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パリ日本文化会館の2階展示ホールでは、2023年10月18日~2024年1月27日の期間で、特別展「工匠たちの技と心 ―日本の伝統木造建築を探る」が開かれています。日本の代表的な建築様式である「数寄屋建築」、日本の社寺建築を担ってきた「堂宮大工」、日本の木工技術の例として「木組み」の3項目に焦点をあてながら、日本における木造建築の歴史と文化をフランスに向けて解説する試みです。一般公開前日に行われた、報道関係者向けに行われた説明会へ行ってきました。
今回の特別展は、日本における建築物の主な材料である「木」から始まります。特別展の入口をくぐると、まず出迎えてくれるのが、建材に使われる木の種類と、その削りくずです。木と一口にいっても、種類や育て方によって、色や形、強度などが千差万別に変わります。削りかすがボックスに入れられ、来場者が各建材の手触りや香りを感じられるようになっています。
なかでもスギとヒノキは日本固有種とのこと。「真っ直ぐに伸び、成長も早いスギやヒノキは、まるで建築に使うためにあるような木だと思いませんか」と竹中大工道具館の西山マルセーロさん。大工はそれぞれの木の特性を、適材適所に使ってきました。
入口を抜けて、大きく目に飛び込んでくるのが原寸大で作られた茶室です。ただし、完全には作られておらず、壁を塗ったり屋根を葺く前の、構造がわかる状態のもの。茶室を形作る数寄屋建築には、じつにいろいろな木が、多様な使われ方で用いられていることがわかります。
壁を構成する板は、円柱の枠組みと共に用いるため、とても薄く作る必要があります。「薄くすると板目にとった板ではどうしても曲がってきます。そこで柾目(まさめ)を使うんです」と西山さん。柾目に取るには、大きな木から製材しなくてはならないのですが、反りは出ません。それ以外にも多くの技法が使われていますので、じっくり眺めると、さらに面白さが増します。
数寄屋建築を学んだ後は、堂宮大工の仕事に展示が移ります。「宮大工」という言葉はよく聞く気がしますが「堂宮大工」という言葉は、聞き慣れない言葉だと思いませんか?私はそうでした。「堂宮」の「堂」とはお堂のこと。つまり寺院建築のこと。「宮」はお宮、つまり神社建築です。つまり、こういった神仏に関する建物を扱う大工をまとめて「堂宮大工」です。
ここでは世界最古の木造建築物である法隆寺で、昭和9(1934)年から昭和60(1985)年にかけて行われた昭和の大修理に関した資料が展示されています。同修理に棟梁として携わった西岡常一さんが残した図面など、貴重な資料が展示されています。西岡さんの家は、西岡さんの祖父、父と3代に渡って、棟梁として昭和の大修理を率いました。
西岡さんの図面は、紙ではなく板に引かれています。「紙だともろいため、現場用に板に書いたんです」と西山さん。また、西山さんは「木はリサイクル素材だが、それは木が育った期間と同じだけ使わないとリサイクルとは言えない」と述べます。法隆寺には1000歳を超えたヒノキを伐採し建材とし、それを1000年以上使っています。
ここでも寺院建築の軒先の構造が一部再現され、木材の組み方が見えるようになっています。日本の寺院建築は、もとは中国大陸の建築様式を真似たものでしたが、雨が多い風土のため、軒先を長くする工夫がされました。そして、次第に桔木(はねぎ)という日本独自の構造材が屋根を支えるようになり、垂木(たるき)を化粧として使えるようになりました。
最も奥に位置するのが、木組みの展示です。ここでは、じつにさまざまな木組みの例が映像と共に配置され、どのように組み合わさるのか、理解しやすいようになっています。
木組みは日本だけに限らず世界中で用いられていますが、「日本の特徴は、組んでいることが分からないように工夫するところ」だと西山さんは説明します。木組みは、ただ木を組んで建材として長くするだけではなく、一本の木と比べても同じ強度となるように組まれているそうです。ここにも、長年にわたる職人の知恵が詰め込まれています。
最後に、来場者の目を惹きつけるのが、組子屏風です。「組子」とは、建具に使われる組木細工のことで、幾何学模様を配して、風景などをデザインとして表現しています。「携帯で写真を撮ってみてください」と西山さん。ついたてをスマホで写真に撮ると、描かれているデザインがよりはっきりします。
なぜか?組子をよく見てみると、一部に色合いが異なる木が使われていることが分かります。天然木の色の違いを利用しているからであり、油絵と同じ技法が用いられているそうです。大きな構造から細かな細工まで、日本は多種多様に木を利用してきたことが分かる展示となっています。