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写真:左からメランション、ルペン、フィヨン、マクロン、アモン各氏
今年2017年のフランスは、4月23日と5月7日に大統領選挙が行われます。旅行者には、あまり関係のないイベントですが、もしその機会にフランスを訪れるようなら、今のフランス政治を生で感じられる、良い機会になるはずです。そこで、この時期にフランスを訪れる人のために、フランスで大統領が選ばれるプロセスを、簡単に説明します。
大統領選を直前に控えたこの時期は、新聞やテレビには各候補者についての記事であふれていますし、街中には候補者のポスターがよく貼られています。少しでもフランスの政治システムについて頭に入っていれば、フランス語が分からなくても、街中やテレビの様子が、ぼんやりと理解できるかもしれません。
写真:候補者集会に参加するため列を作る人々
■大統領の決め方は?
フランス大統領は直接選挙で選ばれます。日本における内閣総理大臣は、国民の代表者である国会議員の投票により選出されますが、フランスの大統領は国民の1票が直接、選挙結果に結びつきます。
まず候補者の決め方ですが、左派・社会党および中道右派・共和党といった政党は、党を代表して立候補する人を誰にするか、投票により決めています(投票を行わず決める政党もあります)。この投票は、その政党に所属する人でなくても、選挙権を持つフランス国民であれば、誰でも参加することができます。そこでもっとも支持を得た人が、その党を代表する候補者として大統領選を戦います。
写真:現時点で本命視されているマクロン氏
この結果、今回であれば現オランド政権を担う左派・社会党からはアモン前教育相、対する中道右派・共和党がフィヨン元首相になりました。他に極右・国民戦線はルペン党首、社会党から独立し自らの中道政治組織「前進! 」を結成して出馬したマクロン前経済相、急進左派・左翼党のメランション党首などが立候補しています。
写真:極右のルペン氏は今回どこまで支持を伸ばせるか
この中で、現段階で本命といわれているのが中道マクロン氏。そこに極右ルペン氏、急進左派メランション氏または中道右派フィヨン氏が続きます。フィヨン氏は当初、本命だと思われていましたが、妻の不正給与疑惑が明るみになり失速。左派アモン氏は、現オランド社会党政権に対する不人気を受けて、支持は伸びていません。
写真:週刊紙カナール・アンシェネに疑惑をすっぱ抜かれたフィヨン氏
極右ルペン氏は反EU(欧州連合)、急進左派メランション氏は現在のEUの仕組みに懐疑的でNATO(北大西洋条約機構)などからの脱退も訴えています。よって、仮にこのどちらかが大統領に当選すると、EUにとどまったとしても現在のEUの枠組みを変えていく方向に、それが叶わない場合には脱退にフランスは動いていくでしょう。
写真:テレビ討論会以降、支持率を伸ばし始めたメランション氏
大統領選は第1回投票で過半数を獲得した候補者がいない場合、もっとも多く票を獲得した上位2人で第2回投票が行われ、そこで勝った人が大統領になります。
投票日:
2017年4月23日(第1回投票)
2017年5月7日(第2回投票)
■首相はどう決めるのか?
日本人の感覚からすると、フランスの大統領と日本の内閣総理大臣は、同じような役割と思いがちですが、実際は大きく違います。フランスでは大統領と首相という、行政のトップが2人いる形です(国家元首は大統領、日本の場合の国家元首は天皇)。
フランスにおいて、首相は大統領により任命されます。ただし大統領は首相の任命権を持っていますが、だれを首相に選ぶかは国民議会の議員による投票で決まるため、どの党の人でもいいわけではなく、その時に国民議会(日本でいう衆議院)で多数派となっている政党から首相が選ばれます。
写真:国民議会の議場内
大統領が所属している政党と、その時の国民議会の多数派政党が同じ党であれば、ことはスムーズに事が運びます。しかし、もし大統領の政党と国民議会の多数派政党が異なってしまった場合は、大統領と首相がそれぞれ違う政党の人になる事態も起こりえます。この状況をフランスでは「コアビタシオン」と呼びます。
■大統領と首相の仕事の内訳は?
シャルル・ド・ゴールから始まった現在の「第5共和政」と呼ばれる政治システムは、大統領にとても大きな権限がある政治体制です(1つ前の政治システム「第4共和政」では、大統領はどちらかというと象徴的な存在でした)。それでもコアビタシオンになると、やはり不都合は出てきます。もし大統領と首相が違う政党になってしまった場合、どのように役割分担をするのでしょうか。
写真:首相官邸であるマティニョン館
通常、大統領は首相を通して自分の目指す政策を実現します。ところが大統領と首相が異なる政党になれば、当然意見の食い違いが起こります。その際は、大統領が権限として持つ外交と軍事を、首相は内政を担当するというのが伝統となっています。現在までコアビタシオンは、ミッテラン大統領(社会党)時のシラク首相(共和国連合)、ミッテラン大統領(社会党)時のバラデュール首相(共和国連合)、シラク大統領(共和国連合)時のジョスパン首相(社会党)と3回起きています。
■首相を選出する国民議会議員の決め方は?
国民議会の選挙は、選挙区1区から1人の議員を選ぶ小選挙区制で行われます。日本のように議員名と政党名を同時に書く小選挙区比例代表並立制ではありません。直接選挙、つまり大統領選と同じく国民の1票が直接、選挙結果に結びつきます。ここでも大統領選のように、第1回投票で集めた表が一定数に達しなかった場合は、第2回投票が行われます。ちなみに国民議会と元老院(日本でいう参議院)では、国民議会に優先権があります。
投票日:
2017年6月11日(第1回投票)
2017年6月18日(第2回投票)
写真:国民議会があるブルボン宮
日本の政治システムを、そっくりそのままフランスの各役職に当てはめると混乱してしまいますが、まったく違う制度だと認識して見れば、少しはスムーズに頭に入ると思います。大統領選は5年に1度の国民的イベントです。前回2012年の大統領選は、オランド大統領当選時にバスチーユ広場が支持者で大変な賑わいになりました。テレビや街中で、その雰囲気を少しでも感じてみてください。