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パリ市内エッフェル塔近くにあるパリ日本文化会館では、来年2026年1月24日まで「高畑勲 今日のアニメーションのパイオニア —戦後からスタジオジブリまで」展が開かれています。故・高畑監督の企画展は日本国内では開催されたことがありますが、欧州開催は今回のパリが初。同氏が携わった初期作品から『火垂るの墓』、晩年の『かぐや姫の物語』まで、潤沢な資料をベースに高畑ワールドを総覧できる展覧会です。
今回の特別展は、高畑監督の人生をなぞる形で大きく4つのパートに分かれています。
最初が、高畑監督がアニメのキャリアを歩み出した東映動画時代。1968年に『太陽の王子 ホルスの大冒険』という作品で初めて演出に携わりました。この時に、後にスタジオジブリを共に立ち上げる宮崎駿とも出会っています。
次が東映動画を辞めて後の70年代。ここではAプロダクション在籍時の『パンダコパンダ』、ズイヨー映像在籍時には『アルプスの少女ハイジ』『母を訪ねて三千里』『赤毛のアン』といった作品に携わりました。
3つ目が80年代、宮崎駿氏などと立ち上げたスタジオジブリ時代。ここでは『火垂るの墓』『おもひでぽろぽろ』『平成狸合戦ぽんぽこ』といった高畑監督の名を確固たるものにした作品が続きます。
4つ目が90年代から2000年代の作品。『ホーホケキョ となりの山田くん』、絶作となった『かぐや姫の物語』の紹介で、展覧会は終着となります。
今回の展示の見どころは、初期作品および誰もが知っているキャラクターなどが描かれた原画やセル画に加えて、高畑監督が当時、制作会社とやりとりした手紙といった制作の裏側の部分まで、貴重な資料を視覚的に楽しみながら、高畑監督のキャリアをなぞることができる点です。
例えば、『太陽の王子 ホルスの大冒険』の制作過程において、作品の質を高いレベルで求めたい高畑監督と、ある程度のレベルで落ち着かせスケジュールを進めたい制作会社側とのやり取りが、克明に記されています。
上野動物園にパンダが来てことがきっかけに起こったパンダブームに乗じて制作された『パンダコパンダ』のパンダは、どこかで見たことがある風貌。のちにスタジオジブリで作られることになるトロロの原型がすでに現れています。
『アルプスの少女ハイジ』に関しては、日本のアニメ制作としては、おそらく初めてであると思われる、制作のために本格的な海外現地取材を行った時の写真が並びます。
『おもひでぽろぽろ』や『平成狸合戦ぽんぽこ』に見られる、背景を細かく描きこんだ写実的な作り方から一転して、シンプルな構図と水彩画のようなタッチでまとめた『ホーホケキョ となりの山田くん』、そして最後の作品となる『かぐや姫の物語』に至る対比は、このように横断して各作品を見ることができる企画展ならではです。
パリで開かれた今回の特別展について、現地メディア向けに解説を行ったスタジオジブリの田中千義さんは「高畑監督は東京大学の仏文科を卒業した。とてもフランスが好きだったので、この展覧会は何としてでもフランスで実現したいと思った」と挨拶。
田中さんは「高畑監督は人間的にとても魅力があり、話にも説得力があるため、アニメーターも高畑監督のためならやるかという気になる」と高畑監督の人柄を織り交ぜながら解説していきました。
また「高畑監督の絵を見る能力はすごい。この絵はなぜおかしいのかということを的確に指示できる。何度もやりとりをして作品を作っていくため、アニメーターにとっては非常に勉強になる」と制作過程における、スタッフとの関わり方なども紹介。
晩年に作られた『かぐや姫の物語』は、同作が高畑監督にとっての最後の作品になるかもしれないと日本中の著名なアニメーターが参加したそうで、「大きい長い作品の中ではアニメーターの個性が薄められてしまうことは多い。高畑監督はいいと思ったらそれをどう活かせるのかということを考える。高畑監督がアニメーターからとても信頼される理由の一つはそういうところ」と説明しました。
高畑監督の魅力が多く詰まった貴重な展覧会。ぜひ足を運んでみてください。
■パリ日本文化会館(Maison de la culture du Japon à Paris)
住所:101 bis Quai Jacques Chirac 75015
URL:https://www.mcjp.fr/ja
開催期間:「高畑勲 今日のアニメーションのパイオニア —戦後からスタジオジブリまで」2025年10月15日〜2026年1月24日