写真家・土門拳のフランス初の特別展がパリ日本文化会館で開催中

公開日 : 2023年04月30日
最終更新 :

2023年7月13日までパリ日本文化会館で、昭和を代表する写真家・土門拳(1909〜1990年)の展覧会「土門拳 日本のリアリズムの巨匠」が開催中です。戦前、戦中、戦後と激動の昭和を生き、リアリズムにこだわった報道写真や、仏像など日本の伝統文化を切り取った作品を発表した、日本を代表する写真家です。そのフランス初となる展覧会が今、パリで開かれています。

プロパガンダから戦後はリアリズムへ

戦前に土門が撮影した作品群
戦前に土門が撮影した作品群

今回の展覧会では、山形県酒田市にある土門拳記念館の協力のもと、同記念館のコレクション約100点がフランスで初めて公開されています。土門拳は駆け出しの頃から晩年に至るまで、さまざまな被写体に対してきました。その多様性とともに、土門の技術や写真へのアプローチが、時代によってどのように遷移していったかを順を追って見ることができます。

展覧会は大きく5つのゾーンに分けることができます。

まずは戦前、土門が勤め人としてフォトジャーナリストの活動をしていた頃の作品です。のどかな日本の様子を写しつつも、日本海軍や出征風景、日本赤十字看護婦養成所など、次第に迫り来る戦争の足音、それに伴うプロパガンダとしての作品など、その後日本には暗く険しい時代の帷(とばり)が下りていきます。

二つ目が戦後すぐ1950年代の作品が続きます。戦後、土門はフリーの写真家として活動し、リアリズム写真を提唱していきます。無謀な戦いに敗れた日本にはアメリカを中心とした連合国が駐屯。銀座の交差点にはMP(米軍憲兵)が立って交通をさばき、地方都市でも若者たちは真っ白なワンピースにサングラスというような、アメリカに憧れた出立ちで町を歩きます。大きく変わった日本社会は、新たな道を歩み始めたかのように思えますが、どの作品にもどこか影を感じさせます。

被爆地でもそこには人々の生活がある
被爆地でもそこには人々の生活がある

復興が垣間見える一方で、戦争による爪痕は依然残り、貧困が日本から消えたわけではありません。3つ目では、原爆投下の12年後の1957年に初めて広島を訪れた土門拳が切り取った原爆被害の実体、そして続く後遺症と戦争の悲惨さを、目を逸らすことなくカメラでとらえています。あわせて戦後、石炭から石油へとエネルギー転換が起きると、今まで栄えていた九州の炭田地帯は多くの失業者であふれました。閉山する筑豊の炭田と貧しさ、親を亡くした子供たちなど、そこには社会に救済されず見捨てられていく人々が多くいました。

初めてフランス人の目にきっちりと映った土門作品

ずらりと並ぶ土門拳が撮った歴史的著名人
ずらりと並ぶ土門拳が撮った歴史的著名人

4つ目がポートレートです。土門拳記念館によると、土門は住んでいた明石町の家の襖に、撮りたい人物の名前をびっしりと墨筆し、撮り終わった人から墨線で消していたそうです。展覧会では、志賀直哉、川端康成、三島由紀夫、谷崎潤一郎、藤田嗣治、小津安二郎、三船敏郎、水谷八重子など、土門が撮ってきた著名人の肖像写真が並びます。

最後が古寺や仏像です。土門の写真集である『古寺巡礼』は第5集で完結しますが、土門にとって古寺巡礼自体は、まず1939年に初めて室生寺を訪れ、その翌年に広隆寺と中宮寺の弥勒菩薩を撮影したところから始まり、1978年に雪の室生寺の撮影で終わりました。40年にわたって撮り続けた大作となっています。展示されている写真からも、その場の静謐(せいひつ)な雰囲気が伝わってくるかのようです。

実際に雪の室生寺にいるかのような雰囲気が作品から伝わってくる
実際に雪の室生寺にいるかのような雰囲気が作品から伝わってくる

今回の展覧会の監修をしたミラノ大学東アジア美術史准教授のロッセッラ・メネガッゾさんは、同時代のリアリズムの写真家・木村伊兵衛を引き合いに出し、自ら積極的に海外と接点を持った木村に対して、土門は真逆であると述べます。偉大な写真家であるにもかかわらず、その活動範囲から今までは日本国内で注目されることが多く、世界からは知る人ぞ知る写真家だったそうです。今回のパリ日本文化会館での展覧会は、フランスで土門拳が知られていく一つの良い機会となりそうです。

名称
パリ日本文化会館(Maison de la culture du Japon à Paris)
住所
101 Bis, Quai Jacques-Chirac 75015
期間
「土門拳 日本のリアリズムの巨匠」2023年4月26日〜同7月13日

筆者

フランス特派員

守隨 亨延

パリ在住ジャーナリスト(フランス外務省発行記者証所持)。渡航経験は欧州を中心に約60カ国800都市です。

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