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旅の醍醐味といえば、グルメやショッピング、非日常のアクティビティなどがありますが、その土地の歴史を知ることも魅力のひとつ。本日は、在日コリアンが多く暮らすウトロ地区にあるウトロ平和祈念館をご紹介します。ウトロを守りぬいた人々の姿を通じて、人権と平和の大切さ、共生の意味を考えてみたいと思います。
ウトロとは何かごぞんじでしょうか。京都府宇治市にある地区の名前で、その歴史は1940年にまでさかのぼります。太平洋戦争中、日本政府が推進した「京都飛行場建設」に集められた在日朝鮮人労働者たちの飯場(はんば)跡に形成された集落で、戦後は在日コリアンが定住しました。長年親しんだ土地でしたが、筆舌に尽くしがたい戦後の生活と差別の象徴としてのウトロ地区、そして強制退去の危機。この壮絶な歴史は後述する「常設展示室」をぜひご覧になっていただきたいと思います。その後、日韓市民社会と政府の支援により「ウトロ平和祈念館」は2022年4月30日に民設民営のミュージアムとして開館しました。
以来、ウトロの歴史はもちろん、人権や平和を訴える博物館として、地元を愛する市民たちはもちろん、同志社大学や立命館大学、龍谷大学などの大学生がゼミやボランティアとして活動されています。
取材した日は、金秀煥(キムスファン)副館長に案内していただきました。「中学生が理解できる」ことがコンセプトの展示内容は、事実や当事者たちの声、活動で使用された実際の物品などを通じて語る姿勢が印象的でした。
逆にいえば、圧倒的なリアリティーを受け取った私たちは、どう考えるのかを問われているような気がしました。展示写真はほぼすべて、長年ウトロを撮り続けているプロのカメラマンのものだそうで、解像度の高い迫力のある報道写真という印象です。
もし、ウトロをごぞんじの方がいるとすれば、2021年8月に起きた放火事件ではないでしょうか。土地問題の住民運動で使った看板など祈念館で展示予定だった資料を狙って地区の倉庫が放火された事件で、当時マスメディアで取り上げられました。被告は実刑判決を受け事件は終わりましたが、顕在化した差別やヘイト(憎悪)の問題は、なお現在進行形です。3階の窓側通路にパネル展示があるのでこちらもぜひ。
この地で生まれ育ったというボランティアの山内さんに写真集で当時の様子を解説してもらっていると、散歩がてらに立ち寄った姉妹のオモニが訪れてこられました。おふたりとも80代とは思えないほどお元気で、水害で悩まされたり、井戸水での生活の苦労を笑い飛ばしながら話してくださました。タイミングが合えば、手作りのチヂミなどを来館者に振る舞われるそう。
普通の人が「こんにちは」と挨拶するところ、ウトロの人々は「ご飯食べたか? 食べていき」というそうです。長年虐げられてきた暗さなど微塵も感じさせない。むしろ自分などよりも圧倒的に人懐こく、陽気な人柄にふれることができるのも、この施設の魅力だと思いました。
■ウトロ平和祈念館
住所:京都府宇治市伊勢田町ウトロ51-43
電話番号:0774-26-9222
アクセス:近鉄京都線「伊勢田駅」下車、徒歩8分
営業時間:10:00〜16:00(火曜日は事前にご予約の団体研修のみ)
休館日:水・木曜日、お盆休み、年末年始
入館料:一般:500円、高校生以下:100円、小学生以下:無料
個人ツアー:一般:1500円、大学の学部生以下:1000円
URL:https://www.utoro.jp
駐車場:9台
今回の「乙な京都™」はいかがだったでしょうか。「行きたかった」というより「行くべき」場所にやっと行けました。とはいえ、ウトロ平和祈念館では音楽ライブや盆ダンス、フードマルシェなどが楽しめるイベント、子どもたちも楽しめる遊び場所やコンテンツも用意されているので気軽に訪れてみてください。私も近いうちに家族で再訪したいと思います。