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著名な現代建築が集積し、建築好きにとってたまらない場所が、フランス北部のノルマンディー地方です。イギリスと海を隔てた国境にある同地方の都市の多くは、第二次大戦において連合国軍とドイツ軍の激戦地となり、大きな被害を受けました。戦後、新たな都市計画の元に町並みが復興したため、結果的に現代建築の宝庫になりました。今回はノルマンディー地方にある町、ル・アーブルとカン郊外のとっておきの建築スポットを紹介します。
ル・アーブルの戦後復興と切っても切れない関係にあるフランスの建築家が、オーギュスト・ペレです。当時の新技術だった鉄筋コンクリートを用いて新しい建築を形作った人物で、戦争により荒廃したル・アーブルの都市計画を担当しました。
ペレの都市計画によりル・アーブルは再建され、再びル・アーブルはノルマンディーの中心都市として復興しました。戦後の都市計画の傑出した例として、2005年には世界遺産にも登録されています。
そのペレが作り上げたル・アーブルの集合住宅の1室が、モデルルームとしてガイドツアーで見学できるようになっています。
室内は、建物が造られた1950年代の様子をイメージさせる博物館のよう。室内の間取りは合理性、経済性、デザイン性が追求され、住む人の要望に沿って柔軟に変更できる造りになっています。
部屋や建物の構造以外にも、家具やグッズなどインテリアを彩る小物も、当時を彷彿とさせます。そして、建物自体は現役で使われている住宅であり、モデルルーム以外の部屋では現在での普段の生活が営まれています。
■アパルトマン・テモワン・ペレ(Appartement témoin Perret)
・住所:181 Rue de Paris 76600 Le Havre
・URL:https://www.lehavre.fr/annuaire/appartement-temoin-perret
ペレの建築群に囲まれた場所に、白い対の円錐型火山のようなコンクリート製の建物があります。ブラジルの建築家であるオスカー・ニーマイヤーがデザインした文化センターです。
2棟ある建物ののうち、1棟が「ル・ヴォルカン(火山)」という名の劇場施設になっており、もう1棟がニーマイヤーの名前を冠した公共のオスカー・ニーマイヤー図書館になっています。
特徴あるデザインは、館内のインテリアにも反映されており、オスカー・ニーマイヤー図書館の中は本棚や読書室などの配置が、円を描くようにされています。
館内はどこもすばらしいのですが、特に目を奪われるのが円錐型建物の直下に展開される大きな吹き抜けと階段です。その吹き抜けをぐるりと囲むように、上階に通路が設けられ、読書スペースが吹き抜けにせり出すように設けられています。
■オスカー・ニーマイヤー図書館(Bibliothèque Oscar Niemeyer)
・住所:2 Place Oscar Niemeyer 76600 Le Havre
・URL:https://www.lehavre.fr/actualites/la-bibliotheque-oscar-niemeyer-inauguree
ドックが並ぶ港湾部分には、フランスの建築家ジャン・ヌーヴェルがデザインしたプール「レ・バン・デ・ドック」があります。館内には屋外の温水50メートルプールに加え、屋内にサウナ、ハマム、フィットネスルームがあり、温泉療法の設備を持ったアクアセンターになっています。2008年に完成しました。
古代ローマの公衆浴場をコンセプトにしていますが、デザインはとても現代的。白で統一された館内は、直線と直角で構成され、無機質で規律のとれた雰囲気のなかに、水の青とランダムに揺れ動く水面が映えます。
大人向けのスペースは白一色ですが、子供向けのプールは一転、カラフルな色使いがされています。レ・バン・デ・ドックは、英テレグラフ紙が選ぶ世界のベスト都市プールで第1位になるなど、そのデザイン性が高く評価されています。
■レ・バン・デ・ドック(Les Bains des Docks)
・住所:Quai de la Réunion 76600 Le Havre
・URL:https://www.vert-marine.info/lesbainsdesdocks/
上記の3ヵ所はル・アーブルでしたが、ここから2ヵ所はノルマンディーのカン周辺にあるスポットです。
カン北西のサン・ジェルマン・ラ・ブランシュ・エルブにある現代出版研究所(IMEC:Institut mémoires de l'édition contemporaine)は、過去に発行された出版物や資料などを保存する国の施設。アルデンヌ修道院の建物を展示スペースや図書館として転用されています。
なかでも目を引くのが、ゴシックの教会建築を図書館へとリノベーションしたもの。アルデンヌ修道院はカン周辺で3番目に大きな修道院でしたが、フランス革命以降は廃され、さらに1944年に第二次大戦の空襲被害を受けて半壊していました。それが現代出版研究所として蘇ったのです。
内装はフランスの建築家ブルノ・ドカリスによる設計で、10万冊の蔵書とその収納を、歴史的建造物と調和させるように配置しています。地下には温度と湿度が一定に保たれた保管庫があり、歴史的に貴重な原本などが保存されています。
カン郊外の北西のコロンベルは、かつてソシエテ・メタリュルジック・ド・ノルマンディー(SMN:Société métallurgique de Normandie)という製鉄所が大規模に広がっていました。最盛期には約6000人の労働者がこの地区で暮らし、学校や文化施設などがありました。
1993年に製鉄所が完全に閉鎖された後は、ほとんどの設備は売却、解体されたものの、残った大ホールをリノベーションし、コワーキングスペースなどを備えた新しい経済活動の拠点とするプロジェクトが進んでいます。
敷地内でまず目に飛び込んでくるのが巨大な冷却塔です。建物の大部分は更地になりましたが、冷却と大ホールは残され、モニュメントのようにかつての歴史を伝えています。冷却塔と大ホールの間には、シテ・ド・シャンティエというコンテナなどを組み合わせた、イベントスペースとして使われる建物が加えられました。
いかがでしたか。フランス・ノルマンディー地方にある町、ル・アーブルとカン郊外のとっておきの建築スポットを紹介しました。2019年夏はギャラリー・ラファイエット、ノルマンディー地方、ノルマンディー・アトラクティヴィテ、フランス観光開発機がコラボして大々的なノルマンディーフェア「Normandie Chérie(愛しのノルマンディー)」も開催中です。目をみはる現代建築を観に、ノルマンディー地方を旅してみませんか。