桜島・錦江湾の豊かな自然を気づきと発見で楽しむ、名ガイド主宰のシーカヤックツアー

公開日 : 2023年01月31日
最終更新 :

いつもの旅にSDGsの視点を――。SDGsとは持続可能な開発目標のこと。近年、観光分野でもSDGsを取り入れた、レスポンシブルツーリズム(環境への負荷を考え、責任を持って旅をする)という考え方が注目されています。霧島、桜島・錦江湾の火山や自然、それらと共にある人びとの暮らしや歴史文化などを、この先も魅力あふれる旅の舞台や要素としていくにはどんな旅人になればよいのか? 今回は、「かごしまカヤックス」を主宰する冒険家でプロツアーガイドの野元尚巳さんに、遊びの場・学びの場としての桜島・錦江湾の魅力と、遊び方・学び方についてお話を伺いました。

国内外の冒険ツアーを経験したことで改めて向き合った故郷、桜島・錦江湾

桜島・錦江湾を五感で楽しむ、「かごしまカヤックス」のシーカヤックツアー
桜島・錦江湾を五感で楽しむ、「かごしまカヤックス」のシーカヤックツアー

JSPA(日本セーフティーパドリング協会)の公認スクール、「かごしまカヤックス」。桜島・錦江湾をベースフィールドに、南北600㎞に及ぶ鹿児島の海でのシーカヤックツアーをはじめ、自治体や国と連携した活動や、ネイチャーガイドの養成事業などを行っています。

主宰するのは、桜島・錦江湾ジオパーク推進協議会認定ジオガイドの野元尚巳さん。プロツアーガイドとして約25年のキャリアをもち、64歳とは思えない若々しさとバイタリティーで活躍するベテランガイドです。国内外のネイチャーフィールドを舞台に数々の経験と実績を重ねてきた冒険家として、ご存じの方もいらっしゃることでしょう。

元々は特別な意識がなかったという野元さんの桜島・錦江湾語りは、旅行者と感覚が近い
元々は特別な意識がなかったという野元さんの桜島・錦江湾語りは、旅行者と感覚が近い

今でこそ、生まれ育った桜島・錦江湾エリアをベースに、シーカヤック主体のガイド活動を展開している野元さん。しかし、かつてはシーカヤックにも地元の自然にも特別な思いを抱いていなかったそうです。

「桜島対岸の鹿児島市街で生まれ育った私にとって、錦江湾の海は特別な存在ではありませんでした。海辺で遊んだり釣りをしたり、ごくごく当たり前にある遊び場だったんです。大人になってもアウトドア遊びが大好きでしたが、桜島や錦江湾などの身近な自然に対して、取り立てて特別な思いを抱くようなことはなかったですね。高校時代から自転車にのめりこんでいたので、国内や海外にツーリング旅へ出て楽しんでいましたよ(笑)」。

そんな野元さんは、40歳の時にアウトドアの師匠である河野兵市氏から勧められ、シーカヤックの魅力に開眼。以来、海外や国内の各地でシーカヤックの冒険旅を繰り返してきました。その経験を通じ、改めて地元の街や自然に対する意識が高められたと言います。

流氷が浮かぶアラスカ・ベーリング海遠征時の野元さん。当時40歳
流氷が浮かぶアラスカ・ベーリング海遠征時の野元さん。当時40歳

「河野さんの勧めでシーカヤックに初めて乗ったその日にアラスカ・ベーリング海への冒険旅を決め、シーカヤック旅4回目の1998年に流氷が浮かぶ現地の海を漕いでいました。すぐ1年後には、アラスカ・ジュノーからカナダ・バンクーバーまでのシーカヤック遠征を達成(笑)。ただ、その旅の準備で入ったシアトルで町の風景を見た時、今までになかった強烈な印象を受けました。シアトルといえば、アメリカ・ワシントン州最大のビッグシティ。にも関わらず、山や湾、森や緑地などの自然がすぐ近くにある。そんな風景が、市街地に桜島・錦江湾が隣接する鹿児島とオーバーラップしました。同時に、『自分は地元の町や自然のことをどれだけ知っているんだろう』と強く恥じ、『地元をもっと知りたい』と思ったんです」

人口60万の大都市と、活火山・桜島をはじめとした豊かな自然が共存

野元さんがシアトルの風景とオーバーラップした、大都市と大自然がすぐそばで隣り合う鹿児島の風 kazukiatuko / PIXTA(ピクスタ)
野元さんがシアトルの風景とオーバーラップした、大都市と大自然がすぐそばで隣り合う鹿児島の風 kazukiatuko / PIXTA(ピクスタ)

アメリカ・シアトルでの経験から、地元の町と自然に向き合い始めた野元さん。それまで続けてきた会社経営を辞め、40歳を過ぎてからネイチャーガイドとしての新しい人生をスタートさせました。
そんな野元さんが向き合う地元、桜島・錦江湾。どういった点に、魅力や特徴、素晴らしさを見出しているのでしょうか。

「私がシアトルで感じた魅力は、町、それも大都市と、大自然の近さ。鹿児島もまったく同じ環境だと思っています。人口60万人を擁する県庁所在地の大都市に、これだけの自然の海岸線が残っているところはほかに無いんじゃないでしょうか。そういうミスマッチやギャップが、鹿児島市、なかでも桜島・錦江湾エリアの個性であり特徴であり、魅力だと思いますね」

野元さんの言葉どおり、大都市と自然の近さという点は、桜島・錦江湾エリアの大きな特徴。“都市から少し離れただけで、豊かな自然が広がる”といったフレーズはほかでもよく見聞きしますが、少しも離れずすぐそばというのは、確かに思い当たりません。

日々、白い噴煙を上げる桜島。山麓には植生の異なる森がグラデーションを形成
日々、白い噴煙を上げる桜島。山麓には植生の異なる森がグラデーションを形成

「そして、その自然海岸を作り出しているのが、皆さんご存じの活火山、桜島。“かつての噴火で生まれた”とか“火山活動の痕跡が色濃く残る”というような過去の話ではなく、“毎日白い噴煙が上がり、時に激しく噴火して火山灰を撒き散らす”リアル活火山ですよ。大都市のすぐそばに活火山がある、すごいことですよね(笑)。これほどエキサイティングでインタレスティングな場所は、唯一無二といっても過言ではないでしょう。噴火を含む火山活動がもたらす生態系や植生の豊かさ、活火山であるがゆえに自然環境が現在進行形で変化している点も、実に個性的です」

自然環境に負荷をかけず、その懐に飛び込んで楽しめる、シーカヤックツアーの醍醐味

楽しむこと、人力で旅すること。シーカヤックには野元さんのこだわりが両立
楽しむこと、人力で旅すること。シーカヤックには野元さんのこだわりが両立

国内外で数々の経験を積んだ冒険家のベテランガイドが、「エキサイティングでインタレスティング」と形容するネイチャーフィールド、桜島・錦江湾。
その魅力を深く知り、体感するには、シーカヤックが最適だと野元さんは言います。

「私はこれまで、いろいろな方法で国内外各地を旅してきました。自転車に乗ったり、歩いたり、シーカヤックに乗ったり……。旅にこだわりを持ち込むのが嫌いな性分で、楽しむことが一番だと思っているのですが、唯一こだわっているとすれば自然環境に負荷をかけない『人力』で旅することですね。そんななかで、桜島・錦江湾を楽しむベストな方法として、シーカヤックツアーをおすすめしています。私にとってシーカヤッキングは、海のトレッキングという位置づけ。海の上を、ゆっくり歩くように巡る。そんなイメージでしょうか。海上から手つかずの自然に近づくことができるので、これまで知らなかった桜島の素顔に出会えるはずです。内海の錦江湾は波が穏やかですから、シーカヤックビギナーの方でも存分に楽しんでいただけます」

「かごしまカヤックス」のシーカヤックガイドツアーは、3時間コースと1日コースが定番。そのうち圧倒的な人気と支持を集めているのが3時間コースで、「海中温泉ツアー」と「桜島溶岩原ツアー」、2つのメニューが用意されています。

海中温泉ツアー。砂浜を掘ると湧き出す温泉で、足湯が楽しめる
海中温泉ツアー。砂浜を掘ると湧き出す温泉で、足湯が楽しめる

『海中温泉ツアー』は、桜島沿岸の海中に湧き出す温泉を目指す探検カヤッキング。さすがに海中の温泉で湯浴みは無理ですが、海岸に上陸して砂浜を掘ると温泉が湧き出てくる場所もあるので、足湯を作って楽しめます。桜島が火山であることを改めて実感し、砂浜から湧き出す温泉に足を浸けて火山の恵みを体感しましょう。

桜島溶岩原ツアー。錦江湾の無人島・神瀬にも上陸
桜島溶岩原ツアー。錦江湾の無人島・神瀬にも上陸

桜島の東海岸には、『文明』『安永』『大正』『昭和』の大噴火で海まで流れ着いて固まった溶岩原が点在しています。『桜島溶岩原ツアー』では、海上から溶岩原に最接近。桜島の壮大なエネルギーを感じ、火山が作った自然の景観を楽しみましょう。天候などの条件が良く、時間と体力に余裕があれば、錦江湾に浮かぶ無人島・神瀬への上陸も目指せます。

こうした定番のパッケージツアーに対し、“杓子定規にプログラムが進んで面白くない”というネガティブなイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。そんな方にこそ、『かごしまカヤックス』のツアーがおすすめです。

「ツアーガイドの務めは、ゲストの安全を最優先に、正しい知識と技術、楽しいプログラムを提供すること。ですが、それらは私たちにとってあくまで大前提。提供したい最も大切なことは、ゲストの気づきや発見です。そのため、私たちのツアーでは、予め用意したプログラムを行うだけでなく、ガイドの目が届く範囲でゲストの自由にお任せするフリータイムを設けています。その時間を通じ、ご自身で桜島と錦江湾の“何か”に気づいたり発見したりしていただければ、これほどうれしいことはありません」

桜島・錦江湾をレスポンシブル・ツーリズムの聖地とするために

清掃活動、カヤックビーチクリーン。ガイドとゲストのエコ意識が、桜島・錦江湾のより良い環境に繋がる
清掃活動、カヤックビーチクリーン。ガイドとゲストのエコ意識が、桜島・錦江湾のより良い環境に繋がる

国内外での経験を通して、地元・鹿児島の街や自然の素晴らしさと魅力に気づき、発見した野元さん。だからこそ、旅人にも同じ喜びや感動を体感してほしいと願うのでしょう。
桜島・錦江湾でのガイドツアーをはじめ、国内外での遠征、講演、講習などマルチタスクを高レベルで遂行しながら、気づきと発見の喜びを伝え広めています。そんな野元さんですが、まだまだ自身のタスクは尽きないようです。

「錦江湾の水質は、昔と比べ格段に良くなりました。一方で、浜辺にはペットボトルやビニールなどのプラスチックゴミがプカプカ……。自然と向き合い、そこで活動し、そこにゲストを誘うネイチャーガイドが、エコを意識するのは当たり前。その意識を体現する活動として、20年以上前からビーチクリーンを行ってきました。10年の節目をきっかけに、来年あたりからは“ビーチクリーンツアー”としてメニューに加えようと準備中です。『ツアーのゲストにゴミ掃除をさせるのか』という声も聞こえてきそうですが、私はゲストと一緒に取り組むことに意義があると考えています。桜島・錦江湾の素晴らしい部分だけでなく、リアルな現状からも気づきや発見をしていただきたい。それにより、ガイドとゲストのエコ意識が一体化し、より良い自然環境づくりに繋がるものと信じています」

桜島・錦江湾のエコは、清濁併せ吞んでこそ。こうした思慮の深さにも、大ベテランの名ガイド、野元さんらしさが感じられます。
さらには、ガイド側の課題や今後のビジョンについても熱く語っていただきました。

野元さんと若手スタッフ。野元イズムは、次世代へと受け継がれていく
野元さんと若手スタッフ。野元イズムは、次世代へと受け継がれていく

「コロナ禍などによって人びとのアウトドア志向が高まり、ガイドの存在や価値、資格や制度が見直されてきていますが、世界的な水準に比べ遅れをとっていることは否めません。でも、そういう現状をなげいているだけでは何も進まない……。私たちガイドは、自身の資質を高めると同時に、次世代へバトンを継承いくことが大切だと考えます。先ほども少し触れましたが、知識や技術、安全はガイドにとって当たり前の資質です。それらを備えたうえで、ゲスト個々のレベルやニーズに沿って、いかに高いホスピタリティを発揮できるか。その追求に、ゴールはありません」

『ガイドとしての資質のあくなき追求』。それは、桜島・錦江湾をレスポンシブル・ツーリズムの聖地にし、より多くの気づきや発見をゲストに提供したいという、野元さんの純粋な思いそのものなのでしょう。
となれば、私たち旅行者がすべきことは実にシンプル。大自然の懐で、より多くの気づきと発見を経験することです。

■かごしまカヤックス シーカヤックツアー
・料金:9,000円~
・予約:2日前までに要予約
・所要時間:3時間または1日
・催行人数:2名~
・参加可能年齢:10歳~
・スタート時間:午前コース9:00、午後コース13:00
・集合場所:国民宿舎レインボー桜島駐車場
鹿児島県鹿児島市桜島横山町1722-16
・問合せ:かごしまカヤックス 090-4583-6920

筆者

地球の歩き方観光マーケティング事業部

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