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2025年ももうすぐ終わり。振り返ってみると、今年はアメリカのクラフトビールが「特別な存在」から、再び日常へと戻ってきた年だった。有名ブルワリーの閉鎖が相次ぐ一方で、空港や公共の場ではローカルビールが、以前よりもずっと気軽に飲める存在になっている。「飲みやすさ」と「地域性」が改めて支持され、トレンドは派手さから日常へ。旅先で出合う一杯にも、そんな変化が静かに表れている。
ポートランド国際空港(以下PDX)の売店を歩いていると、棚に並ぶ顔ぶれが少し変わってきたことに気づきます(市中もしかり)。人気だった8〜9%の高アルコールビールよりも、爽やかなウェストコーストIPAを中心に、ピルスナーやラガーといったややアルコール度数が低く軽やかで、食事に合わせやすいスタイルが目立つ。今年の流行をひと言で表すなら「やっぱり普通がいいかも」。ガッツリ系のビールに少し疲れたビアラバーが、気負わず飲める日常の一杯へと戻ってきたのかもしれません。PDXのビアホールでも、黄金色で透明感のある軽やかなビールを手にしている人が多い。アルコール感と香りのバランスがよく、何杯でも飲めそうなビール。クラフトビールは再び、“旅の途中で気軽に飲める存在”へと立ち位置を変えつつあるように感じます。
来年のアメリカのクラフトビールは、「どこで、どう飲まれるか」がさらに意識されるようになりそうです。ブルワリー数は整理されつつありますが、その分、生き残るのは小さくても地域に根ざし、安定して提供できるビアコミュニティー。空港やスタジアム、ビアホールのような場所では、短時間でも楽しめて「もう一杯いこうかな」と思わせるビールが求められそうです。PDXのように出発前や乗り継ぎの合間に立ち寄れる空間では、強すぎないアルコール度数と分かりやすい味わいがちょうどいい。観光客にとっては、旅の始まりに飲む一杯がその土地との最初の接点。来年は「その街らしさ」を静かに伝えるビールが、より評価されていきそうです。
搭乗時間を待ちながら、PDXのビアホールで旅立ち前の最後の一杯。クリアな美しい黄金色の一杯だ。今いちばんアメリカらしいビールの姿。派手な挑戦より、日常に寄り添う味わい。ブルワリー閉鎖のニュースが続く中でも、クラフトビールは紆余曲折を経ながら、確実に生き残っていくのでしょう。旅先で出合う一杯のビールは、その街の「今」を映す鏡のようなもの。アメリカを訪れたら、ぜひ空港でローカルビールを選んでみてください。旅の始まりに飲む一杯ほど、その土地を理解する近道はないと思います。