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【フランス】ゴッホ終焉の地・オーベル=シュル=オワーズ

綾部 まと

綾部 まと

フランス特派員

更新日
2025年9月16日
公開日
2025年9月23日

ゴッホが最期の数か月を過ごし、わずか2ヶ月で130点以上の作品を描いたことで知られる、オーベル=シュル=オワーズ。パリから電車で約1時間半で訪れることができ、日帰り旅行にもぴったりの小さな町です。ゴッホと弟テオが眠る墓や、代表作の舞台となった教会、生前を過ごした宿など、歩くたびに画家の息遣いを感じられる場所が点在しています。

ただし閉館時間やアクセスにはちょっとした落とし穴も……。今回は筆者の体験を交えながら、その魅力を紹介します。

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静かに寄り添う、ゴッホ兄弟の眠る場所

オーベル=シュル=オワーズでまず訪れたいのが、ゴッホと弟テオの眠る墓地。「お墓なんて観光してどうするのだろう」と思うかもしれません。でも、足を踏み入れるとその印象は大きく変わります。

フランスの墓地は、花やぬいぐるみ、彫刻など、亡くなった人の好きなもので彩られていることが多く、どこか明るい雰囲気が漂っています。歩いていても気持ちが沈むことは少なく、むしろ「死者への贈り物でいっぱいの宝箱」のように感じられるのです。

ゴッホとテオの墓は質素そのもので、蔦に覆われた小さな墓石が並んでいます。そこに立つと、華やかな成功とは無縁だった生前の暮らしや、兄弟の絆に思いを馳せずにはいられません。観光地というよりは、静かに人生を振り返る場所。墓前に立った瞬間、画家の作品を見る目がまた少し変わったような気がしました。

■施設情報
施設名:ゴッホとテオの墓
住所:Cimetière d’Auvers-sur-Oise, 95430 Auvers-sur-Oise
アクセス:オーベル=シュル=オワーズ駅から徒歩約10分
営業時間:10時~19時30分
入館料:無料

“絵と現実は違う”を知ったオーベルの教会

ゴッホの代表作『オーヴェルの教会』の舞台となったノートルダム教会は、町の中心にあります。実際に目の前に現れた教会を見たとき、最初は「えっ、全然違うじゃん」というのが正直な感想でした。絵に描かれた青い屋根や歪んだラインを想像していたからこそ、現実とのギャップに驚かされたのです。

でも、その違いを感じるうちに「人によって見えている世界は違う。ゴッホにとってはこう見えていたのだろう。同じものを見ていても、見える世界は違うし、事実と真実もまた異なるのかもしれない」と考えるようになりました。

教会の周りではスケッチブックを広げて絵を描いている人も多く、裏手の入り口から中に入ると現代アートの展示もあり、外観との対比も楽しめました。

つい長居してしまい、時の流れを忘れていたのですが――この余韻に浸っていたことが、このあと訪れる「ある事件」につながってしまうのです。

■施設情報
施設名:ノートルダム教会(Église Notre-Dame d’Auvers-sur-Oise)
住所:Rue de l’Église, 95430 Auvers-sur-Oise
アクセス:オーベル=シュル=オワーズ駅から徒歩約8分
営業時間:9時30分から19時
入館料:無料

閉ざされた扉、ラヴー亭で味わった悔しさ

次に向かったのはゴッホが生前の最期を過ごした宿「ラヴー亭(Maison de Van Gogh)」。現在は記念館として公開されていて、彼が使っていた部屋や、ゴッホにまつわる資料を見ることができます。

ところがここで“事件”が起きました。教会の前で作品との違いに驚き、真実と事実についてあれこれ考えながら歩いていたせいで、気づけば時間がすっかり押してしまっていたのです。

私がラヴー亭に到着したのは17時10分。閉館は18時ですが、最終入館は17時30分。まだ間に合うと思って扉を開けると、係員から「今日はもう閉めるから入れません」と告げられてしまいました……。

あと20分あれば中に入れると思っていたのに、現地のスタッフの判断でそれは叶わず(フランスではよくあります)。観光地では「閉館時間=最後の入場時刻」ではないことを痛感しました。

せっかくたどり着いたのに入れなかった悔しさと同時に、ゴッホの人生もまた、あと一歩で報われなかったのかもしれない――そんな思いが頭をよぎりました。

 

本の迷宮で出会った小さな救い

ラヴー亭に入れなかった悔しさを抱えつつ、気を取り直して駅へ向かいました。もうパリに戻る終電の時間が近づいていたのです。ところが、駅前で思いがけず足を止めることになりました。そこにあったのは「La Caverne aux Livres(本の洞窟)」という古書店です。

古い鉄道車両を利用した建物の中に、美術書や歴史書、児童書まで所狭しと積み上げられ、通路を歩くとまるで紙の迷宮に迷い込んだかのよう。ゴッホの家を見逃した落胆を、一瞬で忘れることができました。本の背表紙をなぞるだけで、知らない時代や人々の声がこちらに語りかけてくるようで、思わぬ旅の締めくくりとなったのです。

旅には予定通りにいかない瞬間がつきものですが、その先で素敵な出会いが待っていることもある――そんなことを、この古書店が教えてくれたように思います。

■施設情報
施設名:La Caverne aux Livres
住所:15 Rue de la Station, 95430 Auvers-sur-Oise
電話番号:+33 6 07 34 75 89
アクセス:オーベル=シュル=オワーズ駅から徒歩1分
営業時間:木曜・金曜14時~18時、土曜・日曜 11時〜18時

 

バスを間違えて見つけた、郊外の暮らしの風景

オーベル=シュル=オワーズへは、パリ北駅からH線に乗ってValmondois駅でバスに乗り継ぐルートと、各駅停車に乗り換えて直接駅まで行くルートがあります。所要時間はおよそ1時間半。

Valmondois駅からオーベルへ行くには「メリー」という駅でバスを降りる必要があるのですが、同じ名前の駅が2つあります。行きで私は手前の方で降りてしまい、次のバスは1時間後。目的地まで30分ほど歩くことにしました……。

子ども用の遊具や果樹園を備えた家々を眺めていると、普段の自然に囲まれた豊かな暮らしぶりが想像できます。「ここで暮らすのもいいな」と、いつか訪れるかもしれない選択肢に想いを寄せながら、ひたすら歩きます(雨でしたが)。

アクセスは少し複雑ですが、ハプニングも含めてこの町の思い出になりました。見れなかったものもいっぱいあるし、きっとこの町はまた来るだろう。むしろそのためにこのトラブルが用意されていたのかな……と思います。

とはいえ、訪れる方は、ぜひ営業時間や駅名をしっかり確認して、私のような失敗をしないように気をつけてください(笑)

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