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【英国ウェールズ】忠犬ゲレルトが眠るスノードニア国立公園の美しい村ベズゲレルト

June

June

イギリス特派員

更新日
2025年7月31日
公開日
2025年7月31日

アーサー王の伝説や神話が色濃く残るウェールズ。なかでも、スノードニア国立公園に佇む小さな村ベズゲレルト(Beddgelert)村は忠犬ゲレルトの眠る場所として知られ、訪れる人の心を静かに打ちます。けれど、この村の魅力はそれだけではありません。石造りの家々が建ち並ぶ絵のような風景、美しい渓流沿いのハイキングコース、そして、蒸気機関車でのショート・トリップ―自然と歴史が調和するこの場所には、誰もが自分らしい過ごし方を見つけられるはずです。かつて、桂冠詩人ワーズワースも歩いたこの村で、ゆったりとした時間を過ごしてみませんか?

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伝説の真実と村の名前の由来

ベズゲレルト(ベスゲレット、ベズゲレートと記載される場合も)という村の名前は、ウェールズ語で「ゲレルトの墓」を意味します。その由来となったのが、13世紀初めに語り継がれたとされる、ある忠犬の切ない伝説です。
当時、北ウェールズを治めていたグウィネズ王国のスウェリン・アプ・イオルワース王子(通称:偉大なるスウェリン)は、この村の狩猟用の館をしばしば訪れていました。ある日、王子は愛犬ゲレルトに幼い息子の見守りを任せて狩りに出かけます。夕方、戻ってきた王子を出迎えたのは、血まみれになったゲレルトでした。そして、息子の姿がどこにも見えなかったのです。
息子が殺されたと思い込んだ王子は、怒りと悲しみのあまり、剣でゲレルトを一突き。悲痛な叫びをあげ、ゲレルトは絶命します。ところがその直後、部屋の隅から子供の泣き声が…。そこには倒されたオオカミの死体と無傷の息子がいました。ゲレルトは、王子の息子を守るために命をかけて戦っていたのでした。
後悔した王子は、ゲレルトのために立派な墓を建てて弔い、それ以降、笑顔を見せなくなったとか。現在、その「ゲレルトの墓」は村の外れにひっそりと残され、犬好きの多い英国内外から多くの観光客が訪れるスポットとなっています。

ただ、この心打つ伝説にはちょっとした“裏話”があって…。

実は「忠犬ゲレルト」の物語は、18世紀末、ロイヤルゴートホテルの初代オーナー、デイビッド・プリチャード氏が観光促進のために考え出した創作だったといわれています。村名「ベズゲレルト」に「ゲレルトの墓」という意味があることに着目し、物語と結び付けた巧みなプロモーションだったのです。もちろん、“ゲレルトの墓”もプリチャード氏が自ら作ったもの。
本来、この村の名前は8世紀ごろにこの地で布教していたキリスト教宣教師、ケレルト(Celert)に由来すると考えられています。
とはいえ、この“作り話”が奏功し、ベズゲレルトは「忠犬ゲレルトの伝説の村」として、多くの観光客を惹きつける存在に。かつては小さなパブ宿だったロイヤルゴートホテルは、今では村一番のホテルです。

そして今日も、ゲレルトの墓のそばには、主の帰りを静かに待ち続ける忠犬の姿が佇んでいます。

歴史が息づく石造りの聖マリア教会

ベズゲレルト村の中心に静かにたたずむ聖マリア教会(St Mary’s Church )はウェールズで最も古いキリスト教施設のひとつの跡地に建ってます。その歴史はなんと6世紀にまでさかのぼるとされ、古代ケルトの信仰と初期キリスト教が交差した神聖な場所でした。
13世紀になると、この地にははアウグスティヌス派の修道院が設立され、当時、スノードニア一帯を治めていたスウェリン大王やウェールズの貴族たちからの支援により、修道院は宗教と文化の中心として栄えていきます。
しかしその後、度重なる火災と16世紀の修道院解散(ヘンリー8世の宗教改革)によって、その栄光も失われ、建物は現在のような簡素な教区教会へと姿を変えました。
それでも、教会の中に入ると、翼廊を支える石造りのアーチやランセット型の窓など、中世の面影を残す貴重な遺構がそこにあります。石と光と静けさが織りなすその空間は、まるで時間が止まったような感覚に包まれる不思議な場所です。

ベズゲレルトの人気店「グラスリン・アイスクリーム・パーラー」

1970年にギフトショップとしてスタートし、今では3代目が切り盛りするアイスクリーム&ピッツェリアへと進化した村の人気店「グラスリン・アイスクリーム・パーラー(Glaslyn Ice Cream Parlour)」。
店内はどこか懐かしくて温かく、カウンターには毎日20種類以上の手作りアイスクリームがずらり。見ているだけでもワクワクします。
濃厚ミルクと地元の素材が生きるアイスたちはどれも絶品で、人気の「塩キャラメル」に使われているのは、地元アングルシー島の海塩「ハレン・モン(Halen Mon)」。余韻が長く残る贅沢な味です。
また受賞歴のある「ブラックカラント」もおすすめ。英国らしい爽やかさと果実味がギュッと詰まっていて、暑い日にピッタリです。
ビーガンソルベもあるので、乳製品が苦手な人も楽しめます。
ウェルシュ・ハイランド鉄道の蒸気機関車も走る村はまるで絵本の世界のような風景。天気が良ければ、アイス片手にグラスリン川沿いを散歩するのが最高の時間です。

ゲレルトの伝説が息づくこの村には、昔話のような静けさと温かさが残ってます。スノードニアの山々を旅するなら、この物語の村でひといき足を止めてみてはいかがでしょうか?

■ ベズゲレルト(Beddgelert)への行き方
・ロンドン・ユーストン駅(London Euston)からバンガー駅(Bangor)へ。所要時間約3時間30分。直通の特急(Avanti West Coast)利用が便利。
・バンガーからカナーヴォン(Caernarfon)へ。5番、5C番のバスで約30-40分。
・カナーヴォンからベズゲレルトへはローカルバス(S4)またはタクシーにて。約30分。カナーヴォン発着のウェルシュ・ハイランド鉄道で途中下車も可能です。

ウェルシュ・ハイランド鉄道(Welsh Highland Railway)
ポースマドッグからスノードン山の裾野に広がる高原を駆け抜け、カナーヴォンに至る保存鉄道。コンウィ渓谷鉄道やフェスティニオグ鉄道との接続もよく、北ウェールズをぐるりと半周することもできます。

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