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2010年にロンドン・マラソンを取材したことがきっかけで、海外を旅してマラソン大会を走るようになりました。とくにハワイ・ホノルルのマラソン大会が好きで、ハーフも含めると14回完走しています。在宅勤務や休校による運動不足やストレス解消のために、最近ランニングを始めた方も多いことでしょう。今は海外渡航が難しい状況ですが、「いつか海外のマラソン大会を走ってみたい!」と思っている方に、その多彩な魅力と、走る際のちょっとしたコツをお伝えします。
ランニング=トレーニングという印象を持っている方は多いことでしょう。でも、旅先で走ること=“旅ラン”はエンターテインメントです。
移動する速度が変わると、視界が開け景色の見え方が変わります。血流が良くなり、交感神経が刺激されるためか、感覚が鋭くなって旅の記憶が4K放送のように鮮明になります。
もちろん、いきなり大会に出る必要はまったくありません。まずはジョギングからでいいのです。11年前、ニューヨークひとり旅の際にセントラルパークを走りました。海外で走ったのは初めてで、確か5月か6月。薫風のなか鼻腔をくすぐった、ホットドッグ用のソーセージを焼く香ばしい匂いを今も覚えています。チチチチ……と鳴く声が聞こえ、芝の生えた地面を見やるとそれが鳥ではなく小さなリスの声だったことも、鮮明に記憶に刻まれています。
観光や町歩きの下見として、朝ジョギングすることもおすすめ。フランス・アルザス地方のコルマールでは、旧市街と「プティット・ヴニーズ」と呼ばれる風光明媚な地区を1時間少々のランでひととおり見て回りました。空気はきれいだし、クルマや人が少なく狭い路地もすいすい。グーグルマップを表示させたスマホ片手にゆっくり流せば迷わないし、見所や有名ショップ、ランチやディナーを楽しみたいレストランの位置確認もできます。
夜はちょっと足を踏み入れにくい、オランダ・アムステルダムの“飾り窓地域”De Wallenを早朝駆け抜けたことも鮮烈な思い出になっています。
海外のマラソン大会は、地域特性を生かした“フェスティバル”だと思います。
例えばパリのシャンゼリゼ大通りやセーヌ川沿いの高速道路を、ホノルルのカラカウア大通りのど真ん中を、文字通り“大手を振って走る”ことができるのです! 道の両脇には地元の応援団がいて、前者であれば「アレアレ~」(Allez Allez=行け、頑張れ!)、後者のゴール近くなら「オールモスト・ゼア!」(Almost There=もう少しだよ!)と背中を押してくれます。プラカードや鳴り物、バンドもあちこちにいて盛り上げてくれます。
毎年9月上旬に行われるフランス・ボルドーのメドック・マラソンは、ブドウの収穫時期前のお祭り騒ぎ。給水所ならぬ“給ワイン所”が設けられ、終盤には牡蠣や牛肉ステーキがエイドで出されます(牡蠣のテーブルにはしっかり白ワインが置いてある)。
それぞれの光景や声援は、今もまぶたの裏に浮かび耳の奥底で聞こえます。
さて大会です。レースに出場するメリットは、タイムやナンバーカード(ゼッケン)、記念Tシャツなどの記録や記念品が残ることと、ジョグや町ランとは比べものにならないスタート前の高揚感、そしてゴール後の達成感!
また、海外の大会ならレース前後に観光が楽しめ、非日常感がタップリ味わえ、ランと合わせての満足度はかなりのもの。国内大会の場合、走り終え着替えて家路につくとそこはもう日常の世界。海外なら、プールでアイシングを兼ねてビールを飲みながらまったりしたり、スーパーマーケットでお土産を探す、地元の料理やお酒をいただく……とお楽しみが続きます。
もちろん、筆者の場合住んでいる東京以外の国内マラソン大会でもそうしたことはできるのですが、“旅してる感”は海外に軍配が上がります。
筆者は2012年に初めて申し込んだ東京マラソンに幸運にも当選して以降、8年連続落選中です。「抽選→落選→落胆」にはもう慣れました。でも、ツアーやエージェントを使えば、ベルリンやニューヨークシティなどの「ワールドマラソンメジャーズ」に自ら出場するのも夢ではありません。もちろんそれなりにお金はかかりますが。
ウィンブルドンにて、ロジャー・フェデラー選手がプレーしたテニスコートで同じ日にテニスをすることはまず無理。でもマラソンなら、トップ選手が少し(?)前に疾風のごとく駆け抜けたそのコースを、自分の足でトレースできるのです。
旅×RUN=FUN! すばらしきかな“旅ラン”。次は2020年末のJALホノルルマラソンに出場予定です。その時までに新型コロナウイルス禍が終息していることを、大会が無事開催されることを、切に祈っています。
海外マラソン大会に出て得た知識をもとに、3つのアドバイスを最後に。
1.海外マラソン・デビューにおすすめの大会
イチ押しは、「ホノルルマラソン・ハパルア」。
毎年4月上旬の日曜日に開催されるハーフマラソンで、ダウンタウンやカラカウア通り、ダイヤモンドヘッド周回路を含め約21kmを走る、“ホノルルマラソンのいいとこ取り”的大会。ホノルル・リピーターならおなじみの場所ですし、ホスピタリティや応援、大会前後の観光、万が一の際の病院と言葉の不安がほぼないこと……など申し分ありません。
※残念ながら2020年4月の大会は中止になってしまいました。
フルマラソンに挑戦するなら、毎年12月上~中旬開催の「JALホノルルマラソン」がいいでしょう。2万5000人前後の参加者のうち半数が日本人です。2019年大会の参加記で詳しく紹介しています。
・URL: https://news.arukikata.co.jp/column/sports-outdoor/Hawaii/Hawaii/HONOLULU/146_009971_1547536429.html?w=146
オーストラリアの「ゴールドコースト・マラソン」も平坦な海岸沿いがコースで、走りやすいです。
デビュー戦には向きませんが、先にも紹介したボルドーのブドウ畑や名門シャトーを巡るメドック・マラソンも絶対のおすすめ。筆者は2回走っています。少々古いですが参加記はこちら。
・URL: http://blog.arukikata.co.jp/guidebook/e_report/2012/09/post_714.html
「ベルリン・マラソン」「アムステルダム・マラソン」は高低差が少なく、タイムが出やすいです。「ロサンゼルス・マラソン」はドジャー・スタジアムからサンタモニカまでのゆるやかな下りコースなので、上り坂が苦手な方におすすめ。
2.42.195kmを走るなら以下の心得を
【 “食料”は十分に用意】初めてフルマラソンを走る場合は、相当な練習を積んだ方以外は5時間以上かかるのではないでしょうか。5時間以上動き続けるには、相当なエネルギー/カロリーが必要です。エイドが充実しているホノルルや仮装飲食フェスのようなメドックは例外ですが、ジェルやバーなどの食料は1時間に1本は補給できるよう携行しましょう。スタート前のバナナ1本は定石で、腹持ちのいいお餅や羊羹を直前に食べるランナーもいます。マラソンは“食べながらするスポーツ”なのです。
【ウォームアップは控えめに、フィニッシュ後はアイシング】スタート前の高揚感からか、ダッシュを繰り返したり、ストレッチングや体操を長時間行うランナーをよく見かけます。でも考えてみてください。スタート後数時間、ずっと動き続けるのです。号砲が鳴ってからいくらでも走れます。終盤歩いてしまうくらいなら、走る前は“極力体力温存”が吉。レース前日の歩きすぎ、観光やショッピングのしすぎにも注意してください。
なお、フィニッシュ後は、プールやお風呂でアイシングをすると痛みや疲労の抜けが格段に早くなります(お湯は筋肉の炎症を加速するので必ず水で冷やす)。疲れたから、とホテルや部屋ですぐ寝てしまい動かないのは最悪の選択です。
【事前の準備をしっかり】ハーフマラソンでも21km以上を走ります。練習せずに長距離を走って足や体を痛めてしまっては本末転倒。大会に出ると決めたら、数ヵ月前からしっかり鍛え始めましょう。
練習方法を紹介している書籍やウェブサイトが数多くあります。例えばホノルルマラソン日本事務局では、動画「ホノルルマラソン おうちDEトレーニング」を公開中です。今はなかなか屋外を長時間走れない状況ですので、ぜひご参考に。
・URL: https://www.honolulumarathon.jp/2019/ouchidetrainning/
再び海外を存分に走れる機会が一日も早く来ることを願いつつ、準備をしましょう。
TEXT/PHOTO: 数藤 健(『地球の歩き方』デジタルコンテンツ編集部)
Photo by Ezra Shaw /Getty Images for HONOLULU MARATHON
※2020年~21年の各大会の開催および日程については、公式ホームページでご確認ください。
※当記事は、2020年5月15日現在のものです。