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【フランス】パリ郊外・ジャンティイで出合う、暮らしに息づくアート体験

綾部 まと

綾部 まと

フランス特派員

更新日
2025年6月30日
公開日
2025年6月30日

アーティストのアトリエをのぞいてみたいけど敷居が高そう――そんな人にぴったりなのが、パリ郊外のジャンティイで毎年開催されるアートイベント「ZIGZAG(ジグザグ)。予約不要・入場無料で、誰でも気軽に地元アーティストの制作現場を訪れることができるのです。今回は筆者が実際に足を運んだふたつのアトリエを紹介します。

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子どもと一緒に、気軽に楽しむアートイベント

筆者が訪れた会場。2 ヵ所のアトリエがある

5 月の週末、ジャンティイで開催されたアートイベント「ZIGZAG(ジグザグ)」を訪れました。パリ中心部からRER B 線でわずか1 駅という距離にありながら、穏やかな空気が流れるこの町で、地元のアーティストたちが25 ヵ所のアトリエを無料開放するというユニークな催しで。開催期間は2025年5 月16 日~18 日まで。予約も不要で、誰でもふらりと立ち寄れる気軽さが嬉しい。

私が最初に訪れたのは、自宅から歩いて行ける住宅街の一角にあるアトリエ。入口には「ZIGZAG」のポスターが貼られていて、それがこの週末の“特別な開放日”を知らせています。

なかに入ると、思わず笑顔になるようなあたたかな雰囲気に包まれていました小さなテーブルにはジュースやお菓子が並び、訪れた親子はアーティストと談笑中。子どもたちは走りまわって遊び、大人たちは気になる作品の前で立ち止まって自由に感想を話していました。

私が一枚の絵に目を留めて「この絵がとても好きです」と伝えると、作者の女性が「日本の浮世絵に影響を受けて描いたんです」と教えてくれました。作品に魅かれて声をかけると、自然に対話が生まれる――そんな親密な時間が、ここでは当たり前のように流れているのです。値札は一切なく、買いたい人
向けに小さな冊子が置かれているだけ。誰に気兼ねすることもなく、自分のペースで作品と向き合える
空間でした。

■ZIGZAG(ジグザグ)
住所:Gentilly, Île-de-France, France(アトリエごとに異なるが、町全体が会場)
2025年の開催地はこちら:https://www.ville-gentilly.fr/sites/default/files/depliant-zigzag2025-print.pdf
電話番号:+33 1 47 40 58 46(※Gentilly 市文化部 Service culturel の番号)
アクセス:RER B 線「Gentilly(ジャーンティー)」駅下車すぐ(パリ中心部・Châtelet – Les Halles か
ら約15 分)
営業時間:例年5 月の週末、土・日 11:00〜19:00 頃(※アトリエによって異なる)
入館料:無料(予約不要)
URL:https://zigzag-gentilly.com/

宇宙に魅せられたアーティストのアトリエ

アートにうとい筆者のために、絵の具の説明もしてくれた

ふたつ目に訪れたアトリエでは、宇宙をテーマにした作品が目を引きました。壁にはNASA が撮影した天体写真が飾られ、その隣に展示されている抽象画は、まるで宇宙の奥深さや静けさをキャンバスに投影したかのよう。。アーティストの男性があたたかく迎えてくれ、「こうやって音楽をかけながら描いているんですよ」とジャズを流してくれたかと思えば、「休憩の時はこうやって座るんだ」とソファにおどけて腰かけてみせるなど、気さくな人柄がにじみ出ていました。

私はアートとは無縁の仕事をしていたのですが、そのアトリエでは自然とリラックスして作品と向き合うことができました。展示スペースの一角には、彼自身が手がけた2 冊の著書も置かれており、そのうちの1 冊は宇宙に関する対談集のようです。ページをめくってみると実に興味深く、思わず1 冊を購入。すると「もう1 冊はプレゼントだよ」と笑顔で差し出してくれるではありませんか。その後で彼の友だちがやってきて、なんと詩人なのだとか。旅行をテーマにした詩を書いているとのことで、創作について興味深い談義を聞くことができました(フランス人同士の会話はすごく早くて、半分も理解できなかったけれど……)。この出会いもまた、ZIGZAG というイベントならではの自由であたたかなひとときでした

買わなくていい、気負わなくていい。肩の力を抜けるイベント

たくさん置かれたCD と本、そしてソファ

ふたのアトリエを訪れて感じたのは、ここに流れる時間のゆるやかさ。どちらの場所でも、「作品を売らなければ」「見たからには何か買わなければ」といったプレッシャーは一切なく、ただアートを楽しむことそのものが歓迎されている雰囲気があります。作品のそばに値段の表示はなく、購入希望者向けに小さなガイドブックが置かれているだけ。むしろ「見て感じてもらえたらそれでいい」という静かなメッセージが、空間全体から伝わってくるようでした。

また、どちらのアトリエでも強く印象に残ったのは「大きな美術史やアートマーケットと戦っている」
という気負いがなく、あくまでも“生活の一部としてのアート”を大切にしていること。だからこそ、訪
れる側も肩肘張らず、普段着のままでふらりと立ち寄ることができるのです。この日感じた心地よさは、
美術館ではなかなか味わえないものではないでしょうか。

パリには世界的に有名な美術館が数多くありますが、たまには郊外へ足を伸ばして、こうした“暮らし
と共にあるアート”に触れてみるのもいい。ZIGZAG のようなイベントは、アートとの距離を縮めてくれ
る、やさしい入り口だと感じました。

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