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パリの地下鉄構内を歩いていると、どこからか音楽が聞こえてきたり、演奏しているミュージシャンに出会うことがしばしばあります。地下鉄構内にいるミュージシャンは、パリ交通公団(RATP)から認定を受けている正規のミュージシャン(Musiciens du métro:ミュージシャン・デュ・メトロ)と、許可を得ず勝手に演奏しているミュージシャンがいるのですが、正規ミュージシャンのなり方について、まとめてみます。
ミュージシャン・デュ・メトロとは、1997年に作られた制度です。毎日多くの人々が行き交う地下鉄駅の構内でのパフォーマンスを認めることにより、人々に音楽的な楽しみを提供し、若い才能を発掘することを目的としています。RATPが関わる音楽フェスティバルへ参加するきっかけも提供しています。
RATPから認められたミュージシャンになるには、春と秋の年2回行われるRATPのオーディションに申し込む必要があります。RATPのウェブサイトによると、毎回約1000人が応募し、そこから300人ほどが合格します。
プロ、アマチュア、ソロ、デュオ、グループは問いません。申し込みには、「氏名」「住所」「電話番号」「生年月日と出生地」「演奏楽器」「演奏ジャンルとレパートリー」「グループである場合はその構成員」を書いて、RATPが指定するメールアドレスに送ります。
オーディションで選ばれるには、やる気や技術に加えて、パリという街およびパリの乗客のイメージである、多様なスタイルや文化を尊重することが求められるそうです。オーディションを通過すると、RATPから認定カードが発行され、正式な「ミュージシャン・デュ・メトロ」になります。
ミュージシャン・デュ・メトロになっても、地下鉄駅構内での演奏にRATPから報酬は支払われません。ただ、RATPが主催する音楽イベントへの出演を、有償で依頼されることはあります。
ミュージシャン・デュ・メトロの演奏場所は、地下鉄の駅構内にある指定場所に限られ、列車内などでの演奏は乗客の迷惑や交通の妨げになるため、許可されていません。しかし、パリの地下鉄に乗ったことがある人は、しばしば演奏者が乗ってくる機会に出会したことがあると思います。
それら演奏者はすべて、違法な演奏者。RATPからの許可証なく地下鉄駅構内で演奏すると、150ユーロの罰金を科されます。
違法ではありますが、走る地下鉄の揺れときしみ、少し音程の外れた楽器を手にして演じられる車内演奏の様子は、パリらしい景色ひとつでもあります。それらパフォーマーは、演奏を終えると帽子や空き缶を集金箱にして、チップを求めて車内を回ります。1日どれくらいの稼ぎになるのでしょうか?
Capitalというフランスのウェブメディアが、「地下鉄ミュージシャンはどれくらい稼ぐのか?」という記事を今年1月に出していました。それを引用すると、同メディアで取材をした演奏家の場合、1時間あたり15〜30ユーロくらいになるとのことです。多い日だと1時間あたり50ユーロを稼いだこともあるそうです。
しかし、この人の場合は、生活のためというよりは、プロ活動と並行して楽しみのために地下鉄車内で演奏をしている人であり、もちろんまったく稼げない人もいます。同メディアに取材されていたこの男性の場合も、地下鉄車内で演奏を始めた当初は、1ユーロも稼げなかったそうです。お金の代わりに、タバコやビスケットでチップをくれる人や、ユーロ以外の貨幣を渡す人もいます。
地下鉄には、さまざまな人生が行き交っています。