名ガイドから教わる、ジオパークとしての霧島の魅力

公開日 : 2023年01月31日
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いつもの旅にSDGsの視点を――。SDGsとは持続可能な開発目標のこと。近年、観光分野でもSDGsを取り入れた、レスポンシブルツーリズム(環境への負荷を考え、責任を持って旅をする)という考え方が注目されています。霧島、桜島・錦江湾の火山や自然、それらと共にある人びとの暮らしや歴史文化などを、この先も魅力あふれる旅の舞台や要素としていくにはどんな旅人になればよいのか? 今回は、桜島・錦江湾ジオパークでのガイド活動を行う桜島ジオサルクの代表で、霧島ジオパーク認定ガイドとしても活躍中の高田昌志さんに、ジオパークとしての霧島の魅力や、楽しむためのアプローチのヒントについてお話を伺いました。(TOP画像 ©霧島ジオパーク推進連絡協議会)

滋賀から鹿児島へ移住し、ひしひしと肌で感じた火山の存在

2011年1月に起こった、霧島山・新燃岳の大噴火 ©霧島ジオパーク推進連絡協議会(永友武治氏撮影)
2011年1月に起こった、霧島山・新燃岳の大噴火 ©霧島ジオパーク推進連絡協議会(永友武治氏撮影)

宮崎県と鹿児島県にまたがり、20を超える火山が折り重なるように連なる霧島山。数十万年前以降、幾度となく噴火が繰り返されてきました。今もなお活発な火山活動が続いており、2011年に起こった新燃岳の大噴火は記憶に新しいところです。

霧島山一帯は、日本ジオパークに認定されています。ジオパークとは、地球科学的意義のあるサイトや景観が、保護、教育、持続可能な開発のすべてを含んだ総合的な考え方によって管理されたエリアのこと。地質や地形から地球の過去を知り、未来を考えて活動するための、壮大な自然公園といえます。

桜島ジオサルク代表、霧島ジオパーク認定ガイドの高田昌志さん
桜島ジオサルク代表、霧島ジオパーク認定ガイドの高田昌志さん

そんな霧島ジオパークで認定ガイドとして活躍しているのが、高田昌志さん。桜島・錦江湾ジオパークの認定ガイドや、ジオパークでのガイド活動を行う「桜島ジオサルク」の代表も務めています。御歳67とは思えない若さで鹿児島ガイド界の重鎮として多くの旅行者に支持される存在ですが、出身は滋賀県なのだとか。

「25歳の時、就職をきっかけに鹿児島へ移住しました。ちょうどその頃、桜島の火山活動が活発な時期で、火山灰で空が真っ黒になるのを見て衝撃を受けましたね。上手く表現できませんが、『空と大地が震える』ような感覚だったのを今でもよく覚えています(笑)。学生時代は山岳部で山は大好きでしたから、桜島や霧島山を歩きながら火山の存在をひしひしと感じていたものです」

「60歳の定年退職で仕事をリタイアし、火山をもっと知りたい、火山と共存している鹿児島のことをもっと知りたいと思うようになりました。霧島山の登山ガイドとして活動したり、日本ジオパーク全国大会に参加したり、具体的に動きながら経験を重ね、2016年に桜島・錦江湾ジオパーク、2022年に霧島ジオパークの認定ガイドになりました」

森林限界が低い火山では、気軽に高山気分が楽しめる

活火山のため森林限界が低い霧島山。気軽に高山の気分が味わえる ©霧島ジオパーク推進連絡協議会
活火山のため森林限界が低い霧島山。気軽に高山の気分が味わえる ©霧島ジオパーク推進連絡協議会

高校の山岳部に所属するなど、もともと山が大好きという高田さん。霧島の山について、どのような印象や魅力を感じているのでしょうか。

「霧島山の魅力は、何といっても現在進行形で活動している活火山だということです。噴火活動のレベルによっては入山規制がかかることもありますが、それも活火山であるからこそ。こういう山に登る経験は、ほかではなかなか出来ないでしょう」

さらに、「桜島のガイドもしている自分が言うのも変ですが(笑)」という前置きの後、活火山ならではの自然環境についても教えてくれました。

「霧島山は桜島に比べて自然が豊かで多様性に富んでいます。さまざまな点で、火山ならではの多様な自然環境に触れられるんです。例えば、植生。森林限界や高木限界という言葉をご存じですか? 気温や湿度などさまざまな自然環境の影響で高い木が育たず、森林が形成できなくなる境界のことです。日本アルプスなどの高山では、ある標高以上まで達すると木がなくなって岩ばかりの風景になりますよね。霧島屋は活火山なので、この森林限界の標高が低いんです。霧島山は、最高峰の韓国岳でも1,700mで、3,000m級の山が連なる日本アルプスに比べると手軽な山。にもかかわらず高山の気分が味わえるのは、大きな魅力だと思います。あとは、地を這うように咲き広がるミヤマキリシマの大群落も、高山気分をを駆り立ててくれるんですよね」

美しいピンク色の絨毯のように広がる、ミヤマキリシマの大群落霧島 ©霧島ジオパーク推進連絡協議会
美しいピンク色の絨毯のように広がる、ミヤマキリシマの大群落霧島 ©霧島ジオパーク推進連絡協議会

霧島を代表する植物、ミヤマキリシマ。阿蘇や久住、雲仙など九州各地の火山帯にも分布していますが、なかでも霧島のミヤマキリシマ大群落は有名です。高千穂峰から中岳、新燃岳、えびの高原の南西斜面に広く分布し、例年5月上旬から6月中旬の見頃には美しいピンク色の花を咲かせます。ちなみにミヤマキリシマは、火山性土壌に適応し、日当たりの良い環境を好む植物です。厳しい環境で生き抜くための植物の営みも、火山ならではのことです。

神話や伝承を含む歴史文化を面白がることも、霧島旅の大切な要素

天孫降臨の地、高千穂峰に鎮座する霧島神宮の元宮 Icchyou / PIXTA(ピクスタ)
天孫降臨の地、高千穂峰に鎮座する霧島神宮の元宮 Icchyou / PIXTA(ピクスタ)

さらに、高田さんは、歴史・文化の面白さという点も、霧島山の魅力を特徴づけていると考えているようです。

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神々が天上界の天の浮橋から下の世界をのぞくと、霧にけむる海のなかに島のようにみえるものがありました。神々は一本の鉾を取り出し、その島にしるしをつけました。それが霧島の名の由来だといわれています。その時、神々が逆さに落とした鉾は、見事に山の絶頂に突き刺さりました。今も高千穂の山頂に残る天の逆鉾は、その時の鉾だといわれています。
あるとき、アマテラスオオミカミの神勅を受けて、孫神ニニギノミコトが三種の神器を手に、7人の神様と道案内のサルタヒコノミコトとともに、高天原から地上に降り立ちます。天上界から神が地上に降り立ったといわれる「天孫降臨」の第一歩を記した高千穂峰から、日本の建国神話とその歴史が始まったと伝えられています。
※霧島市HP、「天孫降臨神話」より
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「霧島は、天孫降臨神話の舞台。霧島の山が日本最初の山ということで、根源的な場、魔境や秘境として捉えられてきました。こうした神話や伝承を、信じるか信じないかは個人の自由です。ただ、これもまた、この地に暮らした人たちが育んだ歴史・文化遺産のひとつなので、せっかくなら神話や伝承を含めた歴史文化を面白がってみることをお勧めします。高千穂峰の山頂に刺さる天の逆鉾、登山道の傍らに佇む霧島神宮の元宮など、神話の舞台となった証に触れることはもちろんですが、自分なりのイメージを広げながら、その場の歴史や文化を考えてみる。生産性の高さイコール良いことだとされる現代社会で、神話や伝説、伝承などに興味関心をもって掘り下げることも、大切な旅の要素なんじゃないでしょうか」

自作のパネルを使った分かりやすいガイドで、霧島山への理解が深まる
自作のパネルを使った分かりやすいガイドで、霧島山への理解が深まる

信不信の物差しで測らず、神話や伝承を面白がってみる。そんな高田さんのスタンスは、ガイドにも反映されています。自作のパネルを駆使しながら霧島の山に関わる神話や伝承を紐解き、通常の1.5倍以上の時間をかけてゆっくりと山を巡る独自のガイドは、旅行者からも大好評です。

ジオの本質を踏まえ、ジオパークの楽しみ方を理解する

ガイドや関係者の尽力で、ジオパークの本質や楽しみ方を正しく理解する人も増えている ©霧島ジオパーク推進連絡協議会
ガイドや関係者の尽力で、ジオパークの本質や楽しみ方を正しく理解する人も増えている ©霧島ジオパーク推進連絡協議会

ジオパークの認定ガイドとして、活きた火山である霧島山を登る楽しみとともに、神話や伝承などを含めたご当地の歴史文化の魅力を伝え続ける高田さん。
今後も、山好き、自然好きな旅行者を霧島へ誘いながら、サステナブルでレスポンシブルな旅のスタイルを追求していきたいと考えています。

「7,000年前にできた高千穂峰や、江戸時代の噴火でできた硫黄山など、霧島山の数十万年という長い歴史の中では若い山もあります。そうした山々は、まだ瘦せていて、長い年月を経てもっと豊かな山になっていくことでしょう。そうなるためには、今の霧島山に関わっている私たちが責任ある考えと行動で、未来につないでいくことが大切です」

「自然保全と観光という相対的なものを、いかに融合させるか。これは、一筋縄ではいかない永遠の課題かもしれません。ただ、昔と比べると、登山者や旅行者のモラルは高くなっていますし、自然環境に対する意識や関心の度合いも上がっていると感じています。ジオの本質を踏まえ、ジオパークの楽しみ方を理解される方も増えました。私の目標は、そういう方をもっともっと増やすこと。それが、サステナブルでレスポンシブルな霧島観光の明るい未来に繋がると思っています。『旅先の自然が自分たちに何をもたらしてくれるのか』ではなく、『旅先の自然に自分たちが何をもたらせるのか』。そんなことを頭の片隅にでも留めていただいて、ぜひ霧島の山へお越しください」

■桜島ジオサルク
・問合せ:080-4873-7574
・URL:http://s-geo369.main.jp/

■霧島ジオガイドネットワーク
・問合せ:0995-64-0936(霧島ジオパーク推進連絡協議会事務局)
・URL:https://kirishima-geopark.jp/guide/

霧島の名物を訪ねて~ サステナブルを体感する、麹と食のテーマパーク

鹿児島空港の近くに広大な敷地を構える麹と食のテーマパーク、バレルバレープラハ&GEN
鹿児島空港の近くに広大な敷地を構える麹と食のテーマパーク、バレルバレープラハ&GEN

ジオパークとしての霧島の魅力と、サステナブルでレスポンシブルな霧島観光への熱い思いを感じた、高田さんのお話。ここからは、霧島を訪ねたならぜひ立ち寄りたいスポットを2つご紹介します。

まずは、鹿児島空港からほど近い、バレルバレープラハ&GEN。1931(昭和6)年に鹿児島市で創業した種麹屋「河内源一郎商店」をルーツにもつ、麹と食のテーマパークです。
初代、河内源一郎氏は、麹研究の成果によって現代における焼酎文化の基盤を築き上げた御仁。その実績と精神は、霧島の地で今なお受け継がれています。

広大な敷地内には、焼酎蔵とビール醸造所があり、霧島の恵みである天然水を使った本格焼酎や本場チェコ仕込みのビールを製造。製造工程は一般公開されており、手間と時間を惜しまず丁寧に作られる様子が見学できます。もちろん、ショップで購入もできるので、お土産にも最適です。

破砕卵を麹にし、餌として育てた豚肉サステナブルメニュー。お肉の色もピンクの卵麹豚のしゃぶしゃぶ
破砕卵を麹にし、餌として育てた豚肉サステナブルメニュー。お肉の色もピンクの卵麹豚のしゃぶしゃぶ

そして、併設のレストラン「麹蔵GEN」では、豚肉、魚、野菜、卵など、自慢の麹で育てた食材の料理がラインナップしています。なかでも注目は、80万羽分もの破砕卵を麹にした飼料で育てた豚肉の料理。「卵かけご飯で育った豚」と呼ばれる豚肉は、臭みが一切ないコク深い味と、適度な霜降りが特徴です。

麹研究の成果でサステナブルな社会に貢献する、会長の山元正博さん
麹研究の成果でサステナブルな社会に貢献する、会長の山元正博さん

食べられるのに捨てられる破砕卵を麹製造技術を駆使し、高付加価値な餌にし、質の高い豚肉を作り出すという取り組みは、まさにサステナブルといえるでしょう。考案したのは、老舗麹屋の三代目で現会長の山元正博さん。農学博士として麹の機能性を追求する、麹研究の第一人者です。

焼酎廃液を麹菌の発酵熱で乾燥させた飼料や、おからを乳酸菌と麹で腐敗を防止した飼料、麹を食べた豚の糞から作った堆肥で育てた蕎麦など、食のサステナブル化に関する取り組みで、各界から注目を集めています。

■バレルバレープラハ&gen
・住所:鹿児島県霧島市溝辺町麓876-15
・問合せ:0995-58-2535
・営業時間:8:30~17:00、年末年始休/レストラン11:00~15:00、水曜定休
・URL:https://praha-gen.com/

霧島の名物を訪ねて~ 日本初の黒酢レストランで、黒酢の魅力を存分に

日本初の黒酢レストラン、黒酢の郷 桷志田
日本初の黒酢レストラン、黒酢の郷 桷志田

2つめは、霧島市福山町にある、黒酢の郷 桷志田です。霧島市の南端、錦江湾の北東に位置する福山町は、江戸時代から続く黒酢の名産地。屋外に壺を並べた壺畑で黒酢を醸造する昔ながらの技法が、今なお受け継がれています。

そんな地にある黒酢の郷 桷志田は、日本初の黒酢レストランとして知られる人気スポット。200年以上続く黒酢醸造の製法を大切に守りつつ、時代に合わせて進化させた黒酢文化を、レストランでの食を通じて体感させてくれます。

黒酢ランチコース。黒豚の黒酢酢豚をメインに、黒酢を使った創作料理が満載
黒酢ランチコース。黒豚の黒酢酢豚をメインに、黒酢を使った創作料理が満載

提供されるメニューは、すべての料理に自社銘柄の有機黒酢「桷志田」を使用。自社農園の有機野菜をふんだんに盛り込んだ創作料理の数々は、味はもちろん見た目にも美味しく、かつヘルシーです。おすすめは、お肉・お魚・パスタなど豊富な種類のメニューから、メインを選べる黒酢ランチコース。黒豚の黒酢酢豚をメインに、前菜やサラダ、小鉢、スープ、デザートにも黒酢を使用しており、黒酢の魅力を存分に堪能できます。

約2万個もの壺が並ぶ壺畑で、黒酢を醸造している壺を見学できる
約2万個もの壺が並ぶ壺畑で、黒酢を醸造している壺を見学できる

食前や食後のひと時には、壺畑の見学へ。観光用ではなく実際に醸造が行われている壺畑を、専属スタッフが無料で案内してくれます。桜島と錦江湾の雄大な景色をバックに、約2万個もの壺が並ぶ様子は圧巻。映える写真が撮れること請け合いです。

■黒酢の郷 桷志田
・住所:鹿児島県霧島市福山町福山311-2
・問合せ:0995-55-3231
・営業時間:9:00~17:00、ランチタイム11:00~15:00LO(土日祝10:30~) 無休
・URL:https://kurozurestaurant.com/

筆者

地球の歩き方観光マーケティング事業部

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