特集「今、こんな旅がしてみたい!」
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ピラミッドやスフィンクス、王家の谷など、悠久の歴史が息づくエジプトに新たな注目スポットが誕生しました。その名も「大エジプト博物館(Grand Egyptian Museum、通称GEM)」。2025年11月にグランドオープンしたばかりの本館は、単一文明を扱う博物館としては世界最大級の規模を誇ります。見どころは何といっても、王墓から発見された副葬品のコレクション。黄金のマスクや儀式用の寝台など、5000点を超える至宝が史上初めて一堂に会し、間近で鑑賞できます。国際協力機構(JICA)を通じた日本の支援もあり、日本語の解説文やオーディオガイドが整備されているのもうれしいポイント。館内からはギザのピラミッド群も一望でき、ロマンあふれる特別な体験がかなう、2026年に必訪の注目施設です。
世界が注目する「大エジプト博物館(GEM)」が、ついに2025年11月グランドオープンを迎えました。ピラミッドを想起させる入り口から先に進むと、そこにはラムセス2世の巨象がお出迎え。さらにその先には、大階段が広がっており、階段の各所にもラムセス2世やハトシェプスト女王、トトメス3世らが荘厳な出で立ちで出迎えてくれます。
かつての統治者たちの間を抜けると、目の前にはピラミッド。約2kmという近い距離にあるギザのピラミッド群が一望できるようになっています。ここからようやく、大展示室そしてその先にツタンカーメン室への旅が始まります。大展示室の広さは、ツタンカーメン室の約3倍ほどになっており、紀元前からわたるエジプトの長い歴史を体感することができます。
ツタンカーメン展示室の数々の至宝の保存修復に日本は協力してきました。では、実際にどのように日本が貢献してきたのか、各展示室の見どころとあわせてご紹介します。
もともとエジプト考古学博物館に展示されており、今回のグランドオープンの目玉である「ツタンカーメンの黄金マスク」。これまでは、公式では閲覧のみ可能、写真撮影は不可となっていましたが、今回公式に撮影可能となりました。ガラスケース周囲には、近くで観るための列ができていますが、ぜひ遠目だけでなく、近づいて観てください。
正面上部には、下エジプトを象徴する「コブラ」と上エジプトを象徴する「鷹」の意匠が施されており、ツタンカーメンがエジプト全体を統治した王であったことが示されています。また背面には、古代文字ヒエログリフで「死者の書」の一部が書かれており、現世だけでなく死者の国をも統治するという古代の考え方が伺えます。浮いたガラスケースの展示であるため、四方から鑑賞できるようになっており、どの側面から観ても黄金色に輝く姿、黄金に映えるターコイズやラピスラズリの彩色は、当時の栄光を彷彿とさせ、必見の代物です。
古代エジプトでは、ツタンカーメンの統治より約300年前から、戦いや移動手段として戦車(チャリオット)が使用されていました。ここで展示されている戦車はすべて、ツタンカーメンが使用していたものと考えられており、ほかの副葬品同様、黄金でできています。
発見当初、この戦車は今展示されている姿が完成形と思われており、天井はないものと思われていました。しかし、日本およびJICAが主体となって行った展示品の保全修復プロジェクトにより、まったく別の副葬品と思われていたものが、戦車の天蓋であったことが明らかになりました。骨組みは木製で、再生や復活の象徴であるロータスの花のような形となっています。
別々のものであると考えられていた背景から、天蓋についてはツタンカーメン室の当時の生活を展示するエリアにあり、強度の関係から戦車本体とは別々の展示となっていますが、ぜひ両方に足を運び、当時の姿を想像してみてください。
エジプト各地や神殿を旅していると、たびたび「オシリスの神話」に出合うかと思います。王として信頼を集めたオシリスに嫉妬した弟セトにより、エジプトにバラバラにばらまかれてしまった体を、妻イシスが再び集め、愛する夫を再生しようとする、というところから始まる神話ですが、まさにそのシーンを表現しているのがこちらの展示。横たわっているのがオシリスであり、彼を守るようにライオンが配置されています。横たわるオシリスのおなかの上には、丸みを帯びた一羽の鳥。この鳥こそ、空を飛び、愛するオシリスの体を集めたイシスの姿であり、丸みを帯びた腹部にはふたりの子供ホルスが宿っているとされています。
この神話は、古代エジプトの死生観に大きな影響を与え、ミイラ文化を生みました。この展示は、エジプト文化を語るうえで欠かすことができない神話のシーンを具現化した貴重なものとなっています。
ひと目見て、断片的であるというのがわかる巨像ですが、カルナック神殿で見つかった断片を多数つなぎ合わせて復原されたもの。特徴的な展示方法となっており、新たな断片が見つかった際、復原作業が可能なよう中心部から支える骨組みが組まれています。展示方法とあわせて、今この瞬間の姿を楽しむことができるような展示です。
もとは完成されたアムン・ラーの威光を示す巨像でしたが、約3300年前、アクエンアテン王の統治であったアマルナ時代に行われた宗教改革により、破壊。約2000年にわたり増築がされていたカルナック神殿という立地も相まって、現在でも見つかっていない断片は多く存在しています。いつの日か完成する未来と過去の歴史に思いをはせながら観ると、また違った姿を感じられるかもしれません。
グランドオープンに合わせて移設された目玉の展示のもうひとつが、ギザの近く「太陽の船博物館」で展示されていた船。博物館名にあるように、過去には太陽神アムン・ラーが乗った儀式用の船に似ていることから「太陽の船」と呼ばれていました。現在では、諸説あるものの、クフ王に関連しており、水上で使用した形跡が見られることから「クフ王の船」と呼ばれています。
この展示の隣には、第2の船復原プロジェクトで使用する骨組みが展示されています。エジプト考古学者として著名な東日本国際大学の吉村教授、早稲田大学の黒河内教授が率いる日本のチームが、JICAの資金援助を活用して復原するプロジェクトであり、現在断片となってしまっている第2の船のパーツを、この骨組みに付けていき、復原していく様子が見られるとのこと。この保存修復作業は今後約3年間にわたるため、進行具合によって様相が変わるのも楽しみのひとつです。
復原の補強に用いる枠組みについてもチームが保存修復の倫理に基づき検討提案したものが採用されており、見どころです。クフ王の船と第2の船復原プロジェクト、あわせて楽しんでみてください。
冒頭や見どころでも少しご紹介しましたが、大エジプト博物館グランドオープンには、展示品の保存修復から運営にいたるまで、技術や支援などさまざまな日本との関わりがあります。今回は、知っているとより展示を楽しむことができるポイントを3つご紹介します。
見どころにて、戦車と天蓋の紹介をしましたが、ほかにも日本の技術者が貢献したものがいくつかあります。そのうちのひとつが、服や足袋における発見です。ツタンカーメンの副葬品には、黄金の品々だけでなく、生活に根付いたものも多く発掘されました。足袋もそのひとつでしたが、海外では足袋そのものがあまり認知されておらず、変わった形の手袋と思われていたそう。しかし、日本人チームが加わったことで、足袋が認識され、歴史的背景のなかで靴下となるものが用いられていたことが発見されました。遠く感じる文化や歴史のなかでつながりが見えるエピソードです。
博物館に行った際、より楽しむことができるツールとして利用する方も多いかと思いますが、大エジプト博物館には、アラビア語、英語に加えて、なんと日本語のオーディオガイドが用意されています。その数100台! ツタンカーメン室に関しては、そもそも全展示に日本語の説明がありますが、オーディオガイドでは大展示室の各時代を象徴する展示が網羅されています。
また、オーディオガイドでは、JICAとして支援に携わった東日本国際大学の西坂客員教授による当時の時代背景までカバーされた解説があり、より深くエジプトの歴史や文化、信仰について学び、思いをはせることができます。訪れる際は、ぜひオーディオガイド付きチケットの購入がおすすめです。
入館チケットのみを購入してしまった場合は、インフォメーションに説明すれば、追加料金を払うことでオーディオガイドを使用することができます
ツタンカーメン室の展示説明文やオーディオガイド以外にも、日本の存在を強く感じる場所が多々あります。博物館のタイトルについては有名ですが、入口付近には、日本の国旗とエジプトの国旗が描かれている場所があり、日本の貢献やJICAの支援について説明がされています。
展示とは異なりますが、単一文明の博物館として最大級を誇る大エジプト博物館に、日本の国旗があるというのは、感慨深い光景ではないでしょうか。ぜひこちらも展示とあわせてチェックしてみてください。
大エジプト博物館は、ミュージアムショップはもちろん、カフェやレストランなども充実。ミュージアムショップでは、ここでしか買えない目玉展示品に関連したグッズやアクセサリーなど限定商品が多数あります。ぜひ思い出のアイテムを探してみてください!
また、エジプトを代表するようなブランドショップやエジプト発祥のカフェ、さらには外資系のレストランなどもあるので、博物館を満喫したあとの休憩におすすめ。おしゃれな空間が広がり、旅のオアシスのような雰囲気にもなっているで、展示室とあわせて楽しめるでしょう。
推薦者:大和田聡子(地球の歩き方エジプト編 編集担当)
執筆:本間雅恵、長田美香(地球の歩き方観光マーケティング部)