【2030年の観光トレンド予測】地球の歩き方総研が語るインバウンド戦略と地方創生の鍵

更新日
2025年6月24日
公開日
2025年6月24日

地球の歩き方総合研究所(以降、地球の歩き方総研)は2025年4月25日(金曜)、第10回総会を開催しました。「2030年の観光予測・インバウンド市場」をテーマに、研究員によるプレゼンテーションとディスカッションを実施。未来に向けさまざまな課題が共有されたほか、活発な意見交換、示唆に富んだ提言も示されました。

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地球の歩き方総研とは

地球の歩き方総研は「株式会社地球の歩き方」が主導し、旅行(インバウンド/アウトバウンド)に関する調査・研究、コンサルティング・事業策定、ツール制作、誘客促進などをワンストップで行い、旅にかかわるすべてのみなさまを支援しています。また、外部研究員やアドバイザーとともに国内外の観光事例の共有やテーマを絞った研究も行っています。

第10回総会実施概要

テーマ:「2030年の観光予測・インバウンド市場~地方誘客のカギ、地球の歩き方は地方の観光に対して何ができるのか」

●開催日・場所:
2025年4月25日(金曜) 学研ビル(東京都品川区)

●参加者:
地球の歩き方総合研究所
理事長 新井邦弘(株式会社地球の歩き方代表取締役社長)
事務局長 弓削貴久

●研究員(プレゼンテーション登壇順):
吉澤 勉氏(株式会社トムズプランニング代表)
刀根浩志氏(観光ビジネス総研株式会社代表取締役)
幕 亮二氏(株式会社MK総合研究所代表取締役所長、北九州市参与)
マージョリー・L・デューイ氏(株式会社コネクトワールドワイド・ジャパン代表取締役)

●ゲストスピーカー:
半藤将代氏(カナダ観光局)

地球の歩き方総研活動報告

【活動実績】
①「沖縄観光グランドデザイン」提言 策定支援業務
沖縄経済の活性化を図る沖縄懇話会が、国・沖縄県他関係各所に提言する「沖縄観光グランドデザイン」を策定。プロジェクト内での提言策定支援業務をサポートした。

②Z世代向け調査
株式会社ODKソリューションズ様との協業により、大学生の旅に対する意識調査を実施。グループインタビューも行い、大学生のリアルな価値観や生活に関する知見を得た。

③Guide of the year2025
第2回目となる「Guide of the year2025」を実施。「Guide of the year2025」1名と、「スペシャルアワード」5名を決定、表彰式を行った。

・Guide of the yearとは
素晴らしいガイドの方々を表彰しその活躍を広く周知することで、ガイドが憧れの職業となりガイド文化が根付き、日本の観光産業が発展することを目指して地球の歩き方総研が始めた取り組み。

④地球の歩き方インバウンドガイド研修プログラム
「Guide of the year」受賞者などのトップガイドを講師に迎え、実践的なガイド研修を実施。

⑤多言語旅行情報サイト「地球の歩き方GOOD LUCK TRIP」
インバウンドメディアとして最大級の月間1100PV、月間ユーザー400万人を誇るサイトであり、繁体字・簡体字・英語での情報発信を実施。

研究員プレゼンテーション①:DMO登録要件改定。地域観光の発展を推進する存在に!この変化は総研のビジネスチャンス(吉澤 勉研究員)

全国の登録DMOは323団体、候補DMOは30団体にのぼる(2025年3月25日現在)。登録制度開始から9年を経て、地域観光の現状に目を向けてみると、オーバーツーリズムを問題視する地域がある一方、集客に課題を持つ地域も存在。観光特性の多様化、地域ごとの格差拡大の傾向が顕著になっており、「地域観光づくりの司令塔」という本来の役割を果たし切れていないDMOも少なくない。

こうした中、観光庁は2025年4月にDMO登録制度に関するガイドラインを改正(施行は10月)。DMO登録要件がより厳格になる。

改正後のDMO登録要件(主なもの)
〇観光地経営戦略策定(KGI・KPIの設定、各種データ等の収集・分析と観光地経営戦略への反映)
〇戦略に基づく取り組みの具体化と実施・検証・改善
〇多様な関係者との体制構築
〇観光地域づくり法人の組織の確立(法人格の取得、意思決定機関の設置、最終的な責任者の明確化、CMO・CFOの設置など)

登録DMOの更新にあたってはKPIの成果が評価に加えられることになり、更新できない場合には1年間に限り「留保DMO」として再度チャレンジすることが可能となるが、登録自体が取り消されることも予想される。

DMO再編にあたり「地球の歩き方」ができること

DMO再編が待ったなしとなる中、「地球の歩き方」ができるDMO支援について、以下のことを提案する。

①基礎的なインバウンド受入環境の整備(地域への啓発/ガイド人材の育成と確保/旅行会社の招へい、商談会・旅行博への出展機会提供など)
②地域観光CMO支援プログラム提供(観光地経営戦略策定/KGI・KPIの設定/観光マーケティング分析の支援業務など)
③DMO従業員研修と育成(DMOマネジメントやDXに関する研修、地域観光コンテンツ構築に関する研修など)

こうした取り組みにより、DMO支援および地域観光発展に寄与することができると考える。

研究員プレゼンテーション②:「観光地経営」に挑む地方創生の今、そして5年後の未来~まちの強みを活かした「わがまちツーリズム」の創出~(刀根浩志研究員)

観光産業は、広範囲な産業に対して経済波及効果を生むという点において地域経済の重要な担い手となっている。しかしながら、訪日旅行者の訪問先は依然としてゴールデンルートが中心で、宿泊者数も地方部では約3割の増加にとどまっており、インバウンド好調の波が地方にまで及んでいないのが実情である。さらに、団体旅行から少人数・個人旅行へとシフトするのに伴い多様化する旅行者のニーズへの対応が遅れたことで、入込客数が減少し、地域全体の活力が低下していたり、疲弊していたりする地域も少なくない。

このような状況から脱却し、「ムリ・ムラ・ムダのない持続可能な観光地経営」に取り組むために、以下の7つの戦略が必要と考える。
①総合観光戦略(観光まちづくりデザインの策定)
②DX戦略(デジタル化による的確なターゲティング、ユーザーの利便性向上など)
③おもてなし戦略
④ひとづくり戦略(受け入れ環境整備、もてなし力・文化力向上など)
⑤プロモーション戦略
⑥イメージング戦略
⑦マーケティング戦略

観光地経営の二つの好事例

観光地経営の好事例を二つ、紹介する。
一つは、世界遺産・熊野古道で知られる和歌山県田辺市の地域DMO「熊野ツーリズムビューロー」。地元の人にとって「ただの田舎道」としか認識されていなかった古道を、「巡礼の道」として世界へと発信。また旅のワンストップ窓口として着地型旅行会社「KUMANO TRAVEL」を設立し、収益を確保。観光振興が地域振興につながる好循環が生まれ、「持続可能な観光地」として高い評価を得ている。

もう一つは、京都府伊根町の取り組みだ。伊根湾の沿岸に舟屋が並ぶ一帯は重要伝統的建造物群保存地区に選定され、毎年30万人近い人が訪れる人気の観光地だが、近年はオーバーツーリズムが課題となっていた。そこで、伊根町観光協会・海の京都DMOは、観光と暮らしを両立するために、「伊根の舟屋は観光地ではありません」というメッセージを発信、舟屋が地元の人たちの生活の場であることを伝え、マナーを守るよう啓発。また、伊根の伝統や文化を理解してくれる人に訪れてもらうために、観光客受け入れ条件を提示している。今後はDX化を進め、「旅まえ-旅なか-旅あとのフォローまで」をワンストップで行い、「伊根ブランド」の確立を目指す。

二つの事例に共通しているのは、観光振興におけるあるべきまちの姿が地域全体で共有されていること、そして外部に丸投げにせず、自分たちの言葉でメッセージを発信し、地に足の着いた取り組みを行っていることであろう。「なぜ自分たちのまちが観光交流事業に取り組むのか」、その目的や意義をあらためて地域全体で共有することが必要である。

研究員プレゼンテーション③:地方誘客のカギ 歩き方ができる打ち手は?(幕 亮二研究員)

九州第2の都市・福岡県北九州市。博多から北九州の小倉まで新幹線ならわずか16分とアクセスが良く、福岡に比べ宿泊費・食費ともに安い傾向にあり、福岡市からの出張族・観光客流入も十分に見込める場所である。

この街のユニークな生活文化の一つとして紹介したいのが、格安でお酒を飲める市民の交流の場「角打ち」である。市内には多数の角打ちの店があり、北九州市の移住促進ポスターにも角打ちの様子を描いたイラストが使われるほど、生活に浸透している。

しかしながら、角打ちで外国人旅行者の姿を見ることはほとんどない。その理由は、その店構えや雰囲気が外国人にとって入店しづらいことが考えられる。いや、その存在さえも知られていないかもしれない。

観光プロモーションにおけるALT活躍について

こうした地域に眠る「資源」を生かすには、どうすればよいか。
私が提言するのは、誘客における外国語指導助手(ALT ※)の活用である。ALTの人たちに角打ちに来てもらい、店側は無料で酒と食事を提供、ALTには外国語で角打ちの情報を発信してもらい、さらに通訳として外国人と店側との橋渡しもしてもらうというものだ。

具体的には以下のような取り組みと効果が想定される。
①自治体との連携によるALT活動機会の拡充
⇒ALTへの手当報酬や副業・キャリアアップ機会へも反映(ガイド育成サービスとの連携)
②DMO・個店等との連携による地元コンテンツ情報の多国語発信
⇒投げ銭やフォロワー数等KPI評価による報酬化
③ALT―OB・OGの地元雇用促進
⇒ALT任期後の派遣地におけるキャリアアップを促進(地域おこし協力隊として再雇用しガイド研修により育成する等)

地味でも愛すべき日常・生活文化を、ALTにインフルエンサーとして発信してもらうことで、訪日外国人に“刺さる”コンテンツに成長させる可能性が生まれるのではないだろうか。

ALTの副業や報酬については、雇用形態(自治体雇用・派遣会社所属など)や在留資格により制限がある場合があります。事前に雇用主等への確認・申請が必要です。資格内容による。場合によっては許諾が必要です。

研究員プレゼンテーション④:アメリカの観光市場の現況、5年後の未来、マーケティング戦略について(マージョリー・L・デューイ研究員)

米ナショナルトラベル&ツーリズムオフィス(NTTO)は、コロナ後のアメリカの観光市場について、2026年にはコロナ前の水準に回復すると予測している。一方、2024年の日本からの訪米者数は約180万人だが、回復にはまだ遠く、2029年になってもコロナ前の水準に達しないとも予測している。

日本人観光客の行き先は、割合の高い順から、ハワイ47%、カリフォルニア21%、グアム14%の3カ所に極端に集中しており、特にハワイの落ち込みが改善されない限り、アメリカ全体の訪米日本人の数が回復するのも難しいだろう。

5年後を見据えたアメリカの観光プロモーション

2029年に向けて、アメリカでは次のようなプロモーション、ビッグイベントが行われる。訪米者数回復を後押しすることになるだろう。
2026年
①アメリカ建国250周年
②ルート66開通100周年
③FIFAワールドカップ開催※アメリカ、カナダ、メキシコの3ヵ国で開催
2028年
④LAオリンピック

一方でトランプ政権の政策、ビザ処理の問題、国際関係の緊張など不安要素もあり、今後もその動向に注視する必要があるだろう。

プレゼンテーション後のディスカッション

研究員によるプレゼンテーションの後に、ディスカッションが行われました。
今回は「DMOガイドライン改正」というタイミングと重なったこともあり、DMO再編に関わることが主に議論されました。

まず吉澤氏が、「改正後は、マーケティング分析を踏まえて観光地経営の戦略を立てることができているかどうかが、厳しく審査されることになる。どのようなKPIを策定するかは、DMOが検討すべき課題の一つだ」と指摘。それに対し、カナダ観光局日本地区代表の半藤将代氏がカナダ観光局の事例を紹介しました。
「カナダ観光局は定性的・定量的データを蓄積し、データに基づいてKPIを計る指標を決めています。項目は多岐にわたりますが、それらはすべてウエブサイトで公開されています。またデータをもとに、地域ごとの観光経営戦略をAI分析もしています」(半藤氏)

また、通訳ガイドの役割についても意見が交わされました。
「カナダの観光戦略のキーワードは、旅行者とカナダ現地の人たちの心の交流。カナダのファンになっていただくために、両者の架け橋となる通訳ガイドには、高い語学力と知識、コミュニケーション力が求められます」(半藤氏)
「アメリカでは、一部の地域や街では優れたガイドに毎年賞を授賞。またツアーオペレーターは、顧客のフィードバックやレビューに基づいてガイドを評価、表彰しています」(デューイ氏)
こうした意見を踏まえ、日本の魅力を高めるうえでガイドの質・量の底上げは不可欠であり、地球の歩き方が取り組んでいる「Guide of the Year」や、ガイドのスキルアップ研修の重要性が再確認されました。

事務局長総括

本総会は、全員が忌憚ない自由闊達な意見交換の場なので、いつも新しい発見がある。今回も参加者それぞれにとって、いろいろな気付きがあったと思う。その気付きを今後の実務や企画に生かしていきたい。

また、総会に初めて参加した若手からの質問に対して、研究員からの示唆に富んださまざまな答えや提案があり、良い学びの機会にもなった。特にオーバーツーリズム対策に関しては視座の高い議論が展開された。

これからも常にマーケットの最前線で活躍している研究員とともに良い議論の場とし、今後の事業や日本の観光発展のための提案をしていきたい。(事務局長・弓削貴久)

地球の歩き方総研 第10回総会まとめ

国内の観光に関わるさまざまな課題は、海外の先進事例に解決のヒントがあることが多く、地球の歩き方総合研究所は引き続き、海外の先進事例なども調査しながら、日本の観光振興のための取り組みを進めていきます。

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