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以前ご紹介したジェロニモス修道院と共に1983年に世界遺産として登録された「ベレンの塔」。修道院や川沿いの人気観光スポット「発見のモニュメント」から1kmほど川下のテージョ川沿いに残る要塞です。
大航海時代の最中、交通の要であるテージョ川を行き交う船を監視し、河口を守る目的で建造された要塞、と聞くと堅牢で無骨な建物を想像するかもしれません。ところがベレンの塔は、作家・司馬遼太郎氏が著書『街道をゆく 23 南蛮のみちⅡ』の中でその美しさを貴婦人がドレスの裾を広げて立つ姿に見立てて「テージョ川の公女」と呼んだことでも知られる優美な建物です。
ベレンの塔の建築を命じたのは、ジェロニモス修道院同様、ポルトガル王国の黄金期を築いたマヌエル一世。こちらも彼の名前を冠した「マヌエル様式」、つまり後期ゴシック建築、ルネサンス建築、イスラム建築の要素と珍しい動物や天球儀、ロープ、海藻など大航海時代のモチーフが散りばめられたデザインとなっています。
ちなみにベレンの塔建設の指揮をとったのは、モロッコのポルトガル領地で要塞を手がけてきた建築家フランシスコ・デ・アルーダ(Francisco de Arruda)。そこで吸収したイスラム建築の要素をこの塔のデザインに色濃く反映したようです。1514年から1519年の間に建造されました。
ベレンの塔は高さ約35メートル。地下も含めて6層になっています。
桟橋を渡って内部に入ると、大砲の並ぶ部屋があります。これを見るとやはり要塞だった、と思いますね。ちなみに地下には潮流により海水が入り込む水牢が設けられていたそうです。美しい外観とは裏腹になんとも恐ろしい過去を隠しもつ「公女」でございます。
上階へと続く螺旋階段は人がすれ違えないほど狭いため、上る人と下りる人が係員の指示に従って、交互に移動することになります。中でも行列なんて…と思うかもしれませんが、各フロアはそれほど広くないので回転は早いです。「国王の間」「謁見の間」「チャペル」などフロアごとに内装も外部の眺めもそれぞれ違って魅力的なのでぜひ全てを見学してみてください!
ベランダのベンチに腰掛けてテージョ川と赤い吊り橋「4月25日橋(Ponte 25 de Abril)」を背景に写真を撮る、なんてこともできますよ。
もし開館時間に間に合わないようでしたら、むしろ夕焼けの時刻やライトアップされる夜間を選んでお散歩や撮影に出かけるのもいいかもしれませんね。
(撮影by東リカ)
※撮影写真の掲載許可をいただいています。
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