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静岡県が誇る名産品「お茶」。県内に茶農家は多くありますが、栽培から製造まで一貫して人の手で行う珍しい茶農家を見学できると聞き、静岡市の山間部、玉川地区を訪れました。
訪れたのは、静岡市では地元の人から「オクシズ」と呼ばれる山間部のエリア。明治元年までは“志田島村”と呼ばれたこの地で、代々茶づくりを続けてきたのが「志田島園」です。出迎えてくれた、16代目佐藤さんの案内で、茶畑と製茶工場を見学させていただきます。
代々この土地では林業が中心だったそうですが、いまはお茶とわさびの栽培が主軸。急峻な山々に囲まれたこの地は、静岡茶の原点「本山茶(ほんやまちゃ)」の発祥地でもあるそうです。
まずご自宅前のベンチでいただいたのは、朝から8時間ほどかけて抽出した水出し茶。
淡い色合いからは想像できないほどの深い旨味が、ゆっくりと口の中に広がっていきます。
「日照時間が短く、冷涼な気候で栽培されたお茶は、旨味や甘みが引き立ちます」と佐藤さん。一口飲むごとに、言葉の意味がよく理解できます。
おいしいウェルカムドリンクのあと、茶畑見学がはじまります。
茶畑は、山間に広がっています。佐藤さんによると、お茶も1年中同じ味というわけではなく、とりわけ甘味が強いのが4〜5月の新芽。6月に二番茶が終わり、11月の取材時に畑に広がっているのは“三番茶”と呼ばれる夏の茶葉だそうです。夏の間にどれだけ三番茶を育てられるかで、翌年の新茶の味が決まるんだとか。
枝先にはよく見ると小さな新芽があり、この芽は冬の氷点下の寒さに耐えることができますが、春になって葉が開き始めると寒さに弱くなり、凍霜害の被害に遭いやすくなるのだといいます。
お茶の花は白く小さくてとてもかわいらしいのですが、茶農家にとっては花が咲くことは嬉しくないのだと言います。
「夏場に乾燥して“大変、子孫残さなきゃ”となったときに咲くんです。つまり、水不足や夏場の高温など、茶の木が強いストレスを感じた時に咲くことが多いんです。」
広大な畑に水を撒くのは現実的ではなく、2トンタンクを往復しても追いつきません。
そのため、雨を待つしかない日も多いのだそうです。自然相手という言葉の重みを改めて感じます。
一方で、自然をうまく活用しているのが茶畑のそばにあるわさび田。こちらも志田島園の敷地内にあります。山の斜面を段々に切り出し、湧き水が自然に流れるようにして、いつでもきれいな水と空気がわさびにいきわたるようになっています。
佐藤さんの説明を聞きながら急斜面の茶畑をのぼっていくと、頂上にテラスが。こちらで夕暮れの茶畑を眺めながら、志田島園のお茶をいただく贅沢なひとときを過ごせます。
この日いただいたのは「やぶきた」の手摘み茶。静岡県内の茶畑の9割、日本全国でも7割がこの品種を栽培しているのだそう。やぶきたは静岡を代表するメジャーなお茶でどこでも飲むことができますが、この日いただいたお茶のポイントは手摘みであること。うま味や甘みが凝縮された、機械で摘むよりも高品質な味わいです。
緑茶、ほうじ茶、紅茶、実はすべて同じ茶葉から作られています。この見学ツアーでは、志田島園でとれた茶葉から作られた3種のお茶を飲み比べできます。
緑茶はやさしい甘みが引き立ち、和紅茶は驚くほどまろやかで渋みが少なく、ほうじ茶はとても香り高い味わい。同じ葉からつくられたとは思えない3種の違いに、お茶の奥深さを感じます。
園内の荒茶工場では、お茶が形になるまでの工程を、実際の製茶機械を見ながら知ることができます。茶農家のスケジュールは、午前中に摘み取り、午後に製茶加工。機械を一度回すと5時間は止められないため、4時台に起きての作業が続くそうです。雨が降らなければ休みはほとんどないのだとか。
茶葉は蒸され、熱風で乾かされ、揉まれ、形を整えられていき、60キロの生葉から作られるのは、わずか12キロほどの荒茶。普段何気なく飲むお茶が、これほどまでに時間と人の手をかけて作られていることを、改めて実感します。
大規模工場ではセンサー管理が進む中、志田島園では、機械の小窓から手を入れ、茶葉の水分量を直接確かめる方法をとっています。
「センサーだと反映にタイムラグがあるため、やはり手の感覚から得られる情報は重要です」と佐藤さんは言います。一度に60キロという小ロットで勝負する志田島園だからこそ、品質を支えるのは職人の「感覚」です。
茶畑の絶景と、代々受け継がれる職人技。志田島園でしか味わえないこの体験は、訪れた人に静岡茶の深い魅力を届けてくれます。人とは違う旅を楽しみたい方、自然やプロの技に触れてみたい方に、特におすすめの体験ツアーです。
TEXT&PHOTO : 奥津結香