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【フランス】ブルターニュ・カンカル「王の牡蠣の町」と癒しの海辺

綾部 まと

綾部 まと

フランス特派員

更新日
2025年10月22日
公開日
2025年11月16日

フランス北西部・ブルターニュ地方の港町カンカル。かつてルイ14世が愛した牡蠣の名産地として知られ、「王の牡蠣の町」と呼ばれています。サン・マロからバスで約30分、そこで流れているのは観光地の喧騒とは無縁の、穏やかな時間です。

潮の香り、波の音、石造りの家々。海辺を歩いていると、自然と心が解けていくような不思議な感覚に包まれます。今回は、そんな“心のデトックス”ができる町・カンカルを、筆者の実体験とともに紹介します。

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王の牡蠣で知られる港町・カンカルへ

ブルターニュ地方のサン・マロからバスで30分ほど行くと、小さな港町カンカルにたどり着きます。人口は約5,000人。漁の音と潮の香りが町を包み、どこか昔懐かしい空気が漂っています。

この町がフランス中に名を広めたのは、王室御用達の牡蠣の産地であったから。太陽王ルイ14世は、この地の牡蠣をパリまで運ばせて食したと言われています。現在でも港には干潮になると広大な養殖場が姿を現し、その光景は圧巻。

港に並ぶ屋台では地元の生産者が直接販売しており、近くのテーブルでそのまま食べることもできます。レモンを絞ると、磯の香りがふわりと立ち上り、ミネラル豊かな味わいが口いっぱいに広がります。

■施設情報
スポット名:La Ferme Marine de Cancale(カンカル牡蠣養殖場)
住所:1 rue des Parcs, 35260 Cancale
電話番号:+33 2 99 89 66 08
アクセス:サン・マロ駅からバス(ligne 9)で約30分「Cancale Port」下車
営業時間:9:30〜12:30/14:00〜18:00
入場料:無料
URL:https://www.ferme-marine.com/

色とりどりの貝殻が広がる海辺を散歩

カンカルの町の中心から海沿いを歩くと、視界の先に広がるのがポール・ド・ラ・ウール港(Port de la Houle)。足もとには驚くほど多くの貝殻が現れます。白、ピンク、オレンジ、グレー――形も色も少しずつ違う貝殻が浜いっぱいに散りばめられ、まるで自然がつくったモザイク模様のよう。思わずしゃがみ込んで、ひとつひとつ手に取ってみたくなります。

町を歩けば、ブルーグレーの屋根と白い窓枠が並ぶ家々、花の咲く石造りの建物、どれもが“古き良きフランス”の面影を残しています。

■施設情報
スポット名:Port de la Houle(ポール・ド・ラ・ウール港)
住所:Quai Gambetta, 35260 Cancale
アクセス:カンカル中心部から徒歩約10分

海を見ながら、自分をリセットする旅

カンカルは、都会の喧騒から少し距離を置いて、自分の中にたまったものを静かに整理したい――そんな人にこそ、ぴったりの町です。

筆者も潮の満ち引きと共に過ごすうちに、心が少しずつ動いていました。ここへ来る前は、自分のしたある選択について「本当にこれでいいのだろうか」と悩んでばかりいました。

けれど、海辺で貝殻を拾い、積み上げ、それが夜になって潮に流されていく様子を見ているうちに、ふと気づいたのです。何かを手放すことは、決して無駄ではないのだと。

今までの時間や思い出は、波にさらわれても消えるわけではありません。きっと海のどこかで、形を変えて漂いながら、また新しい輝きを見つけている。そう思うと、過去にしがみついていた心が、少しずつゆるんでいきました。

「こうなるはずだ」と信じていた未来も、そうなるにはあまりに多くの人を傷つけてしまう。私は、もっとやさしくありたい。だから、その思いを海に返すことにしました。もし関わるすべての人が笑顔でその結末を受け入れられるなら、それはきっとまた別の物語として訪れるでしょう。4日間続いていた雨が、その直後にだけ晴れました。まるで私の決意を応援してくれているかのように。

カンカルは、静かに心を整えたいときにぴったりの港町です。観光地らしい華やかさはないけれど、潮の香り、石畳の路地、海辺の光――そのすべてが心をやさしく包んでくれます。サン・マロからの日帰り旅にもおすすめ。牡蠣を味わい、海辺を歩き、貝殻をひとつ拾う。それだけで、日常のざわめきが少し遠くに感じられるはずです。

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