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ロンドンの一等地・チェルシーに、まるで生きた植物辞典のような神秘的な庭園があります。それがロンドン最古の植物園、チェルシー薬草園(Chelsea Physic Garden)。17世紀に創設され、今日に至るまで植物と人との関係を見つめ続けてきたこの薬草園は、訪れる人がおのおのに学びと癒しを得られるような、静謐で豊かな場所でした。
最寄駅に到着したら、いざ薬草園へ! と言いたいところですが、非会員向けにチェルシー薬草園が開園するのは11:00から。朝の時間も有効活用したい方には近隣にあるカフェ、ハイジ・ベーカリー(Heidi Bakery )での朝食がおすすめです。こちらは、20年以上の歴史のある家族経営のベーカリーが営むカフェ。焼き菓子の種類が豊富で、どれも美しく、店員さんもとてもフレンドリーで、毎日でも訪れたい居心地の良い素敵な場所でした。
ロイヤル・ホスピタル・チェルシー(Royal Hospital Chelsea)という退役軍人の為の施設の敷地内にありますが、公に開かれているカフェですのでご安心を。元は馬屋のあったという陽当たりの良い場所にあり、夏場は爽やかなテラス席がおすすめです。私はたくさんの種類の焼き菓子やパンの中からパン・スイス(Pain Suisse)を選びましたが、サクサクと軽い口当たりのクロワッサン生地と、程よい甘さのカスタードクリームとチョコチップの組み合わせが最高に美味しかったです! 丁寧に淹れられたカプチーノをお供に美味しい焼き菓子をかじり、初夏のそよ風を感じながら、これ以上ないくらい満たされた気持ちで1日のスタートをきることができました。
そんな素敵なカフェでゆったり小腹を満たしたところで、薬草園へ向かいます。
▪️ハイジ・ベーカリー(チェルシー店)
(Heidi Bakery -Chelsea)
住所:Soane Stable Yard, Royal Hospital Chelsea, Royal Hospital Rd, London SW3 4SR
営業時間:日曜日 9:00〜17:00
月曜日〜金曜日 8:00〜17:00
ウェブサイト:https://www.heidibakery.co.uk
チェルシー薬草園(Chelsea Physic Garden)は、1673年に薬剤師協会「Worshipful Society of Apothecaries」によって設立された、ロンドン最古の植物園です。驚くべきことに、350年以上もの長きにわたり、ずっと現在の場所で運営が続けられています。
この薬草園では、薬効のある植物(あるいは、かつて薬効があると信じられていた植物)を中心に、世界各地から集められた4,000〜5,000種以上の植物が育てられています。
単なる「展示のための庭園」ではなく、植物の効能や歴史を学び、体感できる“学びの場”としてデザインされているのがこの薬草園の魅力。私が訪れた日には、ボランティアガイドによるツアーが行われており、ガイドの丁寧な解説に導かれながら園内を巡ることで、わずか1時間ほどの滞在でも沢山の学びがありました。
4月から10月のハイシーズンには、毎日ツアーが開催されるよう努めているとのこと。訪問当日は、入り口近くのキオスク脇にある黒板をチェックしてみてください。ツアーの開催有無や時間が掲示されています。
特筆すべきは、植物の配置。園内では「薬用植物の庭(The Garden of Medicinal Plants)」や「食用・有用植物の庭(The Garden of Edible and Useful Plants)」といった大分類によってエリアが分けられており、さらに各エリアの中で「東洋医学で用いられた植物」や「ハーブ療法」といった小分類に植物がグルーピングされています。このため植物によっては複数箇所に植えられているものも。学術に裏打ちされた整然とした園の設計は素人の私でも清々しく感じるから不思議です。辞典を引くように、植物園の該当の場所に行けばそのテーマに関連する植物を一度に見渡すことができるようにデザインされているので、生きた植物辞典の中を散策しているような特別な気持ちになりました。
ロンドンの高級住宅街チェルシー。至近距離に高級ブティックが並ぶこの地に、広大な薬草園が残っているのは奇跡に近いことかもしれません。
この奇跡の背景には、ハンス・スローンという人物の存在があります。彼は博物学者・医師として活躍し、現在の大英博物館の元となる膨大なコレクションを英国政府に寄贈したことで知られています。
彼は薬草園の存続のためにその土地を買い上げ、園が年間50種、計2,000種の有用植物を報告することを条件に、たった年間5ポンドで恒久貸与することにしたそうです。この取り決めがあったからこそ、チェルシーという一等地においても、薬草園は変わることなく守られてきたのです。なお、今でもその賃料は彼の子孫に支払われ続けているとか。
この地に立ち、庭園の歴史を感じながら「300年以上前に、スローン準男爵もここでこんな風景を眺めていたのかもしれない」と思いを馳せると、時を越えたつながりを感じずにはいられませんでした。
薬草園の中心には彼の石像がたてられていますので、訪れた際はぜひ探してみてください。
この庭園でもう一つ印象的だったのは、「マイクロ・クライメート(微気候)」の存在。
園全体が壁に囲まれていることで、外気の寒さから守られ、敷地内だけがほんのり暖かい空気を保つ構造になっています。
このために、なんと、グレープフルーツやオリーブの木など、本来ロンドンの長く寒い冬を越せないような南国の植物が、地植えのまま元気旺盛に育っているのです。これを聞くとさぞ高い壁なのだろうと思われそうですが、高さは壁越しに近隣の住宅の屋根が見える程度で、おそらくせいぜい2.5〜3メートルといったところでしょうか。その程度の壁によって、これほどまでに園内の気候が変わってしまうとは驚きでした!
古くから人々に愛されてきた、静かに深い学びを得られるチェルシー薬草園。庭園としての美しさはもちろん、植物が持つ力や、人々がどのようにそれらと向き合ってきたかを感じられるとても豊かな空間だと感じました。
ロンドン観光の際には、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。
▪️チェルシー薬草園(Chelsea Physic Garden)
住所:66 Royal Hospital Road, Chelsea, London
営業時間:日曜日〜金曜日 11:00〜17:00(最終入園は16:30)
入場料:大人£13.50、学生および5〜25歳の方£5.00、4歳以下は無料
※時期によって入場料が変わる場合があります。詳しくはウェブサイトをご確認ください
ウェブサイト:https://www.chelseaphysicgarden.co.uk