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細田守監督の『竜とそばかすの姫』が好調です。同作はカンヌ国際映画祭で今年新設された「カンヌ・プルミエール部門」に選出。日本での公開前日の7月15日に、同映画祭でワールドプレミアとなる公式上映を行いました。カンヌ国際映画祭の感想と今作の意気込みについて、現地カンヌで細田守監督にお話をうかがいました。
細田守監督最新作『竜とそばかすの姫』は、2009年に細田監督が『サマーウォーズ』で描いたインターネット世界を舞台に、『時をかける少女』以来となる10代の女子高校生をヒロインに迎えて展開されるストーリー。母親の死により心に大きな傷を抱えた主人公が、“もうひとつの現実”と呼ばれる50億人が集うインターネット上の仮想世界<U(ユー)>で大切な存在を見つけ、悩み葛藤しながらも懸命に未来へ歩いていこうとする勇気と希望の物語です。
『竜とそばかすの姫』は、18世紀のフランスで書かれた物語『美女と野獣』をモチーフに、それを現代およびインターネットの世界に置き換えて、新たな世界観が作り出されています。第74回カンヌ国際映画祭の公式上映では、14分間のスタンディングオベーションに包まれた注目作です。
──今回もなぜインターネットの世界を舞台にしたのですか?
インターネットには2面性があります。例えば、現実の自分とSNSで作り上げている自分が、乖離していることは多々あるはずです。そういう世界で『美女と野獣』をやることは相性がいいのではないかと思いましたし、現代的なテーマを対象にして、非常に古典的な作品を描くことの対比というか、そこに一種のおもしろさを感じました。
僕はもともと20年前からインターネットの世界を描いています、2000年に『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム』という作品を作り、2009年前には『サマーウォーズ』、そこから約10年経って今回の『竜とそばかすの姫』です。今は限りなくネットの世界が現実に近づいている。そういうなかで僕らの生活や世界の見方も変わった。20年前のインターネット環境と今の環境では大きく違っています(細田監督、以下同)。
──最先端の世界である仮想世界<U(ユー)>と主人公のすずが暮らす高知県は対極のような場所ですが、なぜ高知県を選びましたか?
インターネットの世界というのは世界中の人々が集う中心的な場所ですが、一方で現実は世界の片隅みたいなところを舞台にしたかった。僕にとって高知は好きな県のひとつです。明治維新の一翼を担った場所ということも含めて、鹿児島などとともに一種のファンです。でも実際に行くと少子化と人口減にあえいでいる、日本の現実が詰まっているような場所です。人口も島根や鳥取に続いて日本で3番目に少ない。つまりインターネットのグローバルさと真逆なんです。
今の日本は、大都市への一極集中に対して地方はすごく弱体化している。僕の故郷である富山も、昔と比べて寂しくなった。富山だとコンパクトシティと言って、なるべく市街地を広げず密集させて、インフラを確保しようみたいな取り組みをしないといけないくらい将来に対して危機があるわけです。だから、そういうところで生活するクラスの端っこにいる、そばかすの女の子なんかに僕は肩入れしたくなるんです。
──今作はインターネット世界と現実世界を行き来します。インターネットの場面と高知県の場面では、描き方が大きく変わっていますね。
インターネットの世界はすべてをCGで描き、現実世界は手書きの伝統的なアニメーションで作っています。コンセプトによって技法を変えました。
──CGで描くと人工的な印象になってしまい、作品から感じる温かみがなくなってしまう場合も多いですが。
そういう点では、感情をしっかり伝えられるようにCGで作っていくことは、今回ものすごく苦労しました。CGの技術を使い感情を届かせているアニメーションって、じつは世界全体でも成功している例が少ないというか、どうしても、ぎこちなくなってしまいます。CGで人物が作られているんだけれど生きているように、そこに存在しているように描くということを、高いレベルまで引き上げるのが大変でした。
──今作は産みの苦しみも大きかったのでしょうか?
大きかったです。やはりそこがこの作品のチャレンジですし、失敗したら、こんな堂々と取材に答えられていません(笑)。みんなの努力の甲斐があって、とてもうまくいったので、カンヌという世界を舞台にしたところに持ってきても遜色ないものになって、とてもよかったなと思っています。
──今年のカンヌ国際映画祭への出品が決まったのはいつ頃でしょうか?
この作品が完成するちょっと前の6月下旬くらいです。決まってびっくりしました。そもそも、カンヌのラインアップが発表になったのが6月頃。その時に日本のメディアから「細田さん、作品出すんですか?」ということは聞かれましたが、出すも何もまだ完成していない(笑)。今回ワールドプレミアとしてのカンヌでの公式上映は7月15日、日本での一般公開は7月16日ですが、作品自体はじつは7月5日に完成したばかりなんです。未完成版というか審査員用のものをカンヌに出して、それが公式上映として選ばれるかはまったくわからない状態だった。だから選ばれて驚きました。
──どういう点でカンヌは評価したと思いますか?
カンヌ国際映画祭は作家主義ということなのだと思います。同じくフランスには、アヌシー国際アニメーション映画祭という世界トップのアニメーション映画祭があります。この映画祭には最初からいつも呼んでいただいていているんですけれど、しかしながらアヌシーはアニメーションというジャンルの中での映画祭じゃないですか、それに対してカンヌはアニメーションという枠がない。アニメーション作品をあえて選ぶことは少ないです。そういうなかで、作家主義として僕らの作品を捉えてもらっているのだと多います。
──カンヌとアヌシーで気持ちに違いはありますか?
両方光栄だなと思うんですけれど、アニメーションの映画祭ではないカンヌでは、日本のアニメーション映画に偏見を持つ人はいると思います。アニメーション作品であるということが障害になるかもしれないところを、乗り越えて上映してくれたことへのありがたさはあります。
──2018年には『未来のミライ』がカンヌ国際映画祭の監督週間に出品されました。3年前の監督週間と今回のカンヌ・プルミエール部門で違いは感じますか?
監督週間への出品も光栄だと思ったし、今回のカンヌ・プルミエール部門での公式上映も光栄です。人によっては公式上映が上だと言う人がいて、ステップアップだねと言われたりもしますが、僕は全然そうは思わない。どちらも歴史的には名だたる監督たちが作品を発表していますので、その中に自分たちの作品が加えられたということが、すごくうれしいです。
──細田監督の作品は、ストーリーのなかで空想や仮想の世界に飛ぶことはあっても、基本的には日本を舞台にしています。海外を舞台にした作品は作らないのですか?
これは今回や前回のカンヌ、またはいろいろな映画祭に呼ばれて思うのですが、自分が日本人の監督として日本のアニメ映画を作っている身として、もっとしっかりと日本というものを描いて、日本というものは何かということを理解して、それで映画祭に持ってきて世界の俎上に上げ、世界で起こっていることについてみんなで議論し合うのが、映画祭のひとつの役目だと思うんです。そう考えた時に、日本で起こっている問題というのをきちんと映画で描いていくのが大事だと考えています。
──そう考え出したのはいつですか?
僕は15年前に『時をかける少女』という作品を作りました。当初、海外の映画祭なんて行くなんて思っていなかったのに行っちゃった。だから、作り手としてはちゃんと考えて作らないといけないなと思ったんです。他国の監督たちが、やはり作品で自分の国の行く末とか、自分自身のアイデンティティの置き所みたいなものを、作品としてしっかり撮っているわけじゃないですか。だから、日本人監督として日本を舞台にしたものを作るということは、そうする義務があると勝手に思っています。
──コロナ禍はなかなか落ち着きませんが、もし落ち着いたら行きたい場所はありますか?
それは、まさに今この瞬間のカンヌです。コロナ禍は落ち着いていないんですけれど、コロナ禍になってから映画祭がどこも中止や延期になった。上映も制限があります。映画文化がなくなってしまう危機にさらされています。今年のカンヌ国際映画祭は、開催が中止された昨年を経て、完全ではないけれど復活した。映画文化は途絶えないんだという気概のある場所にやって来ることができて、自分たちの映画を見せて、みんなとともにやるんだというのをアピールすることができてよかったです。
■竜とそばかすの姫
・公開: 2021年7月16日より全国にて公開中
・原作・脚本・監督: 細田守
・企画・制作: スタジオ地図
・製作幹事: スタジオ地図有限責任事業組合(LLP)・日本テレビ放送網 共同幹事
・URL: https://ryu-to-sobakasu-no-hime.jp/
・キャスト: 中村佳穂
成田凌 染谷翔太 玉城ティナ 幾田りら
森山良子 清水ミチコ 坂本冬美 岩崎良美 中尾幸世
森川智之 宮野真守 島本須美
役所広司 / 石黒賢 ermhoi HANA
佐藤健
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※当記事は、2021年7月30日現在のものです