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【ワシントンDC】ホロコースト博物館からいま学ぶことは

ベスト加島 聡子

ベスト加島 聡子

アメリカ・メリーランド州特派員

更新日
2026年1月19日
公開日
2026年1月19日

ワシントンDC観光の最大の魅力は、博物館、それも入館無料のミュージアムが多数あることです。博物館めぐりだけで数日DCに滞在してもまだ時間が足りないくらい充実しています。
スミソニアン協会が運営・管理する国立自然史博物館、国立アメリカ歴史博物館、国立航空宇宙博物館、国立動物園などが特に有名で、ワシントンDCにはナショナル・モール内外含め計17箇所もスミソニアン博物館があります。
今回はナショナル・モールに隣接し、スミソニアン協会の博物館と同様に人気の高いミュージアム「アメリカ合衆国ホロコースト記念博物館」(1993年開館)をご紹介します。

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  • 博物館の入口外観
  • ロビーエリアは1940年代当時のヨーロッパの雰囲気
  • 迫害を受ける前人々が幸福に暮らしていた時代の日常写真の数々
  • 各地から強制収容所へ移送される際に乗せられた貨物列車を再現
  • アウシュビッツ強制収容所にあった収容者用のベッド
  • 映画「シンドラーのリスト」のモデル、オスカー・シンドラー
  • 「命のビザ」で知られる外交官、杉原千畝(すぎはら・ちうね)氏。
  • 2009年6月当博物館への銃撃事件で犠牲になった警備官の慰霊パネル

最寄り駅からのアクセス

ホロコースト記念博物館に一番近いメトロ(地下鉄)駅はSmithsonian スミソニアン駅です。地上出口は二ヶ所ありますが、プラットホームの両端に分かれており、一方はナショナル・モールの公園エリアに出てしまうので、注意が必要です。ホロコースト記念博物館へ行くには、プラットホームにある出口案内のThe Mall(ザ・モール)方面とは逆の出口(南口・Independence Ave.方面)へ向かうと良いです。桜の名所のタイダル・ベイスン、造幣局方面と同じ出口です。

時間指定の入館券の入手

ホロコースト博物館の入館は無料ですが、時間指定の入館券が必要で、確実に希望する日時に見学をするには、事前にオンラインで入館券を入手します。このときオンライン手数料として1ドルかかりますのでご注意ください。入館時に手荷物検査があり、週末や夏休みなど繁忙期は入口の外にまで長い列が出来ています。今回の訪問日は閑散期かつ平日だったおかげか、館内のインフォメーションデスクで当日入館券(時間の記載入り)をすぐにもらえました。入口に列が無いときはチャンスがあるかもしれません。
チケット入手のインフォメーション(英語)

常設展示① 4階:ナチスの暴力−1933〜1939年

入館券を提示し、最初にエレベーターホールへ向かいます。内装はレンガ壁と鉄骨柱の薄暗い雰囲気になっています。ここで小冊子を一冊選びます。それぞれの冊子にひとりのホロコースト体験者の半生が書いてあり、戦前からホロコーストにいたるまで、そしてその後どうなったかまで知ることができます。私が手にした小冊子は女性の方の体験談で、ホロコーストを生き延び、戦後アメリカに移住したとありました。この女性の体験記を読み、見学者がそれぞれ疑似体験の思いを持ちながら展示を見ていきます。
展示順路はエレベーターで先に4階に上がり、徐々に階下に降りていくようになっています。この博物館のメイントピックは1933年から1945年までのナチス・ドイツによるユダヤ人迫害ですが、ユダヤ民族の苦難の歴史は古くは紀元前〜中世の11世紀ごろまでさかのぼり、ナチスの台頭以前にも宗教的衝突や人種差別による迫害が繰り返されてきたことが紹介されています。そしてナチスが政権を取った1933年以降、初期は政敵とみなされる政治家や活動家、ロマと呼ばれる遊牧民、身体や精神の障害を持つ人々などから徐々に迫害のターゲットが広がっていったことにも触れられています。
ヨーロッパ各地で普通に暮らしていたユダヤ人の人々が市井(しせい)から徐々に外され、自由が奪われていく過程も、当時の映像や展示物で詳しく紹介されており、そのプロセスは、静かにそして気が付かぬ間に差別が暴力化し、それがある種の「正義」と信じさせ、正当化してしまう人間の恐ろしさを伝えているように思えてなりません。

常設展示② 3階:最終回答−1940〜1945年

強制収容所へ移送される際の貨車、アウシュビッツ強制収容所に実際にあった収容者の三段ベッドをはじめ、各地の強制収容所で何が行われたかについての展示があります。当時のショッキングな映像はモニターの周りに箱のような囲いがあり、覗き込まなければならないので、小さいこどもには簡単には見えないよう配慮されています。強制収容所に到着したユダヤ人たちが選別され、労働に適さないとみなされたグループがガス室へ送られるまでのプロセスをジオラマで紹介する展示は、俯瞰(ふかん)で見えるだけに、収容者が途中で逃げる余地が無く、まるでオートメーション工場のような様相に、一層恐ろしさを感じます。

常設展示③ 2階:最終章

ナチス・ドイツの降伏で連合軍が各地の強制収容所を解放した当時の映像や写真、そして生還者の後年のインタビュー映像、そして最後にホロコーストからユダヤ人を救った人々の名前が国別に展示されていました。映画「シンドラーのリスト」のモデルになったドイツの実業家オスカー・シンドラーの名もあり、リトアニアで6000人以上の「命のビザ」を発行したことで知られる日本の外交官杉原千畝(すぎはら・ちうね)氏は日本人で唯一このパネルに名を連ねています。身の危険を顧みず人道的に勇気ある行動をした人々の数が少なからず存在したことに救われる思いがしました。

1階展示 子供向けにホロコーストが学べる展示(ダニエルの物語)

1階ホールの常設展に向かうエレベータとは反対側に「ダニエルの物語」という子供向けにホロコーストを解説する展示エリアがあります。ダニエルという架空の男の子が家族と平和に暮らしていた時代の部屋から始まり、ゲットー、移送列車、そして収容所へ移っていく中で生活環境が悪化していく様子を、ダニエルが書いた日記(という設定)の言葉と部屋の変化を通して、子供の目線で学ぶことができます。常設展にあるようなショッキングな写真は無くても、ダニエルがたどった悲しい運命(最後の部屋では日記も鉄格子の向こうに打ち捨てられている)を感じ取ることができます。

出口で見たもの

見学を終えて博物館の出口へ向かうと、壁に小さな慰霊パネルがありました。2009年6月に当博物館にライフルを持った88歳の男が侵入し発砲、入口を警備していた警備官が撃たれて亡くなった事件があり、その犠牲になった警備官を追悼するものでした。犯人がホロコースト否定主義の人物だったことから、21世紀の現在もまだホロコーストの問題は完全には終わっていない、ひとつの象徴にも思えました。
非常に重いテーマでショッキングな内容も含まれる博物館ですので、私自身も長いこと訪問を躊躇(ちゅうちょ)していましたが、今回訪問してみて、ホロコーストの悲劇はまだ100年に満たず、過去から何を学び、繰り返さないためにどうすればよいか現代の私達も考えるべきテーマであるということを心に留めようと思います。

USホロコースト記念博物館 United States Holocaust Memorial Museum
・所在地:100 Raoul Wallenberg Place, SW, Washington, DC 20024-2126
・開館時間:午前10時から午後5時30分(入館午後4時30分まで)
・休館日:クリスマス(12/25)、ヨム・キプール(9〜10月にあるユダヤ教の祝日)
・ミュージアム見学にいての公式情報ページ<英語>
https://www.ushmm.org/information/visit-the-museum/plan-your-visit
・常設展示:時間指定の入館券が必要(無料・要ネット予約/または当日券の空き状況で現地で直接整理券)
・見学標準時間:1時間〜3時間
・見学対象:常設展示は11歳以上 (一部ショッキングな映像は囲いで目に触れない配慮がある)、「ダニエルの物語」コーナーは8歳以上

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