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【パリ】マレ地区の「隠れた教会」と「史料館」で深呼吸

綾部 まと

綾部 まと

フランス特派員

更新日
2025年12月10日
公開日
2025年12月8日

ショッピングで人気のマレ地区ですが、実は観光の合間に、そっと心を休められる場所があります。人影もまばらな教会「Notre-Dame-des-Blancs-Manteaux」と、パリの長い時間を静かに抱える「パリ市立史料館(Bibliothèque Historique de la Ville de Paris)」です。

どちらも華やかな名所とは違い、ふっと深呼吸したくなるような静けさが漂っています。歩く速度をほんの少しゆるめて、マレの奥に隠れたスポットを訪れてみませんか。

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静けさの教会 「Notre-Dame-des-Blancs-Manteaux」

マレの路地を歩いていると、ふっと空気の密度が変わるところがあります。建物の影に隠れるように立っている、13世紀に創建され、17世紀に再建された教会「Notre-Dame-des-Blancs-Manteaux」です。

もともとは“隣人に寄り添う慈善修道会”がこの地に根を下ろし、祈りと助け合いのために建てた場所なのだとか。壮麗さよりも「静けさ」を優先したような佇まいで、主張しない外観は、街の景色に自然と溶け込んでいます。

扉を押すと、人の姿はほとんどありません。ベンチに腰をおろすと、自分の呼吸の音だけがゆっくりひろがっていくようです。壁にはたくさんの絵が飾られていますが、どれも作者名はナシ。

ただ、何百年もこの場所に残され、多くの人が祈りの途中でこの絵に目を向けてきた――その事実だけが静かに積み重なっています。名前が残らなくても、人を癒す力を持つものはある。そんな当たり前のことを、この教会は声をあげずに教えてくれます。

旅をしていると、目的地へ急ぐあまり、立ち止まる場所を見失ってしまうことがありますよね。そんなとき、この教会に入って数分だけ目を閉じてみるのもいいかもしれません。

■Notre-Dame-des-Blancs-Manteaux教会
住所: 12 Rue des Blancs Manteaux, Paris
電話番号: +33 1 42 71 38 47
アクセス: メトロ11号線「Rambuteau」駅から徒歩約3分
営業時間: 月〜日曜 9:00〜18:00(ミサ等で変動あり)
入館料: 無料
URL: https://www.paris.catholique.fr/notre-dame-des-blancs-manteaux.html

“時間の層”に触れる図書館 「パリ市立史料館」

マレの通りを歩いていくと、石造りの門の奥に、そっと姿を見せる邸宅があります。そこが「パリ市立史料館。もともとは貴族の館として建てられた場所で、のちにパリ市が買い取り、街の歴史資料を集めて保存するための“記憶の保管庫”として生まれ変わりました。

建物の中に入ると、外より温度がひとつ下がったような冷たさがあります。床を踏むたび木がきしみ、古い紙とインクの匂いが混ざった、どこか懐かしい雰囲気を感じるのではないでしょうか。

ここでぜひ見たいのが、壁に貼られた1889年の地図。今は“ここに住んでいる”とちょっと誇らしげに話す人がいるエリアの多くが、その地図では田んぼや湿地として描かれていたり……。パリでは住む場所でさりげなくマウントを取られることが時々ありますが(まあどの国でも同じでしょう)、百年単位見ると、そのやりとりは驚くほどちいさく縮んでしまいます。

今の悩みって、ほんの一瞬なんだな。そんな風に肩から力が抜けていくのは、この建物が単なる図書館ではなく、街の「長い時間」を見せるために生まれた場所だからかもしれません。

未来のことや仕事のことばかりを考えて視野がせまくなっていた自分が、ここではすっと遠くを見るような気分になります。静かにめくられるページの音が、思考の速度まで調整してくれるようでした。

少し生き急いでいると感じたときは、この史料館の静かな部屋に足を踏み入れてみてください。外に出たとき、街がほんの少し違って見えるはずです。

■パリ市立史料館
住所: 24 Rue Pavée, Paris
電話番号: +33 1 44 59 29 40
アクセス: メトロ1号線「Saint-Paul」駅から徒歩約3分
営業時間:
火〜日曜:10:00〜19:00(月曜休館)
※閲覧室の利用には登録が必要
入館料: 無料
URL: https://bibliotheques.paris.fr/Default/bibliotheque-historique.aspx

 

目的を決めずに気ままな散歩もおすすめ

かわいいカフェ

マレでぜひしてほしいのが、目的を持たずに歩くこと。角を曲がって出会う小さなカフェに入ってみたり、気に入ったベンチに腰を下ろしてみたり、奥まった場所に見つけた美術館に入ってみたり……そういう気ままな散歩をするにはうってつけ。ただ路地を歩きながら、自分の歩幅で街と折り合いをつけていく――そんな午後があってもいい。マレはそういう“人生の余白”みたいなものを、そっと差し出してくれる場所なのです。

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