パリ日本文化会館の「江戸東京と動物たちとの暮らし」展、テーマと展示品の素晴らしさ光る

公開日 : 2022年11月14日
最終更新 :

エッフェル塔近くにあるパリ日本文化会館では、2023年1月23日まで「いきもの:江戸東京 動物たちとの暮らし」展が開かれています。現在改装休館中の東京にある江戸東京博物館から、休館中だからこそ可能となった選りすぐりのコレクションを、動物をテーマに展開した特別展です。

作者不詳「江戸図屏風」
作者不詳「江戸図屏風」

江戸時代(1603~1868)というのは、世界史上でも極めて珍しい、国内で戦乱が起こらず長期にわたり平和が続いた時代でした。現在の東京である江戸に幕府が置かれ、18世紀初頭には江戸は人口100万人の巨大都市に成長していました。都市に暮らしていたのは人間だけではなく、さまざまな動物たちもそこにあり、飼育された動物もいれば野生の動物もいました。今回の特別展では、大きく5つに分けてその様子を当時の美術品などを通じて紹介しています。

  1. 江戸のいきもの~「江戸図屏風」の動物を探してみよう
  2. 飼育されるいきもの
  3. 野生のいきもの
  4. 見られるいきもの~見世物から動物園へ
  5. デザインのなかのいきもの

同展でまず迎えてくれるのがフランス人画家ジョルジュ・ビゴーのイラスト。ビゴーは1882年から日本に17年間滞在し、日本の世相を伝える多くの絵画を残しています。そのなかには動物と人とをユーモラスに描き出したものもあり、今回の特別展では、明治初期に描かれた肉屋の前に客と同じように犬も肉を待っている様子が描かれた挿絵が展示されています。

ジョルジュ・ビゴー「肉屋」(『あさ』)
ジョルジュ・ビゴー「肉屋」(『あさ』)

次に目に飛び込んでくるのが「江戸図屏風」です。1634年頃に3代将軍・徳川家光のために描かれたといわれており、人や建物の他に多くの動物が描き込まれています。この中に何ヵ所か家光が描かれているそうで、ちょっとした「ウォーリーを探せ」も楽しめます。ちなみに家光は家来に傘をさしてもらっているそうです。

歴史の時間に習った5代将軍・綱吉の「生類憐れみの令」に関した高札の展示もあります。

「生類憐れみの令」に関する高札
「生類憐れみの令」に関する高札

続いては、馬や牛といった軍事または農耕などで使われた動物、そして犬や猫などの愛玩用の動物について作品展示が続きます。江戸は武士の町として成立した性格上、馬が多く飼われていたそうです。

現代においても私たちにとって身近な動物である犬も、江戸時代は町中にたくさんいました。しかしそれら犬は、自由に歩き回る野良犬ではなく、町(区画)の中で飼われていた町犬だったそうです。当時の江戸の各町は、夜になると道の両端を閉めて閉鎖した空間となる仕組みになっていたそうで、つまり犬も、一定の区画の中を歩いてはいましたが、区画と区画を越えては移動していなかったそうです。

そして必見なのが「鶉会之図屏風」。ウズラの鳴き声の美しさを競う会の様子を表した屏風です。よく見ると刀を差した人とそうでない人が描かれています。武士や商人など違う身分の人でも、当時このような趣味の会には身分混ざって参加していたことがこの屏風から読み取れるとのことでした。なお、同特別展前日にメディア向けに行われた説明会では、このような「ウズラの鳴き声を競う会」の風景を描いた屏風はこの鶉会之図屏風くらいではないかとの江戸東京博物館の学芸員さん談でした。

作者不詳「鶉会之図屏風」
作者不詳「鶉会之図屏風」

飼われていた動物を紹介した後は、野生の動物について続きます。この中で個人的に興味を惹いたのが江戸と鶴との関わり。当時、「御成鶴」と呼ばれる、江戸で鶴を捕まえて朝廷に献上する恒例行事が11月下旬くらいに行われていたそうです。江戸の千住三河島、小松川、品川目黒にその鶴を捕まえる場所があり、そこは鶴が飛来するように自然環境が残され、周囲の家などは屋根の修理などにも許可が必要だったとのこと。そこに鶴がちゃんとやって来るように餌などもまいたそうです。

また、日本ではすでに野生のコウノトリは絶滅していますが、当時は江戸にもコウノトリが住んでいたそうです。お寺の屋根の上に巣を作っている姿を描いた絵なども、今回展示されています。

さらに興味深かったのがネズミ。今の私たちにとってネズミは害獣として扱われていますが、江戸時代にネズミは大黒天の使いとして福を運んでくる動物と思われていたということ。今回は、商家に出たネズミをありがたがっている様子を描いた錦絵が展示されています。江戸時代にはネズミを飼育するブームも起きたそうで、ハツカネズミだけでなくドブネズミなどもペットとして可愛がったのだとか!

楊洲周延「千代田之御表 鶴御成」
楊洲周延「千代田之御表 鶴御成」

続いては、見せ物として飼われていた動物についての展示が続きます。江戸時代には、象、ラクダ、虎といった日本には生息していない珍しい動物を見ると、ご利益があると思われていたそうです。それら縁起物を見るために、人々は見せ物小屋に集まったといいます。

歌川国安「駱駝之図」
歌川国安「駱駝之図」

最後が動物をモチーフにした服やおもちゃなどの展示でまとめになります。動物は生活の中のさまざまなデザインになり、縁起が良いと思われていた動物などが着物に描かれていたり、子供のおもちゃにもなっています。たとえば犬は、比較的楽に子供を産むと思われていたことから、安産の縁起物として扱われていました。

「夜着 孔雀模様」(右)など
「夜着 孔雀模様」(右)など

展示品を見ているだけでも楽しいですが、その背景を知ると面白さは何倍にも膨らみます。このようなコレクションがフランスで揃うことはなかなかないそうなので、ぜひ一度訪れてみることをおすすめします。

Maison de la culture du Japon à Paris(国際交流基金 パリ日本文化会館)

住所
101 bis Quai Branly 75015 Paris
期間
2022年11月9日~2023年1月21日

筆者

フランス特派員

守隨 亨延

パリ在住ジャーナリスト(フランス外務省発行記者証所持)。渡航経験は欧州を中心に約60カ国800都市です。

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