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なぜ今、日本でのクルーズが人気なのか。移動を楽しみながら、美しい日本との出合いがそこにあるからだろう。成熟した旅行者が日本を再発見している。今回のクルーズは、美しい海上からの眺望を楽しみながら、瀬戸内から東北へと、日本の夏を切り取る旅となった。
日本のクルーズ熱が、かつてない盛り上がりを見せている。ジャパネットクルーズの参入や、7月の新造船「飛鳥 Ⅲ」の就航に加え、港湾整備や外国客船の寄港増加も追い風となり、クルーズがより身近な旅の選択肢になっている。
そんななか、株式会社商船三井は2024年12月に全室スイートのクルーズ船「三井オーシャンフジ(MITSUI OCEAN FUJI )」を投入し、新ブランドを本格展開している。さらに、2026年末には2号船も就航予定と発表された (にっぽん丸は2026年5月で引退する予定)。 商船三井クルーズでは新船体制の構築とともに、インバウンド需要も見込んでおり、日本発着クルーズの観光資源化をさらに進める姿勢だ。
今回乗船したのは、MITSUI OCEAN CRUISESのフラッグシップである「三井オーシャンフジ」。2025年7月26日、横浜港を出航し、東京港へ戻る13日間の船旅は、豪華客船生活を目的とした“移動そのものが楽しみとなる旅”だった。
「三井オーシャンフジ」は、全長198.15m、総トン数32,477トン。定員458名の中型ラグジュアリー船で、全229室の多くがバルコニー付きだ 。2024年末に改装を経て就航し、船内には複数のレストラン、バー、スパ、フィットネス、劇場、ラウンジ、屋外プールなどを備え、全室スイートを謳っている。大型客船のゴージャスさと中型船の快適なサイズ感が融合したゆとりを感じさせる設計だ。毎日開かれるショーでは、演者が本当に近い位置にいる。クルーとの親密な交流も中型船ならではの魅力だ。
今回のクルーズ旅は、「青森ねぶた祭・秋田竿灯まつりと夏の日本海クルーズ」。横浜(または神戸)で乗船して、韓国の釜山と日本海側の境港・舞鶴・酒田・直江津に寄港し、秋田竿燈まつりと青森ねぶた祭を訪れる12泊13日のツアーだ。完全航行日が3日あり、船上生活もしっかりと楽しめる日程となっている。
乗客の顔ぶれは、思いのほか多彩。三世代家族、夫婦連れ、友人グループ、ひとり旅の方……その多くがそれぞれにゆったりとした時間を楽しんでいる。印象的だったのは、リモートワークが浸透したせいか、船内Wi-Fi環境を活用しPCで仕事をする人々だ。廊下では子連れのお父さんが「パパはこれから仕事だ」と宣言していた。どうやらクルーズ旅は「定年後の楽しみ」だけという時代ではないらしい。もちろん、高齢シニアには「面倒な移動の必要がないクルーズ」は、「旅を諦めない選択肢」を与えてくれる。船内で出会ったひとり旅の高齢男性は「年末年始はこの船でグアムに行くツアーにすでに申し込んでいる」と話していた。
とてもフレンドリーな主要クルーたちは、飛鳥やプリンセス・クルーズなどの経験者が多いらしく、熟練している。誰に対してもていねいに接し、まるで家族を迎え入れるかのようなあたたかいホスピタリティを感じさせてくれるのだ。連日レストランを訪れると名前を覚えて声をかけてくれたりもする。リピーターとクルーの交流など心地よい安心感が船内全体に広がっていた。
船室の清掃は1日2回。部屋は常に隅々まで気持ちよく整えられている。24時間対応のルームサービスも完璧で、朝食を部屋で海を眺めながらゆったりと取れば、贅沢な“自分だけの時間”が訪れる。
船内の楽しみは、寄港地観光のみならず、日々のイベントにもある。ヨガ教室や無料マッサージ体験、毎日行われるショーや本格落語、さらには船上パーティー(最終日に盆踊りと縁日)など、まるで船内ミニフェス状態。
もちろん、「ザ・レストラン富士」などでのコース料理やアルコールドリンクもクルーズの魅力だ。どのレストランやバーでも、いくらでも安心して楽しめる(一部銘柄のドリンクは有料)。素材が良質でメニューも変化するので、飽きずに食べ過ぎてしまうことだろう。また、「北斎FINE DINING」(別料金1万5千円)では、三國シェフ監修の前菜5種とメインなどの豪華コースが楽しめる。ちょっとオシャレをして出かけたい。
そんなクルーズで気になるのがドレスコードだが、案外緩い。昼は自由で夜のみカジュアル、たまにフォーマルだった。フォーマルといっても男性は背広にネクタイ、女性はキレイめのワンピースで十分。カジュアルは、男性は襟付きの上着と長ズボンでOKだ。
今回の航路では、瀬戸内海国立公園の島々を静かに通り抜け、大小の島々が海に点在する美しい姿を部屋のバルコニーや甲板から眺めることができた。そして関門海峡では、海上から見る本州と九州の突端が「こんなに近いのか」と、思わず息をのむ経験をした。
釜山と日本海側の港町に寄港しながら、東北へ向かうと、夏祭りが迎えてくれる。青森ねぶた祭では巨大ねぶた山車が間近に迫る迫力を、秋田の竿燈まつりでは夜空を揺らすいくつもの灯の群れと演者の妙技を、特別観覧席からたっぷりと体験。祭りの踊り手との触れ合いもあり、ねぶた祭では、手渡された鈴の音の涼しさと、演者の熱気が今も心に残っている。
ラグジュアリーで上質なクルーズの旅を体験すると、また乗りたくなってしまうことを「クルーズロス」というらしい。 どうやら私を含めて乗船客はみな、下船前からクルーズロスになってしまったようだ。日本のラグジュアリー船の未来は、さらに輝くだろうと感じさせる旅だった。
TEXT&PHOTO:森本久嗣(地球の歩き方)
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