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フランス東部、ライン川に近い場所にストラスブールという街があります。フランスとドイツ、ふたつの文化が長い時間をかけて重なり合ってきた街です。パリからはTGVで約1時間半。思い立ったら、少しだけ日常から距離を取ることができます。
木組みの家が並ぶ旧市街や運河の風景は確かに美しいのですが、この街の本当の魅力は、歩いて、食べて、そして疲れたら立ち止まれること。前編では、ラ・プティット・フランス周辺を歩きながら、気負わず入れるビストロと、喧騒から離れられる本屋を紹介します。
ラ・プティット・フランスは、ストラスブール旧市街の西側、イル川に囲まれた一帯にあります。運河沿いに木組みの家が連なり、写真でよく目にするストラスブールの風景は、ほとんどがこのエリアです。けれど、この美しい景色は、最初から観光のためにあったわけではありません。
中世、この一帯は水車小屋や皮なめし職人、粉ひき職人たちが暮らす労働の場でした。運河の水は生活と仕事に欠かせないものであり、同時に強い匂いや湿気も伴っていたはずです。現在ではかわいらしく見える木組みの家も、当時は作業場兼住居として、実用性を最優先に建てられていました。
「ラ・プティット・フランス(小さなフランス)」という少し不思議な名前も、実は後から付いたものです。16世紀、この周辺には梅毒の治療施設があり、その病気が当時「フランス病」と呼ばれていたことから、この名が定着したと言われています。ロマンチックな響きとは裏腹に、決して明るい由来ではありません。
それでも、時代が変わり、産業構造が変わり、この地区は次第に役目を終えていきます。取り壊される計画もありましたが、歴史的価値が見直され、保存・修復が進められました。現在では、ストラスブール旧市街全体が世界遺産に登録され、その象徴的な場所として多くの人が訪れています。
実際に歩いてみると、観光地でありながら、不思議と落ち着いた空気があります。石橋を渡り、運河を眺め、木組みの家の影を踏みながら進む。特別なことは何も起きませんが、時間の流れが少しだけ緩やかになるのを感じます。
ストラスブール観光の出発点として、これ以上ふさわしい場所はないのかもしれません。ラ・プティット・フランスは、この街が積み重ねてきた時間を、静かに、しかし確かに伝えてくれる場所です。
■ラ・プティット・フランス(La Petite France)
住所:Strasbourg, Quartier de la Petite France, 67000 Strasbourg
アクセス:
・トラム「Petite France」下車すぐ
・ストラスブール駅から徒歩約15分
営業時間:散策自由(屋外エリアのため24時間可)
入場料:無料
URL:https://www.visitstrasbourg.fr/decouvrir/les-quartiers/la-petite-france/
※旧市街全体は世界遺産に登録されています。写真撮影は時間帯によって混雑状況が大きく異なるため、朝や夕方がおすすめです。
ラ・プティット・フランス周辺には、観光客向けのレストランが数多く並んでいます。どこも魅力的ですが、初めての街では少しだけ構えてしまうこともあります。そんな中で、安心して扉を開けられるのが、アルザス料理を扱うビストロ 「L’Épicerie(レピスリー) 」です。
外観も内装もごくシンプルで、気取った雰囲気はありません。観光客向けに作り込まれた店というより、地元の人の日常に溶け込んでいるビストロ。実際に中に入ると、店員さんがとても気さくに声をかけてくれます。
メニューにはアルザス地方の定番料理が並びます。特別に凝った演出はありませんが、その分、安心して注文できます。価格も良心的で、「観光地だから高そう」と身構える必要はありません。一人でも入りやすく、旅の途中の食事にちょうどいいビストロです。
料理を待つ間、店内を眺めていると、外の賑わいとは少し違う時間が流れているのを感じます。歩き疲れた体と気持ちが、自然と落ち着いていきます。
■L’Épicerie
住所:6 Rue du Vieux Seigle, 67000 Strasbourg
電話番号:+33 3 88 32 00 67
アクセス:トラム「Langstross Grand’Rue」から徒歩約5分
営業時間:
・ランチ/ディナー営業(曜日・季節により変動あり)
※訪問前に公式サイトまたはGoogle Mapで最新情報の確認がおすすめ
URL:https://www.epicerie-strasbourg.com/
ストラスブールのクリスマスマーケットは有名です。街全体がイルミネーションに包まれ、屋台が立ち並び、どこを歩いても人の流れが途切れません。その賑わいは確かに楽しいのですが、しばらく歩いていると、どうしても疲れてしまいます。そんなときに思い出したいのが、旧市街の中心にある老舗書店「Librairie Kléber(リブレリー・クレベール) 」です。
クリスマスマーケットの期間中でも、この本屋に一歩入ると、外の喧騒がすっと遠ざかります。広々とした店内には落ち着いた空気が流れ、自然と歩く速度も遅くなります。ただ本を眺めているだけなのに、少しずつ体力が戻ってくるのが不思議です。
特におすすめなのは、一番上の階。黒いソファーが置かれていて、腰を下ろしてゆっくり休むことができます。もうひとつ、この本屋で驚かされるのが、日本の漫画の品揃えです。フランス語版が中心ですが、ジャンルも幅広く、日本人としては思わず足を止めてしまいます。
「せっかく旅行に来たのに本屋?」と思うかもしれません。でも、人混みに疲れたら、無理に歩き続けなくてもいい。クリスマスマーケットを楽しむためにも、こうした静かな場所を知っておくと、心にも余裕が生まれます。
■Librairie Kléber(リブレリー・クレベール)
住所:1 Rue des Francs-Bourgeois, 67000 Strasbourg
電話番号:+33 3 88 15 78 88
アクセス:
・トラム「Langstross Grand’Rue」下車すぐ
・ストラスブール駅から徒歩約15分
営業時間:
・月〜土 9:00〜19:30
・日曜 10:00〜19:00
※クリスマスマーケット期間中は営業時間が変更になる場合があります
入館料:無料
URL:https://www.librairie-kleber.com/
旅先で何かを見つけたときに、「あ、これはあの人が喜びそうだな」と思うことがあります。それで写真を撮る。でも、もう連絡を取り合うような仲ではないのだと思い出す。そして少し迷って、その写真をゴミ箱に捨てる。別に、今の私にとって必要なものではないからです。
これは他人との話ではなく、きっと親子関係も同じ。子どもなら連絡できるかもしれませんが、遠くに住んでいたら、ためらってしまいますよね。一緒にいられなくなってから、すぐに話せるこが、どれほど幸せだったのか気づく。失ってみないとわからないものなのだと思います。何でも。
「いつか行こう」ではなくて、行ける時に。ぜひ、大切な人とストラスブールを訪れてみてくださいね。