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「京の冬の旅」は、冬の京都への観光客増加を目的に、京都市観光協会やJRグループなどの連携で行われているキャンペーン。1967年から始まり、今年2026年で記念すべき60回目を迎えました。そのアニバーサリーイヤーを祝し、京都へ向かう新幹線の車両を貸し切り、車内で京都の文化を体験できる特別な京都ツアーが開催されました。
装飾が施された車内では、伝統芸能や坐禅体験、日本酒講座など、京都の魅力が溢れるおもてなしが次々に展開され、京都に到着する前から旅が始まる、贅沢な時間を過ごすことができました。
東京駅から新幹線に乗り込む際、芸妓さんと舞妓さんがお出迎えをしてくれます。
ヘッドレストカバーやカーペットは、60回記念=還暦にちなんだ鮮やかな赤色の特別仕様。細部まで徹底された演出に、特別な旅への期待が高まります。
「今日はおおきに~!」とはんなりした挨拶で登場した、芸妓のとし純(すみ)さんと舞妓のとし倖(こう)さん。おふたりから、芸妓と舞妓の違いについて丁寧な解説がありました。
まず舞妓になるにはおよそ15歳頃から修行に入り、約一年間の稽古期間を経る必要があります。そして16~21歳くらいの期間を舞妓として過ごし、それ以降は年齢や修行の段階に応じて芸妓となるそうです。見た目の違いとしては、芸妓はカツラで、舞妓は地毛という点が挙げられます。舞妓は一度髪を結うと1週間そのままのため、寝るときは高枕を使うのだと言います。ほかに、舞妓はだらりの帯といわれる長い帯をしているのも特徴です。かつて舞妓は幼い子供がなることもあったため、万が一迷子になっても無事帰ってこれるよう、帯には屋号がついているのだといいます。
芸妓さん・舞妓さんに詳しくなったところで、披露されたのは「祇園小唄」と「わしが在所」という舞踊。指先や視線にいたるまで洗練された所作に見とれてしまいます。注目したいのは、揺れる新幹線の中でもぶれない体幹と表現力。厳しい稽古のなかで磨かれた技を感じます。
京都には祇園甲部、宮川町、先斗町、上七軒、祇園東など五つの花街(かがい)があり、
それぞれで四季に応じた舞踊公演が行われています。今回舞踊を披露してくれたおふたりは普段は宮川町にいらっしゃるそうです。
宮川町では毎年4月に「京おどり」という舞踊公演が開催され、2026年は隈研吾氏監修のもと新しく生まれ変わった歌舞練場での披露という記念すべき年とのこと。ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
第60回「京の冬の旅」のテーマは2026年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』の主人公・豊臣秀長と兄・秀吉ゆかりの地。期間中は彼らが生きた時代にスポットをあて、「京の冬の旅」初公開を含む15ヵ所で、文化財の特別公開が行われます。そのことにちなみ、豊臣秀吉が愛した狂言の鑑賞とレクチャーも行われました。豊臣秀吉は自分でも演じるほどに狂言が好きだったのだと伝えられています。
狂言とは、簡単に言えば室町時代にできたお芝居。当時は屋外の演劇だったので、物語だけではなく、大きな声の掛け合いや動きも注目のポイントです。また狂言には舞台セットにあたる大道具や、小道具がなく、セリフによって転換を表現するのも特徴だといいます。演者の演技やセリフから観客が想像をすることで成り立つため、観客と演者の両者で作り上げるのが狂言のおもしろさなのだそうです。
代表的な演技として、泣きと笑いの演技のレクチャーがありました。
例えば泣きの演技。実際に泣くときは、目の下に手を置くけれど、狂言では「涙を受ける」という型で、顔の前に手を置きます。狂言の舞台では360度どこからでもお客さんが観ているため、どの角度、どの距離から見ても美しくわかりやすくなるように型が作られています。
そして笑いの演技。「はー」と長く伸ばした後に、「は、は、は、は、は」と一音ずつ音を下げていくイメージで笑い声を出します。実際の笑い声と比べるとゆっくりですが、確かに屋外の舞台ともなれば、これくらい分かりやすい必要がありそうです。
レクチャーの後は、実際に狂言「柑子-こうじ-」を鑑賞します。内容は、上司へのおみやげを食べてしまった部下の言い訳を楽しむ、というもの。話のおもしろさはもちろん、現代でも起こり得そうなシチュエーションが狂言にもあるということ、そしてマイクがなくても車内に響き渡る声量にも驚かされました。
今回登壇された茂山千五郎家のみなさんによる講演が3月に予定されています。「お豆腐のようにどんな所でも喜んでもらえる『お豆腐狂言』」をモットーとして活動しており、初心者でも気軽に狂言を楽しめる内容となっています。
続いては、大徳寺大慈院の和尚様による坐禅のレクチャー。参加者全員に小さなウェイト(おもり)が配られ、それを頭に乗せて姿勢を整えるという、ユニークな体験です。
「体が自然と楽になると、呼吸が穏やかになる。呼吸が穏やかになると、自然と心が穏やかになる。それが坐禅。アンガーマネジメントなどもあるけれど、コントロールしなくても自然と心が穏やかになるのが坐禅です」
そう語る和尚様の言葉通り、車内は次第に静寂に包まれていきます。
「姿勢と心は繋がっています。お寺に悩み事相談に来る人は姿勢が悪い。軽やかに生きるには姿勢も大切」「太陽が東から西へ、川が上から下へ、そういった当たり前のことを、仏教では真理といいます。当たり前のことを楽しむには、自分の心が穏やかである必要があります。誰かを恨んだり妬んだりするのでなく、静かな心で世界を見ましょう」
おりんの澄んだ音が響く中、慌ただしい日常から切り離されたような感覚を味わえる、印象的なひとときでした。
締めくくりは、明治26年創業の佐々木酒造による日本酒講座。4代目当主から、「京の冬の旅」限定の日本酒セットがプレゼントされました。車内でもすぐ飲めるようにぐい呑みおちょこが入っている配慮もさすがです。
現在、日本酒の生産量の第一位は兵庫の灘、第二位が伏見と、関西で全国の半分ほどのお酒を作っているのだといいます。このように、京都で日本酒といえば伏見ですが、佐々木酒造は洛中、つまり京都市の中心部に蔵元があります。今でこそ伏見が酒所として有名ですが、明治後期までは洛中の方が酒蔵の数が多かったのだそうです。
佐々木酒造は歴史ある蔵元でありながら、全国的にも珍しい早朝からの酒蔵見学や、夜の日本酒講座を開講していたり、酒粕プロテインを作ったりと、日本酒の可能性を広げています。
「地域の食文化に根付いた日本酒が、その土地の食事にいちばん合うんです。せっかく京都に行くのですから、ぜひ京都の料理と、京都の日本酒を楽しんでください」そう語る言葉どおり、京都の食文化に寄り添いながら、新たな挑戦も続けている酒蔵でした。
最後におみやげとして、芸妓さん・舞妓さんの名刺でもある千社札をいただきました。
舞妓さんの札をお財布に入れると、お金が舞い込(舞妓)む。
芸妓さんの札をお財布に入れると、お金がもっと舞い込(元舞妓)むとのことで、洒落もきいた粋な品です。
60回目を迎える「京の冬の旅」では、ほかにも記念特別企画を実施予定です。また、文化財の特別拝観など、この期間だけの特別な体験がたくさんあります。ぜひ「京の冬の旅」を活用して、特別な体験とともに、冬の京都を楽しんでみてはいかがでしょうか。
TEXT&PHOTO : 奥津結香