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サローム(こんにちは)!
ドゥタールにタンブールにドイラ…といった言葉を聞いたことがあるでしょうか。これらは全てウズベキスタンの民族楽器の名前。シルクロードの真ん中に位置し、古代よりあらゆる地域の民族や文化が入り乱れ交わってきた中央アジアでは、楽器もまた周辺の地域の影響を受けて発展。その結果弦楽器、打楽器、管楽器とあらゆる種類の楽器たちが生み出されてきました。
例えばこの国の楽器を象徴する存在である、弦楽器のドゥタール。かの有名な、正倉院に保管されている琵琶にどこか似ていると思いませんか?ドゥタールが生まれたのは15世紀とされ、琵琶と直接の関係はありませんが、同じ古来の弦楽器から派生した兄弟のような楽器であったかもしれません。
ウズベキスタンに興味を持たれたなら、ぜひ動画サイトなどでこの国の楽器を聞いてみてください。また実際に現地で演奏を耳にできる機会があるならぜひとも聞き逃さないよう。砂漠を行くラクダのキャラバン隊、あるいはシルクロード沿い古都の姿が目に浮かんでくるような、旅情を掻き立ててくれる美しい音色に心洗われるはずです。
私もタシケントのウズベキスタン日本センターという施設で半年だけドゥタールレッスンに参加しており、下手の横好きながらウズベキスタンの楽器に興味を持っていました。そしてサマルカンドでこの町に民族楽器工房があるという噂を聞きつけ、つてをたどってすぐさま見学に。素朴な工房の雰囲気と職人さんたちの人柄に感銘を受け、私が日々活動する観光案内所(103. 特派員が活動中のサマルカンド観光案内所ご紹介!学生スタッフがガイドする街歩きミニツアーも開催)で日本語学生がご案内する楽器工房見学ツアーを作るまでに至りました。この記事ではその工房の様子をお見せしましょう。
工房があるのはサマルカンド市内西部、観光客が全く訪れることのないエリア。住宅街の中に、楽器工房兼職人さんたちの自宅がひっそりと建っています。
ここでは親子の職人さんが共に働いています。お父さんが2代目、息子さんが3代目の職人とのこと。ウズベキスタンではどんな職種の職人さんでも、仕事を一族代々継承していくことが圧倒的に多いのです。家族間のつながりが強いこの国では、親の仕事を子供が引き継ぐのは当たり前のことで、物心ついたころから物作りをする親父の背中を見ながら育つと職人になる覚悟が自然とできるものなのかもしれません。
見学に訪れると、さっそく職人さんが作業部屋を案内してくれます。部屋を入った瞬間鼻につく木の香り、そして作りかけの楽器たちが整然と置かれたこの光景。私はこれまでこの国でありとあらゆる工房を訪れてきましたが、いい意味でローカル感があふれ出ている、こんなに工房らしい工房に足を踏み入れたのは初めてでした。
作りかけの楽器を手に取り、職人さんが材料や作り方を丁寧に説明してくれました。ドゥタールはタジク語で2つの弦を意味し、その名の通り弦が2本しかない楽器。棹はクルミの木、胴は桑の木から作られるとのこと。プロが使うドゥタールは、まるで声域のようにアルトやテノールといった種類に分かれるそうです。
作業部屋の隣には、できたての楽器を保管する部屋があります。頼めば職人さんがどれかの楽器で一曲弾いてくれるかもしれません。そう、この職人さんたちは楽器作りだけでなく、演奏も一流なのです。
こちらはハムロという弦楽器で、何と初代の職人さんがここで発明したものとのこと。もう亡くなってしまったけど本当に偉大な人だった…と職人さんが懐かしんでいました。
楽器作りの作業は外でも行われます。一見楽器に関係のなさそうなこの物体、実はドイラという打楽器に使われる牛の皮。ドイラはタンバリンのような楽器で、これが鼓面に使われるのです。しかしブハラやナヴォイといった町ではラクダの皮を使うことがあるそう。同じ楽器でも生産地によって土地柄が出るとは…。
こちらは同じ打楽器でも、太鼓のように置いて使うドヴルという楽器。桑やクルミなどいろんな木から作ることができ、木によって音色が違うそうです。
倉庫に入るとおびただしい数の木材が保管されていました。木はとにかく乾燥させることが大事、乾かせば乾かせるほどいい音が鳴るのだといいます。10年以上乾かしているという木材も。
ウズベキスタンの民族楽器ならここで何でも作れると職人さん。この国に楽器工房は数あれど、どんな楽器も作ることができる大きな工房はここを含め4、5か所ぐらいとのこと。この貴重な工房がこれからもずっと続いていきますように…。
なお観光エリアにある工芸センター、ハッピーバード・アートギャラリー(119. 職人たちの手仕事が見学できる工房が集まるハッピーバード・アートギャラリー サマルカンドで雑貨土産を買うならここ!)の一室はこの工房の直営店になっており、職人さんたちが楽器を直接旅行者に販売しています。楽器工房を見学してみたい方は、先述の観光案内所のツアーに参加するほか、この売り場で尋ねてみてもいいかもしれません。
またレギスタン広場(96. サマルカンド観光の中心 3つの神学校が織りなす壮大な景観「レギスタン広場」)のシェルドル・メドレセの中には、主にこの工房で作られた楽器を売っているお店があります。店主のボーブルさんも楽器職人かつあらゆる楽器を演奏できる音楽家で、リクエストするとミニコンサートと称して先述のドゥタールやタール、ドイラといった定番楽器から、珍しい口琴チャンコブズまで演奏して見せてくれます。手軽に楽器を聞いてみたいという方はぜひ立ち寄ってみては。
余談ですが、実はこの記事でたびたび取り上げた弦楽器ドゥタールの演奏を日本でも実際に聞く方法があります。音楽家の駒崎万集さん(公式ウェブサイト:https://mashumushuk.com/)は日本人ドゥタール奏者の第一人者で、都内を中心に定期的にコンサートに出演されています。幸いなことに私も演奏を拝聴する機会がありましたが、本当に鳥肌ものの感動体験でした。ウズベキスタンや中央アジアの楽器に興味がある方なら、聞いてみない手はありません。
それではコルシュグンチャ・ハイル(また会う日まで)!