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【ベトナム】ユネスコ無形文化遺産への登録が決まったばかりのドンホー版画体験に行ってみた

土佐谷 由美

土佐谷 由美

ベトナム特派員

更新日
2026年1月31日
公開日
2026年1月31日
©️土佐谷由美

『地球の歩き方 ガイドブック』でも紹介されている北部の民間版画、ドンホー版画は、2025年12月にベトナムで17番目の遺産として、ユネスコ無形文化遺産に登録されることが正式に決まりました。かつては旧正月の飾られていた縁起物。もうすぐ新年の迎えるベトナムにふさわしい小旅行をご紹介します。

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1.ドンホー版画とは?

ハノイ市街からドンホー村までは車で1時間程度。ハノイ市内から村近くへのバスはないので、現地ツアーを利用するか、車をチャーターしましょう。今回はハノイ在住のメンバーとチャーター便で移動、版画体験は団体で事前予約をしました。

ドンホー村に着いたものの、村の中はいたって普通。特に「ドンホー村にようこそ!」といった看板もなく、知らずに通った人は、ここが有名な芸術村であることがわからない、そんな場所です。かつては家ごとに版木を所有していたそうですが、今では村で伝統的な版画作っているのは、3世帯のみ。今回は、日本の人間国宝にあたる有名な職人、グエン・ダン・チェさんの工房にお邪魔しました。

迎えてくれたのは、チェさんの息子さんのグエン・ダン・タムさん。1974年生まれの21代目。この道35年の大ベテランです。まずは敷地内にある博物館に案内頂き、ドンホー版画の説明を受けます。

ドンホー版画は今から500年ほど前、16世紀頃から始まったと言われていますが、なぜこの地で版画が盛んになったかなど、詳細はわかっていません。戦時中は版画製作が行われず、1945年までに一度途絶えてしまったそうですが、タムさんのお父さん、チェさんが中心となって、1991年に再興されました。元々は縁起物として旧正月に飾られていましたが、今は1年中飾られるようになったといいます。ドンホー版画は製作者個人の名前を入れることはなく、村の文化として大切に守られてきました。

紙は“ゾー”と呼ばれる木の皮を原材料とし、同じバクニン省のドンカオ村やハノイのブオイ村で手作業で作られています。ドンホー版画では、鮮やかな中にも落ち着きのある色が使われていますが、基本色は、赤、黄、緑、黒、白の5色で、どれも天然のものを原材料にしています。それ以外の色は、基本色を上に重ねることで、出していくそうです。色は1日に1色しか乗せることができないため、小さな作品であっても、とても手間暇が掛かる作業。また紙に色が乗りやすいよう、色材にもち米を混ぜているのだとか。製作は1人の職人が、彫師、摺師といった分業制ではなく、全員が全工程できるように修行するです。1人前になるまで、早くても5年はかかるとのこと。博物館の中には、製作の様子がわかりやすくパネルにまとめられており、200年前の版木で作った版画も展示されているなど、ドンホー版画をひと通り知ることができます。

  • ©︎土佐谷由美 ドンホー版画について説明するタムさん。
  • ©︎土佐谷由美 工房敷地内にあるドンホー版画博物館。

2. 版画に描かれている、教訓や風刺が面白い!

ドンホー版画は、敢えて奥行き感を出さない平面的なデザインが特徴で、200もの絵柄があるそうです。今回、タムさんのお話を聞いて、特に面白いと思ったのが、それぞれの絵柄に込められた教訓や風刺についてです。例えば、「ねずみの嫁入り」というタイトルがついているものは、封建時代の風刺。絵にはねずみの他に大きな猫が描かれていて、ねずみは貧乏な庶民、猫は役人を表していて、嫁入りの行列中、静かにしてもらえるように猫に賄賂を渡しているシーンだそうです。

  • ©︎土佐谷由美 ドンホー版画の有名な風刺画。有名な「ねずみの嫁入り」ねずみたちが猫に賄賂を渡している様子が描かれている。

また夫婦の「幸福」と「嫉妬」を表したデザインも。夫が幸せの象徴、ココナッツを妻に分け与え、夫婦関係がうまくいっているシーンを描いたものがある一方、夫が外で女性を作ったことに腹を立て、妻がハサミを振り翳して夫の“大切なもの”を切除しようとしている、男性陣にとっては、何とも怖い版画も。

普段は目にしても、ただ単純に綺麗だな、と思っていたドンホー版画ですが、ひとつひとつのモチーフに込められた話を聞くことで、ベトナムの人たちが昔から大切にしてきたことを感じる有意義な時間でした。

  • ©︎土佐谷由美 左が夫婦円満、右が夫婦間のトラブルを描いたもの。

3.お待ちかね!版画製作体験!

ひと通りドンホー版画について学んだ後は、いよいよ本日のメイン、版画製作体験です。まずは工房で数ある図柄の中から、好きなデザインを選びます。それぞれの版画に描かれた意味を聞いた後なので、家庭円満、子宝、出世柄、ベトナムらしい絵柄、どれにしようか迷いました。絵柄が決まったら、屋外の体験工房に移動します。

体験で行うのは、黒の版画を押す最後の工程です。まずはタムさんが絵と版木の合わせ方を説明しながら、実演してくれます。次に参加者が、タムさんの指導の元、順番にやっていくのですが、これが見た目以上に難しい。いくつもの版木を重ねて、ひとつの絵にしていくので、版木の位置を一定にしなくてはなりません。そのために、版木と紙に目印となる点が2個打たれているのですが、版木が重く片手でバランスを取りつつ、視点と目印を一直線に合わせながら、ブレないように版木を置くのが、素人にとっては至難の技。タムさんの指示に従いながら、おっかなびっくり、最後は度胸で版を押します。版木をひっくり返して、バレンを使って、強く、手早く紙に色を載せていきます。細部までよく刷ったら、紙を版木から勢いよく剥がし、完成です。色が霞んでいたり、ずれてしまうのもご愛嬌。この世にひとつしかない、オリジナルの版画です。もちろん自分で刷った版画は、お持ち帰りすることができます。

  • ©︎土佐谷由美
  • ©︎土佐谷由美

敷地の中には、お土産屋もあり、チェさんの工房で作られた版画を購入することができます。B4サイズ程度で1枚15万ドン(約 900円/額なし)、カードサイズで1枚50000VND(約300円/額なし)。ハノイ市内よりも安く購入することができます。その他、額入りのものやタペストリータイプのものも販売しています。

  • ©︎土佐谷由美
  • ©︎土佐谷由美

ドンホー版画はユネスコ無形文化遺産に登録されるものの、その内容は緊急保護リスト、つまり民間レベルでの保存が難しく、国際的な保護が早急に必要とされているということです。職人不足だけでなく、版画に込められた物語を後世に伝えられる若者の減少や、版木の原料になる木材や色材の入手なども現実問題として起こっているようです。私たち、外国人もベトナムの文化に興味を持つことで、ベトナム人の人たちが、自分たちの文化に誇りを持ち、長く継承していきたいと思ってくれるきっかけになってくれれば良いと思います。

グエン・ダン・チェさんの工房(Tranh Dân Gian Đông Hồ – Nghệ nhân: Nguyễn Đăng Chế)
住所 Thôn Đông Khê, Song Hồ, Thuận Thành, Bắc Ninh
アクセス  ハノイ市街から車で約1時間
体験料 32万VND(約2000円) *要事前連絡
ウェブサイト  http://donghofolkpainting.com  *ベトナム語のみ

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