飲やその地方のPRも行われました。映画を通して喜怒哀楽を楽しんだ後に、日本のお酒を試飲してながら日本に想いを馳せるイベントとなりました。

筆者

フランス特派員

守隨 亨延

パリ在住ジャーナリスト(フランス外務省発行記者証所持)。渡航経験は欧州を中心に約60カ国800都市です。

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