146. いにしえの紙サマルカンドペーパーも陶芸も コニギル・ツーリズムビレッジで昔ながらの伝統工芸に触れる

公開日 : 2024年05月22日
最終更新 :

サローム(こんにちは)!

お土産にぴったりな質が高い伝統工芸品や工芸雑貨であふれる国ウズベキスタンですが、観光の中心都市サマルカンドならではの品、サマルカンドでしか買えない物となるとそう多くはありません。以前ご紹介した職人工房、ハッピーバード・アートギャラリー(119. 職人たちの手仕事が見学できる工房が集まるハッピーバード・アートギャラリー サマルカンドで雑貨土産を買うならここ!)などで買えるスザニはその1つですが、スザニを買って日本に持って帰るのはちょっと気が重い...という方におすすめなのがサマルカンドペーパー。ただの紙をお土産になんて、、何ておっしゃらずに。このサマルカンドペーパー、古代の紙の発祥地の一つだった中国から伝わったいにしえの紙で、751年唐とイスラム軍が戦ったタラス河畔の戦いで捕虜になった唐の紙すき職人によってこの地に製法が伝来し、8~9世紀にはこのサマルカンドがイスラム世界の紙の一大産地として栄えたのです。
レギスタン広場のウルグベク・メドレセにあるミニ博物館には、中国で編み出された製紙法がサマルカンドを経由し、中東やヨーロッパへどんどん伝わっていく過程が載った地図が展示されています。古代からシルクロードを通じてあらゆる人や物が行き交い、東西の文化が交わっていきましたが、紙もその中の一つだったのです。

レギスタン広場 ウルグベクメドレセ

なめらかな書き心地からシルクペーパーと呼ばれ、宗教書を書いたり細密画を描いたりする時にも重宝されてきた様ですが、その製紙法は一度途絶えてしまいます。サマルカンドペーパーを現代によみがえらせるためウズベキスタン独立後の1998年に造られたのがコニギルメロス紙すき工房で、サマルカンドの地で再び紙作りが始まりました。観光客に人気だったこの紙すき工房は2021年に拡張されてコニギル・ツーリズムビレッジとなり、緑豊かな広い敷地の中にサマルカンドペーパーをはじめさまざまな伝統工芸の工房が点在し製作見学や体験が楽しめる、一大観光地に発展したのです。

コニギル・ツーリズムビレッジ 入口

このコニギル・ツーリズムビレッジがあるのは、サマルカンド市内西部のコニギル地区。シヨブ川という小川の周りに伝統民家が建ち並ぶ、牧歌的なエリアです。かつてはサマルカンドにたくさん存在していた紙すき工房の多くも、このシヨブ川沿いにあったといわれています。サマルカンドペーパーを作るためには水車が必要で、この川沿いに多くの水車が建ち並んでいたそうです。
コニギル・ツーリズムビレッジもシヨブ川沿いに広がっており、いくつもの水車が音を立てて回るのどかな雰囲気で、町の喧騒を忘れさせてくれます。都市より自然が好きな人が多いウズベク人もこのような場所を気に入るようで、サマルカンドで旅行者に一番おすすめしたいのはここ!と私の知人のウズベク人ガイドも言っていました。

コニギル・ツーリズムビレッジ 水車
敷地内にいくつもある水車は目にも耳にも涼しい
コニギル・ツーリズムビレッジ 紙すき工房
この工房の設立にはJICAが関わり、和紙職人も来訪して直接指導したとのこと

お土産売り場で一人1万スム(2024年5月現在のレートで約120円)の入場料を払い、さっそく昔ながらの製法で行われている紙すき作業の実演を見てみましょう。
サマルカンドペーパーの原料となっているのは桑の木。その木の皮を大鍋で煮て柔らかくし、繊維をはがします。

コニギル・ツーリズムビレッジ 紙すき工房

この繊維をさらに細かくしていきますが、ここで登場するのが先ほどの水車。まるで餅つきのような要領で、臼に入れた繊維を水車の力で動く杵でバラバラにしていきます。

コニギル・ツーリズムビレッジ 紙すき工房

この細かくした繊維を水に溶かし、木の容器ですいて紙を作っていきます。

コニギル・ツーリズムビレッジ 紙すき工房
コニギル・ツーリズムビレッジ 紙すき工房

紙を乾かした後、貝で作られた砥石のような道具で磨いて仕上げます。こうすることで、シルクペーパーの異名にふさわしい光沢のある紙になるのです。この作業は職人さんに頼めば体験させてくれるので、ぜひ試しにやってみましょう。

コニギル・ツーリズムビレッジ 紙すき工房

このサマルカンドペーパーを使った工芸品が、作業場の隣のお土産売り場で売られています。その数何と2~30種類で、絵葉書や名刺入れ、サマルカンドペーパーに刺繍を入れた「紙スザニ」、さらには服やバッグも。こんなものまで紙で作れるのか!と度肝を抜かれること間違いありません。物によってはそこそこ値が張りますが、サマルカンドでしか売っていないお土産として買う価値大ありです。サマルカンドペーパーがこのように形を変え、観光客に人気のお土産になるなど、昔の紙すき職人たちは思ってもみなかったでしょう。

コニギル・ツーリズムビレッジ 紙すき工房
コニギル・ツーリズムビレッジ 紙すき工房
無料のお茶とお菓子が置かれている土産売り場の前の屋外スペースで一休みしてみては?

シヨブ川に沿って歩いていくと、他にもさまざまな工房やお店を目にすることができます。こちらはオンシーズンにオープンするレストランで、風が吹き抜ける気持ちのいい空間で手作りプロフなどを食べることができます。

コニギル・ツーリズムビレッジ レストラン

紙すき工房と同じく水車を利用しているこの作業場は油搾り小屋。この国の油はあらゆる原料を使って作られていますが、ここでは代表的な油である綿花油や亜麻仁油などを、これまた昔ながらの製法で作っているのです。

コニギル・ツーリズムビレッジ 油搾り小屋

ツーリズムビレッジの最奥部にあるのが陶芸工房。現在サマルカンドの陶芸職人はそれほど多くないものの、ティムール帝国期には国じゅうから敏腕な職人たちが集められ、陶器作りが盛んだったとのこと。この陶芸工房でも、紙すき同様昔ながらの技法を復活させようと職人さんが奮闘しています。職人さんがろくろを回し、陶器ができ上がっていく様子を見せてくれるので、こちらもぜひ見学してみましょう。希望者は制作体験に参加することもできます。
余談ですが、この陶芸職人と初めて会ったのは市内の公衆ハマムにて。あなた日本人?日本の陶芸職人が来て技を教えてもらったことがあるよ、と話しかけられたのでした。いにしえの時代でも、このようにハマムで職人と外国人が言葉を交わしていたりしていたのだろうか...と想像してしまいました。

コニギルメロス紙すき工房 陶芸工房

その他このツーリズムビレッジ内にはナン作り工房やゆりかご工房などといった工房がありますが、見切り発車でオープンしたのかまだ開いていない工房もちらほら。全ての工房が揃えば、ここだけで丸一日楽しめる素晴らしい施設になるはずです。

コニギル・ツーリズムビレッジ シヨブ川
シヨブ川沿いの小道を気持ちよく散歩しよう

なおこのコニギル・ツーリズムビレッジは先述の通り市内から少し遠く、主にタクシーでのアクセスがメインになります。ここに行く時間はないけどサマルカンドペーパーを買ってみたい!という方は、レギスタン広場のティラカリ・メドレセ(黄金の礼拝所がある神学校)内にあるお土産屋で購入可。しかし百聞は一見に如かずということで、もし行ける余裕があれば、ぜひ実際にコニギル・ツーリズムビレッジに行ってしっかり職人技を見学してみてください。

それではコルシュグンチャ・ハイル(また会う日まで)!

■コニギル・ツーリズムビレッジ Konigil Tourism Village

住所
Konigil mahallasi, Samarqand
電話番号
+998-90-224-3496
営業時間
08:00~18:00(冬季は09:00~17:00。予告なく変更となる可能性あり)
入場料
1万スム(予告なく変更となる可能性あり)
アクセス
ティムール像前やシヨブバザール下バス停を経由する60番バスが停まるKonigil merosバス停から徒歩すぐ。シヨブバザールやレギスタン広場からタクシーで約15分

筆者

ウズベキスタン特派員

伊藤 卓巳

根っからのスタン系大好き人間です。まだまだ知られていないウズベキスタンの魅力や情報を、サマルカンドより愛をこめてお伝えします!

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