地球の歩き方総合研究所、good luck trip

第1回 地球の歩き方創刊40周年記念企画<br>地球の歩き方総合研究所「懸賞論文」の募集

当社は、国内はもちろん、世界の観光業の発展に寄与することを目的として、
2017年4月に「地球の歩き方総合研究所」(以後、総研)を設立いたしました。
総研は、日本を取り巻くインバウンド市場がますます拡大するなか、
国際交流を通して地域の活性化に貢献できる活動を目指しております。
今回はその活動の一環として、懸賞論文を実施しました。

「今後のインバウンド観光のトレンドからみた地方誘客のための観光戦略」
をテーマとする懸賞論文を募集しました。
おかげさまで、2019年5月1日から9月30日までの募集期間に
30本の論文をご提出いただきました。
応募者ならびに関係者の皆さまに厚く御礼申し上げます。

募集締切後、2回にわたり審査委員会が開催されました。
そこでは、「アイデアのユニークさ」「論説の枠組みや構成が明確か」
「現実や制度をふまえた分析や提案になっているか」
「論理が首尾一貫したものになっているか」
「文章が推敲され、完成されているか」という観点から論文を評価しました。
第一次審査で一定の基準を満たした15本を選び、
第二次審査においてそのなかから受賞作4本を決定しました。


今回は総じて研究者からの応募は少なく、実務者、学生あるいは学生のグループおよび弊社発行の海外旅行ガイド「地球の歩き方」読者と思われる方からの応募が目立ちました。
ここには、観光学そのものが比較的に若い学問であることも影響しているのかもしれません。それゆえ、ユニークな視点から書かれた論文もあったのですが、内容は玉石混交でした。上位と下位の差も大きく、受賞作といえども足らざるところがある、というのが審査委員全員の感想です。
第二次審査に残った15本のなかから、宿泊施設の経営者である今井学氏の論文を最優秀論文としました。今井氏は宿泊施設の経営者であり、地方の実情と自らの体験に立脚した課題を設定し、具体的な解決法を提案されているところが評価されました。
また、優秀賞ですが、大学研究者からの学術論文と実務者などの実務論文とは切り離して評価すべきということになり、学術論文と実務論文の各1本を選びました。奨励賞は、たとえ論文としては内容が不十分であっても、ユニークな視点や光るものが見える論文に与えられるものです。今回は、若者の旅ばなれが言われて久しくなっている現状を鑑み、受賞が旅や観光、ひいては世界への関心を高めてもらうため、20代に絞って審査しました。


二次審査会の様子

優秀賞作品及び講評は以下のリンクよりご覧いただけます。審査内容や評価に関するご質問にはお答えかねますので、ご理解頂きますようお願い申し上げます。
最優秀賞
地方のインバウンド対策として泊食分離の推進 今井 学
(民宿美味し宿かどや 社長)
優秀賞(学術部門)
訪日外国人旅行者数に影響を与える要因分析
―観光政策と交通政策の連携の必要性―
後藤 孝夫
(中央大学経済学部 准教授)
優秀賞(実務部門)
東北におけるインバウンドの拡大について 村山 光彦
(公益財団法人仙台観光国際協会 理事長)
奨励賞
インバウンド、ナショナルトラスト、ルレ・エ・シャトー
―観光政策と交通政策の連携の必要性―
梶丸大介
金子直樹
杉山みさと
内藤 愛
(中央大学FLP山﨑朗ゼミ 4年)

「地方のインバウンド対策として泊食分離の推進」

今井 学
(民宿美味し宿かどや 社長)

受賞コメント
この度は最優秀賞に選んでいただき、誠にありがとうございました。以前から私が考えていたことを評価していただき、とても嬉しいです。
地方でインバウンド観光が普及しないのは英語恐怖症だけではありません。日本人は決まったことをする接客は得意ですが、臨機応変な接客はとても苦手なだけです。特に時間感覚の相違によって段取りが狂わされることに大きな不快感を持ちます。これがインバウンドの受け入れに消極的な一番の要因と私は考えています。段取りを変える、ましてや業態を変えることがとても苦手な日本人に対し、今回私の提案する「地域全体での泊食分離」は簡単そうにみえて、実は非常に困難な挑戦です。
まずは今回の受賞により、多くの方にこの考え方が広まり、業態や接客行動を変えるきっかけになれば嬉しいです。私自身も周囲の協力を得ながら、地域でできることに取り組んでいきます。ありがとうございました。



美味し宿 「かどや」
兵庫県美方郡香美町香住区訓谷319
TEL:0796-38-0113
URL:https://www.kasumi-kadoya.co.jp/

香住の民宿でこだわったカニ料理が味わえる「民宿美味し宿 かどや」。地元の食材を使用したグルメと温泉露天風呂が楽しめる口コミ評価も高い宿として人気。

要旨
筆者の地元では、全世帯の3分の1が1泊2食付きのスタイルをとる小規模民宿を営む。しかし、周囲にはスーパー、コンビニ、飲食店はないため、インバウンドの主流である素泊まりやB&Bには対応できない。そこで、地域の宿泊施設を現行のまま残る宿、素泊まりに移行する宿、飲食店に移行し宿泊業を廃業する宿の3つに再編することを提案する。政府はこうした泊食分離が可能な地域を公募し、採択地域に優遇措置や補助金を出し、インバウンドによる地域活性化につなげる。

選考委員からのコメント
泊食分離は目新しい考え方ではありません。しかし、地域全体で「泊食分離」を進めるという提案、そのためのプラットフォームを提供するところに政府の役割があるされています。こうした机上の提案にとどまらず、提案の実現のために自分が活動してみようという意欲を示しておられる点が「地球の歩き方」にはふさわしいという意見もありました。

「訪日外国人旅行者数に影響を与える要因分析
―観光政策と交通政策の連携の必要性―」

後藤 孝夫
(中央大学経済学部 准教授)

受賞コメント
このたびは、「地球の歩き方」創刊40周年記念、そして「地球の歩き方総合研究所」として第1回の公募となる記念すべき懸賞論文の企画において、優秀賞〈学術部門〉を頂戴し、大変光栄に存じます。
とくに家族旅行や出張で海外へ赴く際には、現在でも「地球の歩き方」を持参して現地の情報を入手します。そのため、私にとって身近な「地球の歩き方」に関連する懸賞論文の企画で受賞することができ、大変うれしく存じます。
今回の受賞の栄誉を励みとし、これからもなお一層の研鑽を重ね、学術面から観光業の発展に寄与できるように、引き続き研究活動に邁進して参りたいと存じます。

要旨
筆者の既発表の論文を改稿し、インバウンド旅客数に影響を与える要因を分析した論文である。分析結果からは、短期入国ビザ制度の変更や都道府県の観光予算の規模および高速交通ネットワークの整備(LCCの就航数および新幹線駅)が重要であることが明らかにされた。

選考委員からのコメント
外国航空会社がインバウンド旅客のおよそ8割を分担しています。各地方自治体は、誘致のため少なからず補助金を出しており、補助金競争の感を呈しており、こうした現実を分析した論文です。筆者には同種の研究実績があり、分析手法も内容も必要十分なものであるとはいえ、近年では因果推論という分析手法の認知度が高まっており、本研究はそれの格好の題材ではないか、という意見も出され、さらなる改善が求められます。

「東北におけるインバウンドの拡大について」

村山 光彦
(公益財団法人仙台観光国際協会 理事長)

受賞コメント
予想外の受賞で驚いていますが、東北の観光に係る者として率直にうれしく思っております。論文でも触れましたが、東北の多くの観光資源は訴求力が弱く、訪日旅行のきっかけとなる認知度も低い現状にあります。仙台市や東北各県が単独で取り組んでも効果は限られます。東北全体の魅力や認知度を向上させるためにどんな取り組みが必要なのか、私も含め東北観光に係る者が主体的に考え、連携を強めることが大切だと感じています。
東北は人口が加速的に減少し地域経済の疲弊が進んでいます。東日本大震災の影響が残る中、観光、インバウンドの効果を地域の活性化につなげていくために、微力ではありますが、今後とも仙台、東北の観光に力を尽くしていきたいと思います。

要旨
東北地方の現状を分析し、東北地方のインバウンド観光活性化の方策を提案した論文である。まず、東北地方の問題を、観光コンテンツの訴求力の乏しさ、キラーコンテンツの不足、そして何よりも認知度の低さとする。東北におけるインバウンド拡大のためには、「祭り」「縄文」「震災体験学習」のカテゴリ毎にコンテンツを体系化し、東北全体のブランドを育成することを提案している。

選考委員からのコメント
分析や提案に目新しさはないものの、主にオープンデータを利用して正確、かつ多面的に東北地方の現状を分析しています。そして、提案は「データ分析や現実の評価をベースにした」という懸賞論文の要件を十分に満たしたものであり、たとえば、域内の高速バス乗り放題チケットによる観光地の周遊は高く評価されました。

「インバウンド、ナショナルトラスト、ルレ・エ・シャトー
―観光政策と交通政策の連携の必要性―」

梶丸大介・中山健太・金子直樹・杉山みさと・内藤 愛
(中央大学FLP山﨑朗ゼミ 4年)

受賞コメント
この度は奨励賞を頂きましてありがとうございます。
年々、海外旅行者総数は増加しており、今後もその傾向は続くと予想されています。一方で旅行者増加に伴う問題として、オーバーツーリズムやゼロドルツーリズムが世界中で深刻になっています。これは日本においても例外ではなく、訪日外国人観光客の増加にともなう諸問題に対応する段階、時期に来ているのではないでしょうか。本論文の目的は、上記の背景を踏まえ、環境にも配慮した持続可能な観光を考える意義と重要性を提示することです。
本論文が、多くの人が観光とそれに付随する問題について考えるきっかけとなれば幸いです。この度は本当にありがとうございました。

要旨
観光の負の側面であるオーバーツーリズムを扱った論文である。内容はわが国の観光の現状、海外諸国のオーバーツーリズムの紹介の後、知床のインバウンド観光戦略を提案している。

選考委員からのコメント
大学のゼミの研究成果と思われる論文で、知床の持続可能性を論じる視点はユニークです。しかし、論文の前半との接続がうまく行っていませんし、なぜ、知床を取り上げたのかも不明です。今後はオリジナルな分析や政策提言を拡充すればさらに良くなるという指摘がありました。

 

 

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