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フランス語で俳句をどのように作ると思いますか? 日本語だと文字を「五・七・五」と数えますが、フランス語(英語なども)で俳句作る時は音節(シラブル)を「五・七・五」と数えます。音節とは「ひとまとまりの音として認識され、単語の構成要素となる」(大辞泉より)もの。すると、フランス語で俳句を詠んだとしても「五・七・五」の音で聞こえてきます。
そんなフランス語で楽しむ俳句を募集してみようという試み「日仏交流俳句コンクール『離れていても』」が、パリ日本文化会館によって開催されました。
2020年は新型コロナウイルスの影響によって、国境や地域間の人の移動が大きく制約されました。フランスでは3~5月と10~12月は外出制限を実施。このような「会えない」状況下だからこそ、俳句を通じて思いを分かち合う場を設けようと企画したのが、「日仏交流俳句コンクール『離れていても』」でした。
昨年8~10月に、日本語とフランス語の俳句をオンラインで募集。テーマは「新型コロナウイルスの流行下で、人々の生活が大きく変わる中、感じたことを俳句で表現」です。
集まった1696句は、審査員(黛まどかさん、ニコラ・グルニエさん、クリスチャン・フォールさん、川崎康輔さん)の事前選考を経て、昨年12月にオンラインで一般投票。「日本語部門」「外国語としての日本語部門」「フランス語部門」を「一般」「中高生」「小学生以下」に分けた全9部門で、審査員賞(各部門3句)および一般投票で選出された「みんなの一句(各部門1句)」を選出しました。
句はフランスだけに限らず、アジア、北米、中南米、ヨーロッパ、アフリカといった計31ヵ国から集まりました。その結果が、2021年1月29日に発表されました。
フランス語の俳句とはどんなものか興味が湧きませんか? 「フランス語部門」の受賞作を見てみましょう。なお、全部門の受賞作はパリ日本文化会館のサイトに掲載されています。
▲「フランス語部門 一般」の受賞作
▲「フランス語部門 中高生」の受賞作
▲「フランス語部門 小学生以下」受賞作
どの句も作者が出会った情景が、頭に浮かんでくるようです。フランス語がわかる方、または学んでいる方は、各句を音読してみてください。リズムが「五・七・五」になっています。
いまもコロナ禍が続いているため、受賞者を集めての大々的な授賞式は開かれませんでしたが、クラス単位で応募したパリ市内の学校では個別に表彰状が渡されました。そのひとつが「小学生の部」受賞者のリナ・レキックさん(小学5年生)が通うパリ17区のブルソー小学校です。同学校のジェローム・ラバ先生は、授業の一環として授業に俳句を取り入れ、今回の俳句コンクールに参加しました。
▲パリ日本文化会館からの賞状を受け取るレキックさん(左)
さて、レキックさんが作ったのはこんな句です(上の「フランス語部門」受賞一覧にもあります)。
Au temps du virus
les heures comptent des jours
Chaleur étouffante
「ウイルスの 日々長くして 蒸し暑い」
レキックさんは「俳句はとても小さな詩だけれど、小さいながらもたくさんの気持ちを込められる。これからも作り続けたい」と感想を述べてくれました。
パリ日本文化会館からの表彰状が渡されたとき、併せて「春の俳句を作る」という授業もクラスで行われました。ラバ先生は、春の季語を生徒たちに挙げさせていきます。
生徒たちはわれ先にと手を上げ季語を発表します。そして、その季語に先生が解説をつけます。例えば、春の季語として「浜辺」と答えた生徒には、「それはどちらかというと夏を連想させる」と教えてあげるなど。なかに「モルモット」と答えた生徒もいました。先生は一瞬考えながらも「確かに動物によって、季節に特徴的な動きをするものがあるよね」とサポートしながら、生徒たちは楽しく俳句に触れていました。
受賞作の中には「外国語としての日本語部門」として、日本語が母語ではない人々による俳句もあります。その受賞者のひとりが、パリに住むITエンジニアのバティスト・コランさんです。
「ツバメ達 飛んで踊って 窓裏で」
コランさんは、今回の俳句コンクールがあることをパリ日本文化会館と、毎週通っている日本語教室の先生から教えてもらったそうです。コロナ禍でイベントのキャンセルが続いていたため、オンラインで参加できる同コンクールに挑戦することにしたそうです。
コランさん自身、俳句を作ったのは今回が生まれて初めてでしたが、「日頃Twitterで短い文章を工夫している私にとって、(俳句は)興味深い経験だった」といいます。また、コランさんとパリ日本文化会館とのつながりは今回のコンクールに限らず、2018年には、パリ日本文化会館が主宰する「Japan Workshop」という訪日プログラムに参加し、日本企業や大学を視察した経験も持っています。
「日本語部門」には、日本からの応募もたくさんありました。愛媛県松山市に住む佐藤昭子さんも受賞者のひとりです。
「蔓薔薇や 母に食事を 置き帰る」
佐藤さんは松山市の愛光学園で古文を教えるかたわら、同市で開かれている高校生向け俳句コンクール「俳句甲子園」にも多数の生徒を参加させてきました。「多くの日本の文学者・作家が、いまも昔もフランスから影響を受けています。日本独自の詩である俳句を通して、文学的な交流ができればうれしい」と今回の受賞について答えてくれました。
じつは佐藤さん、大学時代にフランス語を学んでいたことがあり、いまもう一度学習を始めたそうです。そして、なんと今回のコンクールでは「フランス語部門」にも自作の句を応募したとのこと。残念ながら「フランス語部門」の句は受賞ならずでしたが、日本語部門の句が選出されました。
フランスで俳句に親しむ人はどれくらいいるのでしょうか? パリ日本文化会館の館長事務代理を務める姫田美保子さんにうかがうと、「フランスにおいて俳句は10年ほど前から学校教育でも取り入れられているケースがあり、中学校の教科書にも俳句の仏訳が載っている」といいます。一般投票に参加した人々からは、「俳句を見て心が温まった」といった感想も寄せられたそうです。
▲パリ日本文化会館の姫田さん
姫田さんは「文化は心を豊かにします。つらく厳しいなかですが、一瞬心を俳句の世界に飛ばして暖まって、俳句を作った人と心をつなぎ、明るく明日が迎えられるようにと願っています」と語ってくれました。
今回の俳句コンクールを通じて、大小さまざまな交流が各国、各世代、各方面に広がりました。フランスでも制限が多い日々はまだまだ続きそうです。しかし、それでも俳句を通じて物理的な距離を越えて人々を結び、そこから生じる世界をつなぐ優しい気持ちと情景を分かち合うことで、国際的な友好関係は深まっていくはずです。そんな気持ちを感じられたコンクールでした。
・住所: 101 bis Quai Branly 75015 Paris
・最寄り駅: 地下鉄6号線Bir Hakeim/RER C線Champ de Mars – Tour Eiffel