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飯沼光生
水産養殖、沿岸漁業管理、漁村振興を専門に、水産分野の国際協力専門家として、東南アジア、太平洋島嶼国、アフリカでの水産開発プロジェクトで活躍。人生初めての海外は35年前にJICA海外協力隊として訪れたマレーシア・ボルネオ島。20代の3年間をボルネオ島の漁村で過ごしたことが、人生が大きく変わるきっかけとなる。
東アフリカの小国、ジブチ共和国をご存じでしょうか。過去に、最高気温が71度を超えたとこもある“世界でもっとも暑い首都”として知られるジブチ市や、塩湖アッサル湖の真っ白な大地など、ダイナミックな自然と異文化が詰まった魅力的な国です。そして実は政治や経済で日本とは深い関係があり、ジブチとの友好関係によって、遠く日本に住む私たちの生活が支えられているのです。現地の若者たちはアニメやマンガなどの日本のサブカルチャーに強い関心を持っています。
今回、筆者はJICAの技術協力プロジェクトの一環で現地を訪れました。海に面したジブチでは多くの水産物が獲れるため、それらを生かしてどのように地域振興に生かすことができるのかを実証事業などを通して検証しています。また、現地の漁業状況の把握や水産関係者の育成を目指しつつ、新しい漁具漁法の導入を検討も行っています。
ジブチは東アフリカの紅海に面した国です。公用語はフランス語、宗教はイスラム教です。国土は世界で3番目に小さな国ですが、国際物流にとって非常に重要な場所にあります。
エジプトのスエズ運河で地中海と繋がる紅海は地中海~インド洋を繋ぐうえで世界的にも重要な海運ルートです。インド洋側から見た紅海の入口に位置するジブチは安定した物流を確保する上で重要な拠点とされています。そのため、フランスやアメリカだけではなく、中国、日本の自衛隊もジブチに駐留して、紅海の安全を確保しています。 ジブチの国土のほとんどは乾燥した砂漠地帯。天然の淡水はなく、生活用水は海水を淡水化して供給されています。そのため、水道水にはわずかな塩分が残っており、多くの人が市販のミネラルウォーターを飲み水として使っています。砂漠地のため、農業や畜産はあまり行われておらず、食料のほとんどが隣国エチオピアから輸入しています。
多くの食料品を隣国から輸入しているジブチですが、唯一水産物だけは国内自給率100%です。元々は遊牧民なので、羊や牛などの畜肉を好んで食べるのですが、魚食は健康に良いという意識が少しずつ広まり、近年では徐々に魚を食べるようになってきています。
紅海を隔たイエメンの食文化の影響を強く受けていて、イエメン風に魚を開きにして焼いて、少しピリ辛のタレをつけて食べることが多いです。調理中の香ばしい香りは地元の人々の食欲をそそります。
沿岸域はマグロの回遊ルートのため、キハダマグロを中心にマグロが沢山獲れるのですが、魚肉の油分が多く傷みやすいため、現地ではもっぱらカマス、サワラ、フエダイなど、あっさりした白身の魚が好まれています。市場で大量のマグロが並ぶことがありますが、日本のように鮮度が良くないので、刺身では食べられません。
ジブチでは、一歩町を外れると無人の荒涼とした砂漠や岩地が広がっています。車の移動ではひたすら砂漠のなかの一本道を走ります。
そんなジブチの交通を支えるのが、日本が供与したフェリー。首都のジブチ市とタジュラ湾を越えた対岸にある町、タジュラとオボックを繋ぎ、陸路の場合は半日ほどかかるジブチ市からオボックまでの道のりをフェリーであれば2時間半ほどで到着できます。
イエメンの国境に近いオボックは国をまたいで頻繁に人や物資が移動する拠点の町です。ます。また紅海の漁場に近いので漁業が盛んです。そのため、オボックの人たちは普段から魚をよく食べます。獲れた魚は地元で消費しきれないので、オボック漁港で魚を集荷して、ボートで首都ジブチ市に運搬しています。
オボックの海岸には大きなフランス人墓地があります。かつてインドシナに派遣されたフランス海軍の兵士たちが途中でマラリアに罹り、この地で亡くなりました。祖国に戻れなかった兵士の墓が大切に守られています。
そんなオボックで出会った現地の学校のフランス語教師。そのスマホから流れてきたのは、なんと日本のアニメソング。それも日本語の歌詞のまま歌っていました。聞けば、ジブチには日本のマンガやアニメを愛する若者たちの全国組織があり、毎年「Jap’Anime Djibouti」というイベントも開催されているそうです。彼らの夢は、いつか日本に行くこと。遠く離れたこの国でも、日本文化が静かに息づいていることに驚かされました。
日本人にはあまりなじみのないジブチですが、自然の圧倒的な美しさと、文化の多様性は一見の価値があります。特におすすめなのが、世界でもっとも塩分濃度が高い湖のひとつ、アッサル湖。真っ白な岩塩に覆われた光景は地球上の景色とは信じられないくらいの迫力があります。紅海の沿岸では回遊してくるジンベイザメと一緒に泳げるツアーもあり、陸だけではなく海も見どころ満載です。
暑くて、遠くて、不思議と身近な国、ジブチ。魚を焼いて、紅海を眺めて、アニメ好きの若者と笑い合う。そんな素敵な日常がここにはあります。どこか遠い異国のように感じるジブチに少しでも興味を持っていただけると嬉しいです!
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