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執筆者:松井 真由美
開発コンサルタント。新卒で開発コンサルティング会社に入社し、JICA無償資金協力、円借款事業に携わる。23歳で中小企業診断士試験に合格し、ビジネス分野のプロジェクトに従事し始める。2015年にアイ・シー・ネットに入社し、ジェンダー分野とビジネス分野のJICA技術協力、国際機関、省庁プロジェクトに数多く携わる。TOEIC990点満点。趣味は出張先で出合ったおいしい料理の「味コピ」。
アフリカに降り立つと目を引くのが、女性たちが身にまとうアフリカンドレスではないでしょうか。日本人の想像を超えたエネルギッシュな色使いのデザインも魅力ですが、よく見るとドレスの形が複雑で、かなり凝った作りになっています。これらは既製品ではなくひとつひとつオーダーメイドで作られていることをご存じですか?
日本でも昔は「洋裁」と服をていねいに作る手仕事の文化がありましたが、時代は変わり、いまは既製品を買うのが主流となりました。
一方、アフリカではいまも縫製産業が根づいていて、縫製を生業とする個人事業主が多く活躍しています。縫製士たちが手がける代表作がオーダーメイドのアフリカンドレス。もちろんシャツやズボン、バッグやポーチも作れますが、一番人気であり、縫製士にとって作り甲斐があるのがドレスです。アフリカでは縫製工場でない限りS、M、Lなど決まったサイズのものを大量に作る文化がないため、同じものを何枚も作るのを依頼すると逆に戸惑われるそうです。
アフリカの女性はおしゃれにかなり力を入れていて、友人のセネガル人は「セネガルの女性は収入の8割を服や美容につぎ込む」と自信満々にいっていました。本当に8割もつぎ込んでるかはさておき、友人はおしゃれなオーダーメイドのドレスを身にまとい、メイクも眉アートメイクやつけまつげなどで華やかでした。
毎年3月8日の国際女性デー前になると、その年限定の国際女性デー向け布がデザインされ、その布を使ってドレスを作り、3月8日に着て国際女性デーのイベントに参加するのが、ステータスのある女性の嗜みだそうです。国際女性デーではたくさんの女性がアフリカンドレスで着飾り、全員同じ柄だけれどそれぞれ個性的な形のドレスを着ているのは圧巻でした。
「せっかくアフリカに行くんだから、私もお土産に一着欲しい!」という方、これをどうやってオーダーするかがかなり難しいんです…。何が難しいかというと、どこでオーダーできるかの情報が口コミ頼りで、インターネット上にほとんど情報がありません。
そのため、仕事でカメルーンの首都ヤウンデによく渡航する私が、カメルーン人やカメルーン通の日本人に聞きまくって発掘した、日本人好みの布と腕のいい縫製士がヤウンデのどこにいるか、こっそりご紹介します。
まず驚いたのは、布を売ってるお店と縫製士がいるお店が別々ということ。縫製士は布の在庫を持っておらず、持っていたとしても数種類で、基本的に布は自分で布屋で買って持ち込む必要があります。
ここでアフリカあるあるなのが、布屋で検索しても、Google mapの情報が薄すぎて何もヒットしないこと。カメルーンの首都ヤウンデでさえも、Google mapやGoogle検索でほとんどヒットせず、ChatGPTでも確実な住所を見つけるのが難しかったです。なので同僚に「ヤウンデで服をオーダーするとき、布はどこで買ってる?」と聞くと、ヤウンデの中央市場近くのWoodinというお店を教えてくれました。
■Woodin
住所:VG99+3R8, Yaoundé
URL:https://woodinfashion.com/
Woodinはコートジボワール発の布屋で、西アフリカから中央アフリカの主要都市に支店があります。ここではコートジボワール産とガーナ産の布を取り扱っており、布はコットン100%で薄めのキャンバス地を思わせるほどハリが良くしっかりしていて、質の面で安心感があります。洗濯しても色移りやほつれはなく、透けないので1着で着られて頼もしいです。デザインはアフリカらしい鮮やかな色使いでありながら、柄がモダンで日本人も選びやすく、ワンポイント使いでなく全身のドレスで着たくなる魅力があります。
布を選んだらお店の人にお願いして買うんですが、ここでまた困るのが「何ヤード?」と着る長さを聞き慣れない単位で聞かれること…。百歩引いてメートルで聞かれても、服を作るのにどれくらいの長さが要るのかは全く想像つかず、困ったので作りたいドレスのイメージと伝えると、「半袖のミモレ丈のドレスだったら3ヤードかな」とアドバイスしてくれました。
ちなみに、後日長袖のミモレ丈ドレスの布を買った時は、余裕をもって4ヤードと教えてくれました。Woodinで布3ヤードは1万2000CFA(日本円で約3000円)、4ヤードは1万6500CFA(日本円で4000円ちょっと)でした。
布屋以上に難しいのが、腕のいい縫製士探しです。縫製士は多くの場合個人事業主で、立派なアトリエがあるわけではなく、ちょっとした建物の一角や自宅、はたまた路上で作ってるケースもあり、見つけたとしてもここで頼んでいいの? と不安になることもしばしばです。看板はおろか店名もなく、ウェブサイトを持っている人はほぼゼロ。あったとしてもInstagramの個人アカウントです。なかには数名が集まって作業している小さな工房もあります。
縫製士をたまたま見つけることができても、その人が腕が立つかどうか、ちょっとしたアレンジがおしゃれにできるかどうか、日本人の体型を理解してくれるかなど、本当にこの人に頼んでよいか心配になります。そこで役に立つのが口コミです。
よくドレスのオーダーをするアフリカ人は、それぞれお気に入りの縫製士がいるそうです。同僚に「ドレスはいつもどこでオーダーしてる?」と聞くと、ヤウンデの中央市場近く、Woodinから歩いて3分くらいのCentre International de L’artisanat(国際手工芸センター)の2階民芸品コーナーの一角で縫製をしているMarieさんを紹介してくれました。
■国際手工芸センター
住所:VG8C+V36, Yaoundé, カメルーン
URL:https://ciay.net/
この建物は全体が丸い造りで、入って左と右にある階段のいずれかを上り2階に行き、奥の建物につながる渡り廊下の左右にミシンを置いた小さな店がありますが、そのうち左側のアイロン台があるほうのお店がMarieさんの工房です。右側はMercedesさんのお店で、アフリカ布を使った子ども服(特に女の子のドレス)がとても可愛らしく、お土産にぴったりです。
MarieさんもMercedesさんもフランス語話者ですが、英語も堪能なので安心してやりとりできます。
せっせと服を仕立てていたMarieさんにドレスをオーダーしたいことを伝えると、笑顔で手を止めて「どんなのにする?」と聞いてくれました。アジア人はアフリカ人に比べ体が小さくフラットな体型で、最初はサイズを測ってもらってもうまく仕上がるか不安だったので、手持ちのワンピースを持っていって預けることにしました。アフリカの人々はInstagramやTikTokで見つけたお気に入りのデザインをWhatsAppで送り、好みの布で自分サイズに仕立ててもらうこともあるそうです。
デザインが決まれば、Marieさんが首にかけていたメジャーで体のサイズを20カ所ほど測ってくれ、鎖骨から肩の骨などかなり細かいところも記録してもらいました。布を預け、念のためワンピースも一緒に渡し、納期と金額を交渉し、お金を払いました。
初めて依頼した時期は3月8日の国際女性デー向けのドレス制作が忙しい時期で、オーダーがたくさん入っているため2週間かかるとのことでしたが、約半年後にもう一度行ったときは月曜に頼んで金曜に納品してくれました。複数人で作業する工房なら、さらに短期間で仕上げることもできるそうです。
半袖のワンピースは8000CFA(約2000円)、長袖のワンピースは9000CFA(約2250円)と、Marieさんはカメルーン人が聞いても「腕に対してかなり良心的な価格」とのことで、私はMarieさんの腕に満足しているのでいつもチップを上乗せしています。渡航する時は日本の手芸店で買ったMade in Japanの糸切りバサミなどをお土産に持って行き、制作を応援しています。
数日後、MarieさんからWhatsAppで「できたよ」と連絡があり、取りに行くと、きれいに畳んで袋に入れた服をすぐに出してくれました。私が喜んで体にあてがっているのを見ているMarieさんも嬉しそうでした。日本に持ち帰り、アフリカ関係の仕事やイベントで着ると、「どこで買ったの?」と何度も聞かれました。
みなさんもアフリカの決まった都市に数日間滞在することがあれば、ぜひ現地の知り合いに布屋やおすすめの縫製士を教えてもらって、一着仕立ててみてください。自分の体にぴったり合う服を着る瞬間は、本当に感動ものです。
自分で着るのだけでも嬉しくなりますが、日本人がアフリカンドレスを着て楽しんでいる姿を見ると、現地の人たちも「素敵!」と声をかけてくれて、思わぬ交流が生まれるのもまた嬉しい体験です。
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