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巨石が建ち並ぶストーンヘンジは、イギリスを代表する先史時代の遺跡で、世界遺産にも登録されています。このような巨大な建造物を古代の人たちはなぜ、どのように造ったのでしょう。ロマンをかきたてる遺跡の謎に迫ります。
ストーンヘンジはロンドンから西へ約120km、イングランド中部のソールズベリ平原に建っている巨大なストーンサークル(石を環状に配置した古代遺跡)です。造られたのは紀元前3000年の新石器時代ですが、当初は円形の土塁の周りに石柱か木柱を並べたシンプルな造りで、現在見られるような巨石が使われるようになったのは紀元前2500年頃になってから。ブリテン島ではちょうど新石器時代から青銅器時代へと移り変わる時期で、エジプトではギザの三大ピラミッドが建てられていた頃にあたります。
ストーンヘンジに使われる巨石はサーセン石と呼ばれる砂岩の一種で、最大のものは35トン以上もありました。サーセン石はストーンヘンジの北約30kmのマールバラ丘陵から運ばれてきたことがわかっています。30kmを運ぶだけでもたいへんな重い石なのに、それを直立させ、さらにその上に横石まで置くことができたという当時の技術力、建造にかけられた労力には驚くしかありません。
ストーンヘンジの中心部にはサーセン石の巨石以外に、ブルーストーンと呼ばれる比較的小さな石も使われています。比較的小さいといっても、ものによっては3トンもあるなど、かなりの重さです。これらの石はストーンヘンジから西に240km以上行ったウェールズのプレセリの丘で採掘されたものです。なぜそんな遠くからわざわざ運んできたのか長い間謎でしたが、ブルーストーンをより詳しく調べてみると、石が切り出された時期とストーンヘンジに運ばれた時期に差があることがわかりました。もともとウェールズの別のストーンサークルに使われていたブルーストーンを、古代の人々が不思議な力が宿っている石と考え、ストーンヘンジに移動させたのかもしれません。
ストーンヘンジが何のために造られたのかという疑問は昔から多くの人々の興味と想像力をかき立ててきました。20世紀に入るまで有力だったのは、ドルイドという古代ケルトの司祭が神殿として建てたという説。アーサー王の伝説では、ドルイドの魔術師マーリンがアイルランドから魔法で石を運び、ストーンヘンジを建てたとされています。しかし、古代ケルト人がイギリスに来たのは、ストーンヘンジが造られた頃よりはるか後の鉄器時代と考えられており、現在ではドルイドの神殿説は否定されています。
ドルイドが造ったという説は否定されていますが、ドルイドよりさらに昔の古代人が神殿として建てたというのは、現在において最も有力な説です。ストーンヘンジが建つ場所は中石器時代から神聖な場所と考えられ、火葬された人骨や、犠牲にされたと思われる動物の骨なども発掘されています。しかし、なぜこの場所にこれだけの規模のものを造ったのかという謎は残されたままです。
また、夏至の日に太陽が昇る場所がヒールストーンという立石とストーンヘンジの中心部を直線で結ぶように配列されており、古代の天文台だったのではないかという説もあります。もっとも、太陽の運行が古代神殿の設計に組み込まれているのは、天体観測が目的ではなく、太陽崇拝の祭祀場だったからとも考えられます。類似する例としては、エジプトにあるアブ・シンベル神殿が、春分と秋分の日に神殿の最奥部にある神像に太陽光があたるよう設計されています。
ストーンヘンジを詳しく見ていきましょう。ストーンヘンジには直径約100mの円形の土塁と堀があり、その中心部に、直径30mほどの環状列石が配置されています。サーセン石でできた環状列石は、現在17基の立石とそこに載せられた5つの横石が残っていますが、もともと30基の立石に30基の横石が載せられるように計画されていました。そのサーセン石の内側にブルーストーンの環状列石が並びます。
さらにその内側にあるのが、ストーンヘンジのなかでも最も目を引くふたつの立石と横石の3つの石からなるトリリトンと呼ばれる石組み。使われているのはサーセン石で、ストーンヘンジのなかでも特に大きく、重い石が使われています。トリリトンは5基ありましたが、現在でも組まれた形で残っているのは3基になります。
ストーンヘンジで最も背の高い立石は、もうひとつの立石と横石が失われていますが、もともとはトリリトンの立石のひとつでした。石の先端に突起があることから、横石は単に上に置かれていただけでなく、穴を空けられ、立石の突起部としっかり接合されていたことがわかります。
トリリトンの内側には馬蹄形に配置されたブルーストーン、さらにその内側には祭壇の石という意味のオルターストーンが置かれていますが、オルターストーンは現在では崩壊した石の下に部分的に埋まっています。
ストーンヘンジというと、中心部のみに注目が集まりますが、その外側にも特徴ある石がいくつかあります。なかでも見落とすことができないのがヒールストーンという立石。円形の土塁と堀は、北東部でアヴェニューと言われる土を盛って造られた道に通じており、ヒールストーンは土塁からアヴェニューを25mほど進んだ所に立っています。夏至の日にはヒールストーンの延長線上から太陽が昇り、ストーンヘンジの中心にあるオルターストーンを照らすように設計されています。
また、ヒールストーンと中心部の間にはスローターストーンという巨石が横たわっています。スローターストーンとは直訳すると「屠殺の石」。この石の上で生贄を殺し、捧げ物にしたのだろうと、後の時代の人が想像したためこのような名前が付けられましたが、実際にはヒールストーン同様、立石だったものが倒れたもので、生贄の儀式などは行われていませんでした。
ストーンヘンジの最寄り駅はソールズベリ(Salisbury)駅。ロンドンのウォータールー(Waterloo)駅から列車でおよそ1時間30分ほどで到着します。世界遺産のバース(Bath)の場合、バース・スパ(Bath Spa)駅から1時間ほどです。
ソールズベリ駅前からストーンヘンジへはストーンヘンジ・ツアーのバスが1時間に1便、6〜8月は30分に1便あるので、これを利用するのがおすすめです(所要約20分)。
●ツアーバスのチケット
・バスのみ(£16)
・バス+ストーンヘンジとオールドセーラムのチケット込み(£31.50)
・バス+ストーンヘンジ、オールドセーラム、ソールズベリ大聖堂のチケット込み(£38)
ツアーバスのチケットには上記の3種類があります。
バスのみのチケットではなく、ストーンヘンジのチケットが含まれたものを買ったほうがよいでしょう。ストーンヘンジには訪れる時間によって入場制限があり、このバスツアーでストーンヘンジのチケット込みを購入していれば、ストーンヘンジへの入場が確約されるからです。また、込みのチケットのほうが別々に買うより割安になります。
■ストーンヘンジ・ツアー The Stonehenge Tour
・URL: https://www.thestonehengetour.info
ツアーバスはソールズベリの前身になった都市遺跡、オールドセーラム(Old Sarum)も通るので、一緒に見学できるのもうれしいです。また、ソールズベリ大聖堂は、イングランドで最も高い尖塔をもつゴシック聖堂。現在4部しか残っていないマグナカルタの原本を収蔵していることでも知られており、ソールズベリを訪れるのであればぜひとも見ておきたい場所です。
■オールドセーラム Old Sarum
・URL: https://www.english-heritage.org.uk/visit/places/old-sarum
■ソールズベリ大聖堂 Salisbury Cathedral
・URL: https://www.salisburycathedral.org.uk/
ストーンヘンジのビジターセンターはストーンヘンジと約1.5km離れています。ストーンヘンジを見学するためには、ビジターセンターから無料の連結バスに乗って移動しなければなりません。
ビジターセンターにはストーンヘンジからの発掘品が多数展示されているほか、新石器時代人の家屋が再現されているなど、非常に充実した内容を誇っています。特に360度の画面で見るストーンヘンジの映像は、ストーンヘンジがどのように発展したかがわかるほか、夏至や冬至の日の太陽の動きが再現されるなど、非常に見応えがあります。
2020年9月からは日本の縄文文化とストーンヘンジとの関連性に注目した新企画展示が行われる予定で、どのような展示になるのか、今から興味がつきません。
ストーンヘンジは季節に関係なく一年を通じて楽しむことができます。冬は気温が低くなり、風を遮る場所がないので、ある程度暖かい服装をしておいたほうがよいでしょう。イギリスを代表する遺跡だけあり、特に夏期の土・日曜は混みあうことが予想されます。ストーンヘンジ・ツアーのバスを利用しない場合、チケットは予約制になるので、早めのチケット購入をおすすめします。
夏至の夜から翌日の昼までと冬至の日の朝から昼頃にかけては、ストーンヘンジは無料で開放され、現代に復活したドルイド教徒によって祭祀が行われるなど、何千もの人が訪れ、季節の節目を祝います。
ストーンヘンジはイングリッシュ・ヘリテージ(English Heritage)という団体が運営しており、公式ウェブサイトで予約することができます。チケットは時間制になっており、到着時間を30分刻みで選ぶようになっています。支払いはクレジットカードで、ビザとマスターカードが利用できます。直接窓口での購入や、訪問時間直前の予約は、満員で入れなくなる可能性があるので、早めに予約しておいたほうがよいでしょう。
■イングリッシュ・ヘリテージ English Heritage
・URL: https://www.english-heritage.org.uk/visit/places/stonehenge
ソールズベリの町とストーンヘンジを結ぶバスを運行しているストーンヘンジ・ツアーも公式ウェブサイトで予約できます。ストーンヘンジのチケット込みのタイプは日時の指定は必要なく、バスで到着してすぐの入場が確約されています。支払いはクレジットカードで、ビザとマスターカードが利用できます。
■ストーンヘンジ・ツアー The Stonehenge Tour
・URL: https://www.thestonehengetour.info
ストーンヘンジに限らず、イギリス全般に言えることですが、年間を通して雨が多いので、傘などの雨具を持っていったほうがよいでしょう。また、一般の見学では巨石の間近には近寄ることはできず、少し距離を置いての見学になります。双眼鏡があればより遺跡を詳細に見ることができて便利です。
ストーンヘンジ・ツアーの参加者が覚えておきたいのは、ストーンヘンジからソールズベリに戻るバスの最終便は、ストーンヘンジの閉館時間よりも1時間早いということ。閉館間際まで残っていると、乗り遅れてしまうので、最終便の時間を頭に入れた上で行動しましょう。
ストーンヘンジの基本情報
・住所: Near Amesbury, Wiltshire, SP4 7DE
・営業日: 6/21、12/25をのぞく毎日
・営業時間: 10/17〜3/30 9:30〜17:00、4/1〜5/31・9/1〜10/16 9:30〜19:00、6/1〜8/31 9:00〜20:00
夏至 6/20の一般公開は15:00までで、最終入場は13:00。19:00〜翌8:00は無料で開放される
冬至 12/22の7:45〜10:00は無料で開放される。一般公開は11:30から
※2020年6月2日現在、新型コロナウィルス禍の影響でストーンヘンジは閉鎖中。再開は未定。
・料金: 時期によって異なる 大人£19.50〜22.80 学生£17.60〜22.80
いかがでしたか? ストーンヘンジは、イギリスで多くみられるストーンサークルのなかでも最もよく知られたものです。周囲にはほかにもいくつものストーンサークルがあり、ストーンヘンジと一緒に「ストーンヘンジ、エーヴベリーと関連する遺跡群」として世界遺産に登録されています。エーヴベリーはストーンヘンジから北に約30km。古代遺跡に興味がある人は、ストーンヘンジと一緒に訪れてみてもよいかもしれません。
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◎外務省海外安全ホームページ
・URL:https://www.anzen.mofa.go.jp/index.html