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浜通り、中通り、会津と呼ばれる3つの地方からなり、異なる気候風土を持つ福島県。豊かな自然と温暖な気候を持つ浜通り地方には、2011年の震災から時を経て、ひとつひとつ復興・再生へと向かう人々の姿がありました。シリーズ4回目は、あぶくまの山々に囲まれた高原エリア、葛尾(かつらお)村、川内村、田村市を歩いて行きます。
標高およそ450メートル、あぶくまの山々に囲まれた葛尾村へ。日本の原風景のような、心が癒される豊かな自然に恵まれた葛尾村は、復興に向けての新たな取り組みとして始まった「ツール・ド・かつらお」の開催地としても知られています。美しい葛尾村を走る公道自転車レースが最初に実施されたのは2018年6月。2021年4月には、桜と新緑の風景の中、全国各地から多くのサイクリストが集い、第7回が開催されました。
そんな葛尾村の西部の小高い丘に、愛くるしい約80頭のヤギたちが出迎えてくれる観光牧場「かつらおヤギ広場 がらがらどん」が、2021年5月にオープンしました。約3ヘクタールの広さの牧場では、エサやりや散歩などのふれあい、乳搾りや石けん作りなどの体験、ヤギミルクを使ったジェラートやパンなど、幼稚園児から大人まで、ヤギたちに癒やされながら楽しむことができます。
■かつらおヤギ広場 がらがらどん(冬期12月から3月は休園)
・住所: 福島県双葉郡葛尾村上野川東38-2
・電話: 0240-23-6614
・アクセス: 常磐自動車道、浪江ICを降りて約40分。磐越自動車道、船引三春ICを降りて約25分
・URL: https://www.katsuraoyagi.co.jp/
葉たばこの栽培や畜産といった一次産業が盛んだった葛尾村ですが、避難指示解除後の農業再生に向けて、様々な取り組みが行われています。そんな葛尾村で次に訪れたのは胡蝶蘭(コチョウラン)の栽培施設です。かつらお胡蝶蘭合同会社の杉下さんによると「2018年1月に事業を開始して4年目です。輸入した苗を6カ月ほどで育てて出荷している」のだそうです。地元のなりわいづくりを目的に事業会社を立ち上げて、雇用を創出する役割を担っています。
東南アジアが原産の胡蝶蘭を栽培するのに、ここ葛尾村では「太陽光パネルからの電力を使用していて、年間を通して日中は28℃を上限に、夜間は18℃を下限として温度調整を行っている」のだそうです。「幸福が飛んでくる」という花言葉を持つ胡蝶蘭。ちょうど訪れた時には台湾から苗が届いたタイミングでした。小さな苗がここで育てられて、「ホープホワイト(=希望の白)」というブランド名で全国へと幸福を運んでいきます。
■かつらお胡蝶蘭合同会社
・住所: 福島県双葉郡葛尾村大字落合字菅ノ又148-2
・電話: 0240-37-4380
・URL: https://hopewhite.jp/
・アクセス: 常磐自動車道、浪江ICから車で約35分
*栽培施設での購入は現金のみとなります。現地を訪れる際は事前の確認をおすすめします。
葛尾村から国道399号線を南へと向かい川内村へ。あぶくまの山間にある川内村は、詩人、草野心平(くさのしんぺい、1903年~1988年)がこよなく愛した村として知られています。その美しい自然と村の人々に魅せられた草野心平は、毎年のように訪れては村人と語らい親交を深めていき、1960年には川内村の名誉村民に。その褒賞として贈られた木炭100俵(当時の1俵は約15㎏)のお礼にと、蔵書3,000冊を村へ寄贈したことが文庫建設へとつながったといいます。
「かわうち草野心平記念館」は草野心平資料館と天山文庫の2施設で構成されています。まずは緩やかな坂道を上って資料館へ。館内には、川内村と草野心平に関わりのある数々の資料の展示があります。なかでも草野心平が1960年に東京・新宿御苑に開いた酒場、Bar学校の内観を模して展示されているのが実にユニークです。かわうち草野心平記念館・管理人の志賀さんによると「“学校”という店名にすれば、仲間のみんなが酒場に通いやすくなるから」というのが店名の由来だったそうです。
さらに坂道を上って天山文庫へ。最初に目に入ってくるのは巨大なきのこのような建物です。志賀さんによると「中は書庫になっていて、この酒樽は会津の花春酒造から贈られたもの」だそうです。お酒が大好きだった草野心平らしい書庫といえます。その先にあるのが天山文庫メインの建物で、茅葺き屋根のモダンな木造建築となっています。川内村の村人たちが一木一草を持ち寄ったという村をあげての労働奉仕によって建てられたということもからも、いかに草野心平が村人に愛された存在だったかがわかる気がします。
天山文庫の建物は日本建築の権威、山本勝巳の設計によるものです。居間には川端康成や棟方志功の書が掲げられ、床に映る新緑や紅葉は実に美しいそうです。「紅葉の時期にはたくさんの方々が訪れますが、6月頃からもおすすめです」と管理人の志賀さん。かえるの鳴き声が聞こえる季節に、再訪してみたくなりました。
■かわうち草野心平記念館
・住所: 福島県双葉郡川内村上川内早渡513
・電話: 0240-38-2076
・営業時間: 9:00~16:00
・定休日: 月曜(祝日の場合は開館)
・料金: 一般300円、高校・学生250円、小・中学生150円(資料館と天山文庫の入館料を含む)
・アクセス: 常磐自動車道、常磐富岡ICを降りて30分
・URL: http://www.kawauchimura.jp/page/page000189.html
川内村でもうひとつおすすめなのが、ここ「いわなの郷」。幻の魚といわれるいわなの養殖が行われていて、レストランや釣り堀、コテージが整っています。清らかな水が流れる川内村。かわうち草野心平記念館からも近くにあり、立ち寄りスポットに追加してみても良いのではないでしょうか。
■いわなの郷
・住所: 福島県双葉郡川内村上川内炭焼場516
・電話: 0240-38-3511
・営業時間: 11:00~16:00(釣堀9:00~16:00)
・定休日: 水曜日
・アクセス: 常磐自動車道、常磐富岡ICを降りて35分
・URL: http://www.abukumakawauchi.com/contents/iwana/intro/
あぶくまの高原エリアで最後に訪れたのは神秘の鍾乳洞「あくぶま洞」。カルスト台地が広がっているこのエリア一帯は、古くから石灰石や大理石の採掘が盛んな場所です。あぶくま洞が発見された1969年当初、今よりもだいぶ小さなものと考えられていたようですが、その後の探索によって内部の調査が進み、いまでは600mの洞内が一般公開されています。ちなみに一般に公開されていないエリアを含めると、総延長はなんと約3,300mといいます。
悠久の歳月をかけた自然の造形美と言われる洞内は、年間を通して15℃前後と一定だそうで、最近では地元産のワインを熟成させるセラーとして使われています。洞内のルートには階段や手すりが整備されていて、入口から出口までは40分ほどの行程となっています。
■あぶくま洞
・住所: 福島県田村市滝根町菅谷東釜山1
・電話: 0247-78-2125
・営業時間: 8:30~17:00(3月上旬~11月下旬)8:30~16:30(11月下旬~3月上旬)*詳細は下記URLのホームページで。
・定休日: 年中無休
・料金: 大人1,200円、中学生800円、小学生600円*障害者割引など特別料金の設定あり。
・アクセス: JR磐越東線、神俣駅よりタクシーで約5分、磐越自動車道小野ICより車で約15分
・URL: https://abukumado.com/
取材・文=植木孝(地球の歩き方)
撮影=森田健一(ビュープランニング)
画像提供:葛尾村役場(*印)
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※当記事は、2022年2月10日現在のものです