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現在開かれている第77回カンヌ国際映画祭(2024年5月14〜25日)で、スタジオジブリ(三鷹の森ジブリ美術館およびジブリパーク含む)に長く映画界に貢献した人に贈られる名誉パルムドールが授与されました。今まで個人による同賞の受賞はありましたが団体としては初。カンヌには宮崎吾朗監督が訪れました。現地の様子をお伝えします。
今回カンヌでスタジオジブリについて取材をしていると、現地でのジブリ人気をあらためて感じます。それは、たとえば熱狂的で先鋭的なものではなく、ふんわり会場全体を包んでいる優しさのある人気。それは和食におけるご飯のような、欠かせなくて飽きない。身近にあって私たちの一部になり、新たに触れてもすっと溶け込んでくる。とても居心地が良いです。
その点において、今までの名誉パルムドールを受賞してきた人たちとは、一線を画すかも知れません。
カンヌ国際映画祭のメーン会場であるパレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレ。5月20日、同施設の中にあるリュミエール劇場で行われた名誉パルムドール授賞式も、そのような雰囲気に包まれていました。登壇する方も、それを見ている方も空気が柔らかいのです。
授賞式当日の様子を少しご紹介します。式では初めに、宮崎駿監督とプロデューサーの鈴木敏夫さんが今回の受賞について語ったビデオメッセージがスクリーンに流れました。それがまた、意図したのどうかは分かりませんが、二人の掛け合い漫才のようなユーモア溢れるものでした。
まず鈴木敏夫さんが、授賞式に上映されるジブリ美術館で公開されている短編アニメ『めいとこねこバス』『やどさがし』『パン種とタマゴ姫』『毛虫のボロ』について「(宮崎)吾郎くんが選んでくれた」と紹介。「(宮崎駿監督が)外国で上映して評価を聞いてみたいと言っていた」と隣に座る宮崎駿監督に問いかけると、宮崎駿監督は「そんなこと言っていないと思います」とキッパリと否定。会場は大きく沸きました。
肩透かしを食らった表情の鈴木敏夫さんが、次に「(カンヌの授賞式には)吾郎くんが代表して行きますので」と宮崎駿監督に言うと、宮崎駿監督は「気の毒ですが頑張ってください」と答えて、会場は再び大受けになりました。
最後は、鈴木敏夫さんが「選んでくれた方々に感謝したいと思います」、宮崎駿監督が「どうもありがとうございます」と今回の受賞に対するお礼の言葉を述べて、ビデオメッセージが締められました。
宮崎吾朗監督のスピーチも行われました。「今日この場に呼んでくださったことをジブリスタジオとジブリ美術館とジブリパーク、すべてのジブリを代表して感謝申し上げます」と切り出すと、まず大きな拍手に包まれました。そして、今年のアカデミー賞で『君たちはどう生きるか』が長編アニメーション映画賞を受賞した時のエピソードを面白おかしく披露。
「オスカー賞を受賞した時に初めて知ったんですが、オスカー(像)はケースに入っていないんです。渡米したジブリの人間はホテルのタオルでオスカーを包んで東京まで持って帰った。パルムドールはちゃんとケースに入っていて良かった」と語り、観客の笑いを誘いました。
その後は「少し真面目な話を」と話題を変えて、「スタジオジブリは今から40年前、高畑勲、宮崎駿、鈴木敏夫の3人によって作られました。それから40年、スタジオジブリはたくさんの映画を作るとともに、ジブリ美術館を建設し運営し、新しくジブリパークという大きな施設も建設・運営を始めています」とこれまでのスタジオジブリの歩みを説明。
そして「創業者の3人の功績はまったく疑うところではありませんけれども、これだけたくさん仕事をやってこれたのは、本当にたくさんのスタッフの献身あってのことだと思います。私はスタッフに感謝すると共に、喜びを分かち合いたい」と述べて、大きな拍手に包まれました。
最後は「同時に、今ジブリがあるのは、スタジオだけの努力だけでは成し遂げられなかった。たくさんの世界中の人たちがジブリを支えてくれて、世界中のファンたちがジブリを愛してくれたことでの今回の賞だと思う。本当にありがとうございました」と締めると、温かい拍手と会場を飛び交う歓声が、フランスにおけるジブリの存在感させました。
上映された4本の短編アニメは、いずれも雰囲気は好評。『めいとこねこバス』と『パン種とタマゴ姫』は、スタジオジブリの王道ともいえる映像が展開され、観客は釘付けに。『やどさがし』と『毛虫のボロ』については、オノマトペをタモリさんや矢野顕子さんが読み上げる形で映像の中で音声化されているアイデアの面白さに、会場は笑いと笑顔に包まれました。
名誉パルムドールの授賞式に先立ち、宮崎吾朗監督にお話をうかがう機会もありました。
ーー名誉パルムドール受賞について、どんな気持ちですか?
喜ばしいというか、嬉しいことだと思います。スタジオにとってもそうなんですけど、一方でジブリ美術館とかジブリパークというものも存在していて、そういうところのスタッフたちにとってみると、スタジオじゃない場所の仕事も評価してもらえたことになるので、ジブリ全体として喜べる賞なんじゃないかなと思います。
ーー宮崎駿監督は名誉パルムドールを受けて何と?
「よく分からないけど、ありがとうございます」。全然ピンときていない感じです。
ーー鈴木敏夫さんは?
「なんで、もらっときなよ」という感じでした。
ーー今年に入ってからアカデミー賞や名誉パルムドールなど朗報が続いていますが。
これで終わっちゃうんじゃないかと思って心配している(笑)。ただ鈴木にも言われてますが、次のことをやるにも、もうちょっと充電しないと無理だよねと言っていて、今は充電期間なんだろうなとは思うんですけど、言っている鈴木は76(歳)ですからね。今充電していたら死んじゃうかもしれないと思うじゃないですか。どうすんだろうなって思います。
ーー今回充電するためにも、カンヌに鈴木敏夫さんにもお越しいただきたかった。
足もちょっと悪くしているので、トータルでいうと家を出てから(カンヌに)着くまで24時間ぐらいかかりますよね。そうすると、やっぱり70半ばを超えた人間には体力的にちょっときつい。「俺は温泉に行くから吾朗君、行ってきて」って。
ーー宮崎駿監督の次回作について進展はありますか?
進展ですか。言わないんですよ。いや、絶対誰にも言わないですよ。迂闊には言わない。あの年になっても周りのアニメーター全員がライバルなんですよ。自分より年下だろうが、自分を支えてくれるスタッフだろうが、それが社内であろうが社外であろうが、 アニメーターと名前がついたら全員ライバルですから。そういう人たちにうっかり自分の企画を話さない。やっぱりこれだとなるまでは、それは明かさない。
ーーフランスでもジブリ人気は肌で感じる。海外のファンに対してどういう思いを持っていますか?
ここまで広がるとは本当に思ってなかった。ここまで広がっていることに僕らの方が驚いてるというのが正直なところかなと思います。2020年くらいですかね、世界で、ネットフリックスで作品の過去のライブラリーを全部配信することを始めてから、ここまで広まったっていうのがあるんで、それまではそんなでもなかったという感覚はあるんです。
ーーネットフリックス以後は違いを感じますか?
全く違いますね。端的な例で言うと、東京にジブリ美術館というのがあって、最初の頃にジブリ美術館に来てくださった外国のお客さんは、韓国か台湾かフランスなんですよ。ヨーロッパのお客さんというとフランスの方しかいなかった。それが今はもうヨーロッパと言ったらヨーロッパ中です。それはジブリ美術館に限らずジブリパークもそう。結果的に今までのこれだけのストックがあって、こういうものがあるんだっていうのを、まとめて知っていただくことができたというのは大きいです。