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2016年8月、「地球の歩き方」初めての南極旅行本として『GEM STONE 南極大陸 完全旅行ガイド』を発行し、併せて「プロが語る南極ツアーの魅力とは?」と題し、ウェブ記事でスペシャル対談を掲載しました。あれから3年以上の月日が経ち、当時の記事をベースに取材・撮影を担当された武居さん、監修・協力の田島さんに内容をアップデートしていただき、改訂版として再掲載することにしました。武居さんと田島さんとの対談を通じて、知られざる最後の目的地、南極大陸の魅力を紹介します。
(茂藤=以下、茂)
武居さんはこれまでに世界各地を旅されて、今回、初めて南極大陸に行かれた訳ですが、南極の第一印象はどうでしたか?
(武居=以下、武)
これまではアルゼンチンのウシュアイア(=南極クルーズの拠点となる町)までは来たことはあったんですが、そこから1000km先にこんなにも素晴らしい世界が広がっているのかって、人生観が変わりましたね。私が生きてきた世界とはすべてが違っていたというか。
(茂)
田島さんは2000年に始めて南極大陸に行かれたそうですが、きっかけは?
(田島=以下、田)
私の場合、10日程前に乗る船が決まったと連絡があって、ウシュアイアまで行くことになったのですが、その当時、ゴム長靴も自分で持っていかなければならなかったので、膝ぐらいまであって、マイナス20度まで耐えられるゴム長靴を東京で調達するのには苦労しましたね。防寒服や手袋とかも。私の乗った船は南米と南極の間にあるドレーク海峡(南米大陸南端と南極大陸の間の海峡)を渡る際、すごく揺れたんです。かなりの覚悟はしていきましたが、船酔いも多少あって、私はこれから南極ツアーの仕事をしていけるんだろうかと、真剣に考えました。自分のことだけで精一杯でしたから、他のお客様のことまで面倒見切れないと思ったんです。
(茂)
海が荒れたのはたまたまだったんでしょうか?
(田)
それが普通なんですね。今思えば、充分に耐えられる揺れだったんですが、初めての経験だったこともあって、不安だったんだと思います。ドレーク海峡を過ぎて、南極半島に近づくと、波が穏やかになってほとんど揺れないんですよ。それで毎日のように南極半島に上陸したものですから、船酔いなど、これまでの嫌なことがすっかり忘れてしまいましたね。あまりの素晴らしさに感動して。
(茂)
南極半島の景色はどうでした?
(田)
今までに見たこともない自然の原風景。汚染されていない、地球上でもっともクリーンな場所であることを、私は体で感じましたね。10数名でゾディアックボートに乗るんですが、上陸する際に使ったり、氷山の周辺をゆっくり周ったりするんです。そこで360度見渡しても、自分達だけしかいないんですよ。空気も澄んでますし、匂いもない。本当にまっさらなピュアなところ。
(茂)
武居さんは初めて南極半島に上陸されて、空気の味は違いました?
(武)
田島さんのおっしゃっていることも分かりますが、最初の寄港地、サウス・シェットランド諸島(ドレーク海峡の果て。これを超えると南極大陸になる)に着くと、まずはペンギンの匂いがしましたね。オキアミの糞の匂いがすごかったんですよ。でも、ペンギンの存在感が伝わってきて相当インパクトはありましたね。
(田)
でもそれも1日くらいで馴れちゃうんですね。ですので、2日目の上陸の際は、全く気にならなくなります。最初だけなんですよ。匂いが気になるのは。
(茂)
武居さんが乗船された時、ドレーク海峡は荒れてましたか?
(武)
その時のお天気にもよるんですが、私の時は揺れなかったですね。でも、帰りはかなり揺れたんで、クルーに訊くと最高の揺れを10とすると4ぐらいだと言っていました。これ以上揺れることがあるのかと、正直、驚きましたね。
(茂)
ドレーク海峡を渡るのにどのくらいかかるんでしょうか?
(田)
1日半くらい。夕方に乗船して、だいたい23時半くらいから揺れ出すんですよ。万一、翌朝も揺れていたら、無理して朝食を摂る必要はないです。
(武)
最初、「いつ氷山が見えるか?」というクイズが船内で出されるんですが、何日の何時頃見えるのか回答用紙に記入し、皆で当て合うんですよ。そんなことしていたものですから、本当に氷山が見えた時は感動しましたね。
(茂)
氷山は動いているんですね。
(武)
そうなんです。氷山は動いているというか、流れているというか?それがドレーク海峡を渡った後くらいに流れてくるんですよ。
(茂)
クルーズ船はどのあたりまで行くんですか?
(田)
通常は南極圏に入る手前あたりが多いですね。もちろん、南極圏に入るコースもありますが。南極大陸に繋がる半島に降り立つというケースが一般的で、その周辺にある小さな島々を巡ることが多いですね。とても美しい風景が広がっています。
(茂)
唐突ですが、南極で不思議なパワーとか神秘的な力とか、感じたことは?
(田)
本当に不思議な出来事ってありますね。船に乗っていると、クジラの群れがグワァーっと押し寄せてきて、まるで我々を大歓迎しているかのようなフレンドリーなオーラを感じるんですよ。
(茂)
クジラの他に何かありますか?
(田)
ルメール海峡っていう狭い海峡があるんですが、断崖絶壁の雪山に朝日がワァーっと反射して光るんですけど、とても神々しくて、我々人間は自然に生かされているんだという感覚が実感として分かるんですよ。
(茂)
人生観が変わってしまうんですね。
(田)
南極半島に上陸し、丘の上に上って、一番上から見える大自然の世界も素晴らしいですね。心が洗われるというか、心の芯まで澄み切ってしまうような世界。現代社会の中で薄汚れてしまったすすが掃われるような、本当にピュアな、頭のてっぺんから足の先まですべてが浄化されるといったイメージ。体のどこかが悪くても、それが正常に戻るような気がしてくる感じです。何か不思議な力が戻させてくれる。
(茂)
武居さんは?
(武)
僕は森が好きなんですが、南極って木がないんですけど、森の中にいるような自然のパワーを感じますね。森の中にいるような生命の力、神秘的なパワーを感じるんです。その場に立つと、写真や言葉だけでは伝わってこない何かを感じるということなんですね。理屈じゃない。
(茂)
ところで、この本の中に、南極半島に上陸してテントを張っている写真がありましたが。
(武)
あれは本当に良かったですね。20時過ぎから上陸して、テントを立てて、それで寝るだけなんですけど、それはそれは貴重な体験でした。目の前に氷河があって、夜、崩れる音が、ドンドンと聞こえてきて。時々、外に出て、満天の星空見て。気持ち良かったですね。
(茂)
ここで氷河について聞きたいんでが、大きな氷河が崩れることってあるんでしょうか?
(武)
この本にも載っていますが、私が撮影した氷河が崩れてきた時の写真がありますよ。突然、ゴォーンと崩れてきて、私は後ろで撮っていたんですが、凄いんですよ。後で船に戻って、ムービーで撮っていた映像を見たのですが、津波みたいな波が押し寄せてきて、震動音がすごい迫力でした。大きなビルが崩れるくらいの衝撃で。
(田)
ゾディアックボートのドライバーは常に危険度を察知して操縦していますので、近寄れる場所というものが良く分かってるんです。
(武)
ところで、氷河は曇ってても綺麗なブルーでした。不純物がないんで、太陽の光を反射してブルーになるんでしょうね。氷河は酒に入れて飲むこともできるんですが、私は飲みました。
(田)
ゾディアックボートにお酒が積まれていて、その場で氷河をコップに入れて、飲むこともできるんですよ。氷河を船に持ち帰って、船内のバーで、バーテンダーにカクテルを作ってもらうこともできますね。
(武)
氷河は本当に透明でしたね。味は……、もちろんおいしかったです。ウィスキーで飲む人もいれば、カクテルで飲む人もいます。
(田)
上陸すると、アザラシとペンギンは必ずいます。ペンギンは匂いますが、アザラシはそうでもないですね。
(武)
日本の水族館では見られない、ペンギンハイウェイが見られます。ペンギンがヨチヨチ歩いて、ルッカリー(=子育てをする場所)まで帰るんですが、そこが道になっているんです。道はピンク色でしたが、それはペンギンのウンチの色なんですね。
(田)
ところで、小高い丘からツアー参加者が滑走するというアクティビティがあるのですが、ここにもハイウェイが出来るんですよ。ソリは使わず、お尻で滑って。あれが最高に楽しいんですね。地表にはふわふわした雪が積もっていますので、お尻でも全然痛くありません。人間が滑っている周辺にもアザラシやペンギンが沢山います。
(茂)
実際に動物にはどの程度近づけるんですか?
(田)
それはガイドラインが決まっていて、ペンギンからは5m以上は離れなければならないんですよ。アザラシからは15m。でも、実際は、上陸すると向こうから寄ってくるので、驚かさないとか、餌を与えないとか、大きな声を出さないとか、っていうのが大事になってきますね。
(茂)
クジラは?
(田)
クジラはいつどこにあわられるか分からないんですが、クジラを追っかけて、ゾディアックボートで2時間くらいぐるぐる回ったりしたこともありますね。
(茂)
天候はどうだったんですか?
(田)
南極大陸には1日に四季があるって言われてるんですよ。晴れたり、曇ったり、雪が降ったり。でも、雨は降りません。
(茂)
田島さんは南極点に行かれたことはありますか?
(田)
南極半島と南極点では、まずは見える光景が違いますね。半島はペンギンをはじめ動物が見られますけど、南極点は360度見渡しても真っ白な世界。南極点には動物はいませんし、生存できないところですので。人間が作った観測所しかありません。南極点には飛行機で行きますが、天候によって遅延はしばしばあります。
(茂)
南極点での感動するポイントは?
(田)
来られる方の一番の目的は南極点に立つことですから、まずはそこに立って、地球を何周かするとか。1911年12月14日にアムンセンが、1912年1月17日にスコットが南極点に到達したという記念碑がありますが、それを見て、彼らの偉業に思いを馳せるとか。南極点には、アムンセン・スコット観測基地というアメリカの大きな施設があります。この本にも書かれていますが。近代的な細長い大きなビルがあって、一歩中に入ると、ここは南極かと思うくらい快適なんですね。
(茂)
中はどうなっているんですか?
(田)
全く普通の一般事務所ビルと変わりません。郵便局、銀行、床屋、病院、体育館、映画館とか、ありとあらゆるものがあります。かなり大きな施設です。雪に埋もれないよう建物の高さを調節できるように造られているんです。一般の観光客は泊まることはできません。万一、急に具合が悪くなったとしても、中の病院は使うことはできません。その場合は、ヘリコプターで戻らざるを得ない。どんなに緊急なことがあっても。
(茂)
そんなことになったら大変なお金がかかりますね。
(田)
ですから、そんな時のために保険があるんですよ。保険は絶対に入っておいた方が良いですね。保険自体は普通の海外旅行傷害保険ですが、誰もが一般的に入るものでOKです。ただし、救援費用が無制限となっているタイプを選ぶ必要があります。でも、私の知る限り、観光客で南極点から緊急搬送された事例はないですね。
(茂)
実際、南極点にはどのくらい滞在できるんですか?
(田)
3時間半くらいですね。南極点の回りを歩いたり、写真を撮ったり、施設の中を見学したりして、日帰りで帰ってくるんですよ。昨年まで、観測基地の中にお土産屋さんがあったんですが、今はクローズされてます。そのお土産を目当てにアメリカ人の観光客なんかは来てたんですけど。
(茂)
ところで、田島さんはアイスマラソンに参加されましたが……。
(田)
南極大陸の中にユニオン・グレッシャーというキャンプ地があって、そこを起点にして南極点に行ったり、ビンソン・マッシフの登山に行く飛行機の中継地点になったりしてるんですが、ここがアイスマラソンの開催地となっています。チリのプンタ・アレーナスから飛行機で4時間半くらいのところです。ちなみに、ここに民間の会社がキャンプ地を設営していて、ここから南極点までは4時間半から6時間くらい。
アイスマラソンの種別はハーフマラソン、フルマラソン、100kmマラソンの3種。リクエストによっては、トライアスロンも可能です。トライアスロンの場合、泳ぐことはできないので、その代わりにカントリースキーが入っています。2013年、日本人グループが完走しています。参加者は世界中から限定50名。その内、日本人は6名で、もちろん全員完走しています。
(茂)
走っていて滑って転ぶことはないんでしょうか?
(田)
新雪が通常10~20cmくらい積もっているんですが、その下は凸凹の氷河です。ユニオン・グレッシャーの周辺は比較的整地されていますが、全体としては凸凹した固い氷河の上、雪上を走りますので、大丈夫です。21kmの周回コースをフルマラソンの場合、2周します。コースには、小旗がところどころに立っているので、迷うことはありません。参加者が50名いますので、所々に人影が見えるんです。何もないですから、視界が良いんですね。3箇所ほどエイドステーションがありますので、何かあっても安心です。簡易トイレもあります。南極は地球上で一番乾燥していて、一番寒くて、一番風が強いところですので、喉も渇くし、風が吹くとめちゃくちゃ寒い。
(茂)
完走した場合、何か証となるものは?
(田)
もちろん、メダルと証明書はもらえます。私はハーフマラソンの女子の部で、日本人初の完走者としてメダル、証明書をもらいました。うれしかったですね。
(茂)
武居さんは、今回のクルーズで船内での楽しみは?
(武)
楽しみですか。最初はすごく不安だったんですよね。同室になる方は外国人だと案内されていましたので。それで10日間は辛いなと思っていましたが、前泊のウシュアイアのホテルで、彼と顔会わせすると、不安はすべて吹っ飛びました。南極に行くという共通の目的があったことが大きかったですね。
(茂)
ちなみにどちらの国籍の方ですか?
(武)
イギリス人の30半ばくらいのけっこう若い人でした。最初、英語にする、スペイン語にすると言われて日本語にしてくれって言うと笑われて。名刺をもらうと、彼はロンドンで旅行会社の南米セクションに勤務していて、南米のスペシャリストでした。私も南米を旅していたので、話は合いました。私が食事の時なんかもよく写真を撮っていたので、その内、他のメンバーが、これも撮れ、あれも撮れと言って和気あいあいになりました。当初、俺は写真は嫌だと言っていた人もいたんですが、最後、船内で写真コンテストをやった際、彼の写真が皆から拍手されて賞を取ったものですから、よかったじゃないかといったら、けっこう喜んでいました。この船にはプロのカメラマンが乗っていて、船内では写真講座なんかもあるんですよ。帰りの船の中で、写真コンテストと俳句コンテストがあって、俳句は日本の俳句で、これを英語で詠むんですよ。自分が旅で感じた感想なんかを詠むんです。動物とか風景とかのテーマがあって、皆で見せ合って、ワァーと拍手して。
(茂)
やっぱり仲間意識ができますよね。
(武)
そうですね。すごくできます。
(茂)
中国人など英語圏以外の方なんかも問題なく交流できたんですか?
(武)
もちろんです。テーブルで毎日一緒でしたから。
(茂)
このツアーの参加者は何人?
(武)
100人くらい。
(茂)
食事はどのように食べられたのですか?
(武)
7~8人のテーブルで食べますね。朝、昼はバイキング。夜はフルサービスです。食事は豪華でおいしいですよ。
(茂)
他にラグジュアリーなサービスは?
(武)
あります。もうすべて。食事はもちろんのこと、外から帰ると、入口でホットチョコレートが出てきたりとか。ホットワインが出てきた時は、ドイツ人が喜んじゃって、こんなサービスしてくれるの~って。船自体の内装も豪華でしたね。
(茂)
英語で不便はありませんでしたか?
(武)
言葉は話せるに越したことはないですが、かならず事前にブリーフィングがあって、大事なことはちゃんと映像で説明してくれるので、問題はありません。毎日、その日のプログラムが貼りだされるので、間違う人はまずいないでしょうね。
(茂)
田島さんはこの本を監修されましたが、何か感想は?
(田)
この本が1冊あれば、ひとり旅でも安心だと思いますね。私の会社でもツアー参加者に冊子を渡しているんですが、ここまでのものはなかなかできないんですよ。一番いいなと思ったのは、地図ですね。日本語で書いてある点、英語が併記されている点も便利です。地図を持って、操舵室に行って、船長に今何処にいるのって、明日は何処行くのって、今まで何処に行ってたのって、マーカーして線を引きながら、尋ねることもできます。ツアー参加者は、現地で地図を貰えるんですけど、全部英語で書かれているので、分からないところもありますが、この本があるとハンディーだし、すごく助かるなって思います。
1日1日がどうなるのかっていうのが良く分かる。非常に細かく書かれている。もちろん、ペンギンの種類であるとか、クジラの種類であるとか、そういったことまで書かれているのがとっても有難い。
(茂)
たとえブリーフィングが英語であっても、この本があれば、いろいろと想像して、言ってることが理解できる。
(田)
もっとページがあれば、歴史のことを書いて欲しかったですね。日本人って、探検家にご縁がないっていうか、学校でも教えてもらえない、昔も今も。もっと日本人の探検家のことを知ってもらい、刺激を受けてもらうことが大切だと思います。日本人の探検家って、意外と海外でも知られていなくて。白瀬中尉がアムンセン、スコットと同じ時期に南極点に向かっていたってことが日本人にとって誇りでもあるんです。
南極ツアーでは、世界中から参加者が集まってきますので、その中で、日本人であることを意識するようになりますし、国民性というのもあらわれます。外国の方が日本に興味を持って質問してきた場合、そういう面でもコミュニケーションのネタになります。南極に行くのであれば、この本は必需品ですね。とにかく写真が素晴らしいんで、これで南極の魅力が充分伝わると思います。
(茂)
実際に南極ツアーに申し込まれている方ってどんな方?
(田)
海外旅行が初めてという方もいらっしゃいます。その方は30代でしたが……。世界各国を周っていらっしゃる方ももちろんいますし、7大陸の最後に南極大陸に行かれる方もいらっしゃいます。でも、新婚旅行の方が多いように思います。
(武)
実際、私が参加したツアーでもアメリカ人の新婚カップルがいましたね。
(田)
かなりいますよ。新婚旅行で南極に行ったら、もう2度と別かれられない。成田離婚なんてありえない。強烈な体験を共有するわけですから、絶対に別かれられない。絆が深まりますから。新婚旅行で南極点に行かれた方もいらっしゃいましたね。ふたりで1000万円もかけて。中高年で、会社をリタイアされた方もいらっしゃいます。
(茂)
高齢者の方はどのくらいいらっしゃいました?
(武)
けっこういましたね。70代の方もたくさんいました。全体的には、若い人から年配の方まで、いろいろです。
(田)
ファミリーや3世代で参加されいる方もいらっしゃいますね。30代、40代の方でも、お金持ちというよりも、南極に行くために、お金を貯めたという方が多いようです。でも、南極半島に行くのであれば、航空券も含め、トータルで100万くらいで行けますよ。時々、セール価格も出てますので、こまめにトライウエルインターナショナルのホームページをチェック頂ければ、お安いツアーも出ています。若い方でもコツコツお金を貯めれば、南極に行けるんですよ。
(茂)
トライウエルインターナショナルさんのホームページにたびたび出ているわけですね。
(田)
稀に40万円台のツアーも出ていますので、おトク感はすごくあると思います。常にみていれば、掘り出し物は必ずあります。10年くらい前までは、掘り出し物は全くなかったんですね。世界的には南極ツアーのピークが2007-2008年だったんですが、その当時は年間4万6000人が南極に行かれていたんです。それから少し減っているのが現状です。だから値下げも時々あるということです。今は7万人くらいですね。その内、日本人は1000人弱ですが、南極ツアーのことを知らないだけであって、知っていただければ、日本人も相当増えると思います。潜在的なお客さんはかなりいます。そんなに体力が必要なわけではありません。ご自分の体力に合わせて参加できますので、年齢は問いません。80代の方でも参加可能です。女性の一人旅もたくさんいらっしゃいます。そういった面では、まさにこれからの旅ですね。
(田)
1年半くらい前から予約ができる。もちろん早割なんかもありますので、早く申し込まないと、キャビンがなくなっていくというのが現実です。南極に行くには環境省への届出も必要ですので、忘れないでくださいね。
(茂)
最後に、お二人の好きな言葉を聞かせてください。
(武)
僕の場合、「写真は記録なり」です。
(田)
第一次越冬隊員のタロ、ジロの犬ぞりの担当者である菊池徹先生の晩年の言葉。「南極は、限られた人だけが行く場所ではなく、誰にでも開かれるべき地域になる。この場所をやりなさい。そして誰もやらなかったことをやること」ですね。私がこの仕事を始めるきっかとなった言葉でもあります。これからの南極は本当に一般の人たちにも開かれた大陸になっていくと思うんですよね。自然を壊しさえしなければ、いろんなことができる。南極は大きな大陸ですから、思う存分遊びたいと。遊ぶ夢をそこに持っていって、夢をかなえてもらいたい。私は夢をかなえる手助けをしたいなと考えています。
(茂)
武居さんはカメラマンとして世界中を旅されてきた訳ですが、カメラマンとしての南極の感想は?
(武)
特別感ですか? やはり氷河、海、ペンギンですかね。この本の表紙に使われている写真を撮った時ですが、この時はそれほど印象なかったんですけど、本当に周りに何も写ってなくて、ペンギンが1羽歩いていて、踏み跡も全然なかったので、後で見て、これは面白いなと思いましたね。
(茂)
カメラの装備などで何かアドバイスは?
(武)
ゾディアックボートでのクルーズや上陸では大きな荷物を持ち込むのが大変なことと、濡れることがあり防水対策も必要です。私の場合は一眼レフのカメラ2台と、レンズ交換可能なコンパクトタイプのカメラの3台を持って行きました。一眼レフの望遠だとレンズが大きくて重いので、コンパクトのカメラの、フルサイズだと800ミリ相当になるレンズでカバーしました。寒さでバッテリーの消耗が早いので充電がたいへんです。船内にはいくつかコンセントがありますが、ルームメイトとシェアするので、差し込み口が2~3個あるタップを持って行くといいですね。
一眼レフでなくてもコンパクトカメラでももちろん良いショットは撮れます。南極に行くから新しいのを買ってきて、使い方がわからずチャンスを逃す人もいました。使い慣れたものを持って行くのが一番です。広角から望遠までの高倍率のズーム機能のあるレンズなら、風景も動物も撮影できて便利です。
また、天気が良く明るいと液晶画面が見えにくいので、ファインダーがある機種がおすすめです。動画モードを活用するのも楽しいですね。音が入るのでペンギンのルッカリーでは音の記録にもなります。わたしも日本に戻り、画像の編集をしている時に動画を再生したら、気持ちはまた南極に戻りました。記録用のメディアを多めに持っていくのと、サブのカメラもあるとトラブルがあっても安心です。
▽対談者
武居台三さんの略歴
取材・撮影
キューバ革命の年、伊勢湾台風の日に長野県で生まれる。1986年にパキスタンのヒンズーラージ山域の登山を機に写真家を志す。その後フリーランスで雑誌や音楽関係の仕事に従事。1993年に共同で編集プロダクション「グルーポ ピコ」を設立。公益社団法人日本写真家協会会員。
田島和江さんの略歴
監修・協力
世界の辺境地へのツアーを数多く企画。1997年にツアー・オブ・ザ・イヤー(アイデア企画特別賞)を受賞後、連続2年ツアー・オブ・ザ・イヤーに入選。2000年、地球最果ての地、南極に行ったのを機に以後南極ツアーを積極的に展開。極地専門の旅行会社、株式会社トライウエルインターナショナル代表。
司会は、マーケティングプロデューサー 茂藤泰彦が担当。
この記事で使用した写真の著作権は、武居台三、株式会社トライウエルインターナショナル、iStock、株式会社ダイヤモンド・ビッグ社が有しています。
初回掲載:2016年8月29日
地球の歩き方編集部 茂藤泰彦