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7月14日。この日は「Fête nationale(フェット・ナショナル)」と呼ばれ、1789年に市民がバスティーユ牢獄を襲撃し、王政が崩壊へと向かった歴史的な革命の始まりを記念する日です。まさに、フランス人にとって“最もフランスらしい日”といっても過言ではない一大イベント。国旗が街のあちこちに掲げられ、フランス全土が祝祭ムードに包まれます。
この日は、早朝の飛行機ショーから始まり、大統領の演説、午前中の軍事パレード、夜には花火大会と、朝から晩まで一日中イベントが目白押しです。
とくに見逃せないのが、シャンゼリゼ通りで行われる軍事パレード。空には青・白・赤の三色旗を描く戦闘機が飛び交い、凱旋門から大統領官邸エリゼ宮までの道のりを、歩兵や騎馬隊、戦車、軍楽隊、さらには空軍機の編隊が堂々と行進します。地上と空の両方から迫力ある演出が展開され、圧巻のひと言です。
私は現地で見ようと、朝10時に最寄り駅へ向かいましたが、すでに駅構内は大混雑(普段は朝が遅いフランス人なのに……)。
なんとか沿道に立ち、日の丸ならぬトリコロールカラーの小旗を手にした子どもたちや、パレードに拍手を送る高齢者の姿を眺めながら、フランス人の“愛国心”のようなものを肌で感じました。
でも、驚きはそれで終わりませんでした。
行進が終わると、軍人さんや学生さんたちは、凱旋門のあたりからぞろぞろと引き上げていきます。驚いたのは、その様子でした。
日本ではパレードが終わったあとも部隊ごとに整列して規律を保ち、まとめて引き上げるというイメージがあります。しかし、パリのそれはまったく違いました。
制服姿の彼らは、隊列を離れるとそれぞれが自由に歩き始めます。タバコをふかして談笑している人、スマホでセルフィーをしている人、なんと恋人と手をつないで歩くカップルまで。中には観客と一緒に写真を撮ってくれる、サービス精神にあふれた人もいました(長女も声をかけてもらい、パシャリ)。
最初は「えっ、いいの?」と驚きましたが、考えてみれば、役目を終えたあとの時間は自由。緊張感の中での行進が終わった直後だからこそ、肩の力を抜いた素の表情が見られるのかもしれません。
パリの空の下で見たその光景は、フランスらしいおおらかさを象徴しているように感じました。
フェット・ナショナルは、単なる歴史の記念日ではなく、フランスという国の精神そのものを祝う日です。市民が自らの手で自由を勝ち取ったあの時代から230年以上たった今も、小学校や幼稚園など、あちこちで「自由・平等・友愛」という言葉を掲げる看板やポスターが飾られ、国全体が誇らしげにその理念を再確認しています。
そしてこの日を境に、フランスは一気にバカンスモードへ。パリの街は8月にかけて静かになり、長い夏休みへと突入していきます。夏のフランスを旅するなら、この記念日の高揚感を体験できる7月半ばは特別なタイミング。普段は観光で訪れるだけでは感じられない“フランスの心”を、肌で感じることができます。