キーワードで検索
連載最終回はアフリカのチュニジア、イタリアのシチリア島、タイをまわって日本に帰るまでをレポート(写真はチュニジアのカルタゴ遺跡にて)。マルタ空港からは梅田さんと『チュニス・エクスプレス』でチュニジアのチュニスまで移動です。チェックイン・カウンターに並ぶと前にはふたりの乗客が待っていました。もうチェックインの時間ですが、スタッフがいるにもかかわらず、30分間も待機。説明はないし、後ろに並んでいた若者は「なにやっているのだろうね。酒でも飲んでくるよ」と、どこかに行ってしまいました。その状態から更に30分も待たされ、さっきの男たちが酒を飲みながら戻ってきて……「まだ始まっていないのかよ」とあきれ顔。
やっとボーディングが開始されてパスを受け取り、セキュリティを通る際にスキャンしようとすると、先ほど前に並んでいたふたりが私たちを呼び止め「このボーディング・パスは違う日にちが入力されているみたいで通れないよ」と言ってきます。こんなことは今まで一度もないです。スタッフが日にちを入力ミスするとはどうなっているのでしょうか? 私たち4人は再びチェックイン・カウンターに戻って抗議して再発行をしました。
機内に入ったところシートはボロボロ。それだけでなく、トイレに入るとなにか匂うなと思ったら、水が流れませんでした。
そして極めつけは20分早く出発。1時間弱飛んで予定時刻の40分前にチュニスに空港に着いたのでした。
●悪名高いタクシー
チュニジアの首都・チュニスの空港からのタクシーは悪名高く、客待ちしているタクシーは皆ボッてくるのでトラブルが多発しています。これほど問題が多い場合、普通だったら空港(公共施設)側は最初にお金を払うプリペイドタクシーにするものですが、そんな施策もありません。
市内まで行くにはタクシーを使うか、ローカルバスしかないのです。インターネットにあった情報によると、2階の出発ゲートから出れば町中から客を乗せたタクシーが来るのでそれを捕まえれば正規料金で行ってくれるようです。ちなみに町中までは約500~700円らしい。
私たちは到着すると2階の出発ゲートに移動しましたが人混みが凄く、出ようとすると「セキュリティの問題でここは通れない。到着ゲートから出てくれ」と言われました。仕方ない、ボッタクリのタクシーに乗るしかない!
私たちがタクシー乗り場に行くと、ガラの悪そうな運転手たちに囲まれました。そしてタクシーが出発すると運転手が凄むように片言の英語とフランス語を交えながらいろんな理由をつけて2500円払えと言ってきます。昔だったら徹底的に戦っていたのですが、最初からわかっていたのでそんな気も起きません。私たちは抗議したものの悪党運転手は折れません。梅田さんは「メーターがあるのにそれはないだろ。それにそんな金はない」と、1200円に値切りました。
怒りよりも呆れて寂しい思いがしました。運転手もこんなことをしたらチュニジアのイメージを損ねるでしょうに。もしこれ以上、なにか言ってきたら私は怒りが爆発していたでしょう。ホテルに到着して梅田さんが支払います。細かいお金がなかったのでお釣りをもらう必要があります。この悪党運転手、ごまかすに違いない……。また変なことを言ってきたら怒鳴りつけるつもりでしたが、意外なことにスンナリ申し訳なさそうにお釣りを返してくれました。
空港のタクシー運転手が最悪な理由は、空港側がしっかりしていないのと、チュニジアのタクシーが安すぎるのが原因かもしれません。約100円相当でも結構な距離を走ってくれるので市民は気軽に使います。運転手も割が合わないのはわかります。彼らも生活が大変。よって、運転手は外国人から多くお金を取ろうと考える、ひと昔前の発展途上国みたいです。ちなみにウーバーやgrabタクシーはこの国にはないようで、それも使えないのです。
●チュニスの町とカルタゴ遺跡
チュニスは2015年と2019年にテロが発生したせいで観光客が激減。中心街でも欧米人やアジア人はあまり見かけません。町中は警察官がテロを警戒しつつ歩いていてやや物々しさがあり、メディナがあるくらいで特筆すべき観光名所はないです。
私たちは世界遺産のカルタゴ遺跡(冒頭写真も参照)を目指しました。タクシーを使い、30分くらいで到着しましたがガラガラでした。ここでも兵士や警察が警戒していて、遺跡を独占したような気がしました。観光地と言えばローマでは大混雑で辟易したのですが、ゆっくりと堪能しました。
チュニスの町は特に刺激的ではなくどちらかといえば退屈です。が、カルタゴ遺跡と、そのあとに訪れた地中海沿いの“白の町”シティ・ブ・サイドは素晴らしかったです。とくにしっくいのホワイトと海のブルーが美しいコントラストをなす後者は、女性ウケするでしょう。ただ、正直オッサンふたりで行くところではない。私は正直「あまり合わないな」(笑)と思いました。
●パレルモの町は最高
チュニスからシチリア島のパレルモまで飛行機で約1時間かけて移動。パレルモでは長年付き合っている聖子さんと合流しました。彼女は若い時にミラノに留学しており、またその後の仕事でもイタリアに頻繁に通っていてイタリア語が堪能。そして今回はパリに仕事があるとのことで、その前に行ったことのないシチリアに行きたいと私の日程を変更させたのです。
パレルモ、気に入ったので感想を列挙します。
(1)人が優しい
とにかく人が優しくて素朴。聖子さんも「イタリアでこんないい人ばかりいる場所を知らない」と言っていました。レストランではウエイターが「ただ私たちはシチリアを好きになって欲しい、観光客にいい思い出を作ってほしい」とチップを要求することもなくサラリと言ってきます。私ひとりだったら英語のできる人としか会話できませんでしたが、彼女が地元の人と会話して通訳もしてくれたので人のよさを一段と感じたのかもしれません。それにイタリア語がスペイン語、ポルトガル語に少し似ているので、私も相手の言っていることが三割ぐらい理解出来るのも大きかった。
(2)町が美しい
旧市街の石畳、建造物は素晴らしく、海沿いも美しいし、人でごみごみしていない。
(3)治安が良い
滞在して思ったのは治安の良さ。ご存じのとおりシチリアはマフィアで有名なのですが、地元の人に聞いても治安の良さを自慢します。中心街も、駅周辺や一部の地域を除いていたって平和です。
(4)食べ物が最高
シチリアはイワシのパスタが有名で、それに使用するブカティーニというパスタは太めで中が空洞になっています。このイワシのパスタは日本ではあまりメニューにないので、シチリアを訪れたらぜひ食べてほしいです。松の実、アンチョビ、黒コショウ、サフランなどで味付けしたイワシのソースをパスタと合わせ、最後にトーストしたパン粉をまぶします。
私たちが入ったレストランは、「VINO&POMODORO」。
シチリアはワインも有名で、スーパーマーケットに行けば選ぶのに苦労するほどで6ユーロ払えば問題ないです。チーズはたくさんの種類があるし、生ハム、ピクルス、オリーブなどが売られ、ワイン好きにはたまらないです。
ちなみに滞在した3日間、毎晩レストランで食事してスターターからワイン1本、ビール、メインを食べ、ふたりで7000円~9000円でした。東京でこのレベルを食べたらかなり高いので、レストラン巡りだけでも楽しいかもしれません。
(5)気候が最高
私が滞在したのは10月中旬。地元の人にも「今がベストの時期だよ」と言われました。夏は暑すぎて町歩きも大変。10月は観光客がそれほど多くはないし、気温が昼間でもおよそ28~32℃で乾燥していて雨は降らないし、海から適度な風が吹いて気持ちがよいのです。日が暮れると涼しくなり、夕食の時間は上着が必要です。
聖子さんもパレルモが気に入り、数年後、同じ時期に1ヵ月ほど住みたいと切に思ったそう。
●フライトのトラブルふたたび
パレルモを去る日です。朝8時に宿を出てバスで空港まで行きます。聖子さんはミラノ経由でパリ。私はローマ、ドーハを経由してバンコクまで移動です。彼女のフライトは私より1時間ぐらい早いので、本当だったら宿で朝食を食べてから1時間遅く出たかったのですが、「そんな時間に出たら私のフライトが間に合わないかもしれないでしょ」と怒られ、待ち時間が長くなりますが同じ時間に出たのです。でもその判断が正しかったことが後にわかります。
空港に到着し、聖子さんはチェックイン・カウンターに行きました。
私のフライトはスペイン・バルセロナ拠点のLCC『ブエリング航空』。別に私は意識してここを選んだわけではなく、スカイスキャナーでパレルモ→バンコクを検索してカタール航空を選んだらパレルモ→ローマ間がこうなったのです。
カタール航空はこの路線を持っていないので、勝手にこの航空会社にされたのです。実は前日、聖子さんが「ブエリング航空なんて聞いたことない。大丈夫かしら?」と心配していて、とりあえずオンライン・チェックインをしようと思ったら、エラー。このようなことはよくあるのですが、今度はカタール航空の予約サイトを見たら、パレルモ→ローマ間だけ「まだ予約されていません」と記載されていました。私は過去何回も飛行機を予約し、このようなことがよくあったので少し不安があったものの、さして気にしていませんでした。
空港のディスプレイでタイムスケジュールを見ました。ん? ない……。
人間、このような状況をしばらく飲み込めないものです。嘘であってほしいと。自分のフライトが存在しないのです。時間がたったら表示されるかとしばらく見ていましたが点滅しません。キャンセルとなったのならその表示が赤字で出るものですが、それもない!
20年近く前にラオスでこのような経験がありました。この時は旅行会社のミスだったのですが、8時間ぐらい空港内で待って別のフライトで目的地に行くことができました。でも、今はそんな悠長なことは言っておられません。これからローマに行き、3時間のトランジットの後、ドーハ経由でバンコクなのです。
そう思いが及ぶと少し冷静になりました。これは飛ばない可能性大。となると、どんな手段を使ってでもローマに着かないとバンコクまでのチケットも無効になってしまいます。12時のアリタリア航空ローマ行きを見つけたので最悪、これを購入してローマしかない。私は聖子さんに電話してトラブル状況を説明し、チェックインを済ませた彼女がやってきました。私たちはインフォメーションで事情を話したのですが、ブエリング航空のパレルモ→ローマ間の路線は1ヵ月前に廃止になったそうです(!)。
もちろん航空会社からはそのような通知は私に届いていません。係員が言うには、フィレンツェまでのフライトが1時間後にあり、それに乗って、乗り継いでローマまで行く方法もあると言われたのですが、時間がありません。私は12時発のアリタリア航空便ローマ行きを正規料金で購入したのですが、約4万9000円でした……。これは想定外の出費で悔しい。
意気消沈。結果的に聖子さんのおかげで時間的余裕があったので助かったのですが、搭乗口にあるカフェでガックリきました。
「聖子、ちょっとここでは奢ってくれよ。かなりショックだった」
「わかってるわよ。元気だして」
5分後、注文したクラブサンドとカプチーノが運ばれてきました。
運ばれてきてクラブサンドを口に入れると酸っぱい変な味で私の味覚には合いません。気分も最悪だったので思わず「不味い!」と言うと
「私が奢っているのに最後に気分悪くなることを言わないでよ!」
と怒っています。
聖子さんのフライト時間が迫り彼女は先に行ってしまいました。
パレルモの感想は先述していますが、最後にトラブルがあったものの最高でした。ただ、もしイタリア語のできない私がひとりで行っていたらレストランも入りにくいし、どうだったかはわかりません。
●アジアまで帰ってきた
パレルモを発って約18時間後、バンコクに到着しました。ここには20回ぐらい来ているので慣れています。バンコクでは友人と会い、飲み会に参加し、あとは部屋で仕事です。串揚げ屋で、約3500円で飲み、食い放題。満足。
週末にモーチットで開いているウィークエンド・マーケットに行くのを楽しみにしていて、服や雑貨などを買いました。
●パタヤビーチへ
世界一周の最終目的地は、欧米人に人気のパタヤビーチです。ここに訪れるのは19年ぶりです。特にこの町が好きというわけではないのですが、友人がタイ語の勉強で住み始めたので会いに行くのが目的の一つでした。バンコクからはミニバスで450円位。3時間かかりました。安いなと思いましたが、降ろしてもらった場所からホテルまでタクシーを使って、10分の距離で700円です。
そこでは友人の友人も合流してそれなりに楽しみました。ショッピングセンターができているのにびっくり。私はタイに行けば必ず食べる大好物の「MKスキヤキ」(タイ風しゃぶしゃぶの店)にはバンコク含め3回行きました。1600円くらいで満腹になって精神的にも安定します。野菜をたくさん取れるので野菜不足を解消できます。
旅の最終日、朝5時に迎えの車がホテルに来ました。バンコクのドンムアン空港まで2時間で約4500円かかります。
車が走り出しました。昼間は人でごった返している道には人がわずかで、常に暑い熱気を吐き出しているパタヤの空気は涼しい。眠気が襲ってきて、私はゆっくりと目を閉じました。
●ついに世界一周終了
バンコクを出発して6時間半後、成田空港に到着しました。世界一周をした達成感は特になく、「外が暗くて寒そうだな」くらいしか感じませんでした。でも成し遂げたのは事実なので、ツイッターで報告。
総予算は約98万円。内訳は航空券40万円(トラブルでの追加出費込み)、ホテル代23万円、残りは食費や雑費です。
世界一周のコツ&テクニックを少し。私のように50日程度なら、すべての航空券を出発前に購入し、宿の予約はキャンセルが直前までOKのところを選んだ方がよいです。各都市にはそんなに長く滞在しないし、飛行機の移動が中心なので、宿の場所はよく調べ考えて選択することです。
効率よく観光できる場所に宿を取るのは言うまでもないですが、空港までのアクセスが重要。例えば空港バス乗り場が近い所を選ぶ。それはオークランド、ベオグラード、パレルモが該当します。鉄道駅が近い場所はローマが該当。タクシー乗り場が近い場所はポルト、サラエボです。なるべく体力を温存し、わずかなお金で楽になるならそちらを取るほうがいいです。
身の回り品のことを少し。長旅で最も重宝するのは、赤ちゃん用オシリふき(トイレに流せるタイプ)。用足しの際はもちろん、屋台や乗り物の中など、あらゆるシーンで役立ちます。薬は整腸剤を常用。腸は健康の基本です。データ通信は、ルーターや現地SIMカードは利用せずほぼホテルのwifi利用のみでした。衣類は、他のものと合わせて60リットルのバックパックに入る範囲で持っていき、基本手洗い。
世界一周の旅をしている最中は移動が多くて疲れ、長旅だなあと感じたこともありましたが、振り返ると楽しいことが凝縮されていて短かったです。費用はそれなりにかかりましたが、やってみてよかったと心から思いました。旅の間、常に気をつけていたことは身の安全と健康状態でした。幸いなことに両方とも問題なかったです。
今回、4回に渡って旅行記を書かせていただきましたが、これは旅のわずか一部分で、印象に残ったことを厳選して切り取ったものです。臨場感が足りなかったかもしれませんが、旅の楽しさを知る機会に少しでもなったら幸いです。
文:嵐よういち