
ドイツ、レーゲンスブルクにある富豪商人の家「グラーヴェンロイター・ハウス」
富豪商人と呼ばれる、遠隔貿易でお金を貯めた商人たちが、ここレーゲンスブルクの町の原型を造ったと言っても過言ではありません。
レーゲンスブルクには、13世紀から15世紀に建てられたそんな家がたくさん残っているのです。
その中でも、1、2を争う豪華な建物がこのグラーヴェンロイター・ハウス(Gravenreuter Haus)です。
名前を聞いただけでは、実際レーゲンスブルクに住んでいる人にも、それってどこ?と思うでしょうが、ヒンター・デア・グリーブ(Hinter der Grieb)にあるレストランの名前を言えば、通じるでしょう。(一階はイタリアン・レストランです。)
いろいろな名前があり、独日教会や、レーゲンスブルク大学の交際交流関連、レーゲンスブルク大学の短期滞在の外国人教授とその家族の間では知られた建物ですが、一般人は、まず、この家について何も知らないはず。
通りから見た感じ、どこにでもあるレーゲンスブルクの家の一つで、しかも内部を自由に見ることもできないため、歴史的に大きな価値を持っているなんて、気づくはずもありません。
上の写真は、ヒンター・デア・グリーブという東西に走る細い道に面した入り口を入ってすぐ左側にある部屋の天井です。小規模の勉強会やちょっとしたイベントなどが開催できる部屋です。人でごった返していたので、全体写真が撮れませんでしたが。白いキャンバスと近代的設備があるので資料も投影できます。アップライトのピアノも常備されているようです。私もここで、昔ですが独日教会主催の講演会を聞いたり、尺八のコンサートを聴きに来たりしたことがあります。
そして、この部屋から奥に続くところには、かつてのハウスチャペルがあります。ガイドの勉強をしていた10数年前には、レーゲンスブルクには確認されるだけでも22個のハウスチャペルがある、と習いましたが、そのうちの2つがここにはあります。というのも、そもそもは2軒の家であり、それぞれが一つづつチャペルを所有していたからです。
そのハウスチャペルのうちの一つを見てみましょう。

写真には、一つだけ窓がありますが、その左側にもかつては窓がありましたが、閉じられています。
天井は大きく二つに分かれています。ゴシックの天井で、左側は真ん中にある止めの石から5股に分かれていますが、右側のそれは、4股です。5股に分かれているものは珍しいタイプです。レーゲンスブルクで私は多分今まで意識しては3つ位しかみたことがありませんが、もう少しあると思います。左(西)側のものは、中央の止めの石の部分に龍が、右(東)側のものにはブドウがデザインされているとの説明を受けましたが、私にはちょっと不明でした。ちょっとドアップで東側のものも見てみましょう。


そしてもっと面白いと思ったのは、なんと、ここを手がけた人と、レーゲンスブルクの大聖堂の石工マイスターが同一人物の可能性が高い、ということ。大聖堂の回廊と、ここのチャペルには共通点があるのだそうです。
今回のガイド付きツアーは、暗くなり始める直前に始まった夕方のツアーで、中庭には全く足を踏み入れることもなく残念でしたが、2017年9月でご紹介した記事に写真がありますので、そちらも併せてご覧くださ。(文末にリンクがあります)。
この建物は、東と西に並ぶ元々2軒の商人の家が、14世紀半ば頃に一つになったもの。記録が少なく、分からないこともたくさんあり、どちらに誰が住んでいたのかさえもはっきりはわからないようです。
レーゲンスブルクには、たくさんの塔があって、それがこの町の特徴の一つでもあるのですが、実は、通りから見える所に塔を造ることができるのは貴族だけ、という時代があったのだそうです。
この建物は、富豪商人(Patrizier)が建てたものですから、外からは見えない、中庭からのみ見える塔が建てられたのです。
しかも、当時は1つの家に1つの塔しか許されなかったのですが、ここは元々二つの家が一つになったものですので、二つの塔が存在するというわけです。
それでは、上の階に行ってみましょう。
建物は、1階がイタリアン・レストランとなっていて、2階以上は大学の客員教授たちの住居。地下は以前はディスコやバーとして使われていたのです(今から30年ほど前に学生だった世代は、当時よく通っていたそうです)が、今は、大学のインターナショナル・オフィスの管理下になっています。見学した日はファッシングで町が賑わう日であり、ちょうどパーティーが開催されていました。

この扉に施された彫刻は、人間であったり動物のようなものであったり、ちょっと謎めいたもの。実はこのデザインを研究すると、点と点がつながって、大発見につながるのだそうです。昔の技術者が一体どこで活躍していたかが分かり、レーゲンスブルクの大聖堂、ナウムブルクの大聖堂(チューリンゲン州に近いザクセン州)やラン(北フランス)などと共通点があるのだそうです。
そしてこの扉の奥は、プレジデント・スイート。
大学側が使っている部屋なので、普段は簡単に入れませんが、この時空室であったため、見学が可能でした。私にとっては、5年半前に見た印象が最も残っている部屋です。さ、入りましょう!

机は部屋に合わせてスウェーデンの家具屋から購入したものだそうです。部屋を見回しても、調度品を含めて新しいものも見受けられますが、部屋そのものは、歴史的に非常に価値のあるものです。

窓の上の方をご覧ください。石造りで大きなアーチがあります。これは1305年のオリジナルな部分だそうです。
ここは、昔ロッジアでした。ロッジアというのは、昔イタリアで盛んに使われていたスタイルで、レーゲンスブルクにもかつてはたくさん取り込まれました。開放的なベランダのような造りと想像すれば良いでしょう。
大きなアーチの下は、壁も窓もない状態です。
今は、ちょっとモダンすぎる窓が取り付けられ(1970年代)、足元には大きな2段の段が付けられています。こちらもかなり新しい感じですね。
(通りから見ると、ここの窓の部分は飛び出ています。)
写真中央部、ライトの下にある木の壁の一部にも注目いただきたいのですが、小さな四角い穴が二つ縦に並んでいます。
それぞれについて、もう少し見てみましょう。

石のアーチの部分、継ぎ目があまりにも鋭く直線で隙間なくびっしり。本当にオリジナル?と疑う気持ちもゼロではないのですが、でも、石を運ぶための持ち手となる凹んだ部分(?)みたいなのがあったりするのです。
今回ガイドツアーの参加者も多く、また、解説も2時間にも渡るくらい丁寧なものであったので、あえて確認しませんでしたが。
窓の下に長いベンチがあり、私はそこに大半を座っていました。お話を聞いてメモを取る合間に、あちこち観察。
これ(↑)は、金庫として、または貴重品を保管するための場所として使われていたのだろうと推測されます。
はい、調度品もなかなか素敵です。蓋の部分の彫刻、写真を撮り損ねていました。もうまずこの部屋に入ることはないでしょうから、残念です。
さて、奥の部屋へ移動します。
大きなソファーがゆったりある、ちょっとくつろげそうなお部屋です。あまりにも現代的な内装で、気づいたらこちらも写真を撮り損ねていましたが、窓、窓、窓。これ、素敵。

窓の外側は歴史的な建造物。そこに70年代窓をはめ込む形です。古い建物を守って、現代の快適な生活にするための工夫、というか。
この窓は、やはり、道路側に飛び出した1階部分の側面にあります。意味わかります?
仮にベランダのような構造で、オープンスペースではなく、壁に覆われた造りがあるとします。その左右の壁に、窓を取り付けた、そんなイメージです。

窓からの眺めは、なかなか美しいですね。夕方暗くなった町は、淡い黄色のライトとまばらな人影。美しいレーゲンスブルクの町が楽しめます。
さ、それでは、今度は地下の方に行ってみましょう。


剥き出しのアーチが二つ。その奥のものはなんと後期ロマネスク様式のオリジナルだそうです。造られたのは1250年から1275年頃。実はもう少し北には、11世紀のオリジナルのものもあるのだそうですが、倉庫のように使われていて、見学できる状態ではないのだそうです。そんな贅沢なことってあるのかしらとちょっと不満に思いますが。
この台所の設計には、古いものと新しいものの融合をコンセプトにしているのだそうです。

- 1階に入っているレストランamore, vino & amichiの公式ホームページ
- https://e-amici.de
- 2017年9月ご紹介のリンク先
- https://www.arukikata.co.jp/web/article/item/2185561/

筆者
レーゲンスブルク特派員
吉村 美佳
バックパッカー歴11年で約25カ国訪問。2002年12月よりドイツ。レーゲンスブルク公認現地ガイド。
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